ヒョードルさん のコメント
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相次ぐ若手 MMA ファイターの引退
マーク・ホミニックの現役生活の頂点は 2011 年 4 月、地元カナダ・オンタリオ州のロジャーズセンター、 55,724 人の大観衆の前で、フェザー級チャンピオン、ジョセ・アルドに挑戦した試合だった。序盤はアルドが圧倒したものの、ホミニックが徐々に盛り返す。額に大きなタンコブを作りながら、ホミニックは全力を尽くして最終ラウンドを圧倒、結果はアルドの判定勝ちとなったものの、内容的にはまさにこれまでの努力の集大成といえるできだった。
しかしこのとき、ホミニックの脳裏に、引退の2文字が埋め込まれていた。その 20 ヵ月後、ホミニックは 30 歳で引退を決めた。
「いまの生活を踏まえ、これからどうしていくのかを考えると、これまでのような犠牲を払うことが無理になってきたんだ」とホミニックは明かしている。「連勝中に自分がどんな練習をしていたか、いまの自分にどんな練習ができているのか、ちゃんとわかっている。もはや試合前に 2 ヵ月も家を空けることができなくなった。僕は UFC にぶら下がっているだけの選手にはなりたくないんだ。アルドとか、トップ選手と戦えないなら、ここにいるべきじゃない」
ここ最近、ホミニックのように、トップレベルの MMA ファイターが若くして引退していくという傾向が続いている。 2011 年以降、ホミニック(引退時点で 30 歳)、ニック・デニス(同、 29 歳)、コール・コンラッド( 28 )、トム・デブラス( 30 )らが引退した。ジェイソン・メイヘム・ミラー( 31 )、カイル・キングスベリー( 30 )、ジョナサン・ブルッキンス( 27 )も引退を検討中だと言われている。
195 センチのパワーファイター、コンラッドは、ベラトールの現役ヘビー級チャンピオンのまま、引退していった。農作物商品先物取引の会社でトレーダーとして採用されたことがきっかけとなった。喧嘩屋コンラッドはじつは大学で修士号を獲得しており、それをいかした仕事をしたかったのだ。さらに、つい最近結婚したこと、ベラトールのヘビー級は層が薄く、試合数が少ないこともネックとなった。ベラトールでの 1 年半で、コンラッドは 2 試合しかしていない。
「トレーダーの仕事と格闘技を比較すれば、格闘技は将来性がないという現実を認めざるを得ない。 35 歳になっても 40 歳になっても戦っているのか?その頃に引退して、ろくな職歴もなくて、それでいったいどうするんだ? その年で引退してもやっていけるだけの金が稼げるのか? 人によっては可能かもしれないが、俺の場合は無理だと見たんだ。格闘技だって下手なわけじゃないが、どうも一流選手になるには何か足りないと思ったんだ」
カイル・キングスベリーは 2008 年の TUF シーズン 8 で登場した選手だ。その後 5 年経過したが、 UFC との契約条件は改善していない。前回の試合のファイトマネーは 1 万 2 千ドルだった。金銭的な負担をまかなうため、ここ最近 2 度の合宿は、フルタイムの仕事のかたわらに行った。もちろん、練習時間は足りないし、疲れを癒す時間もない。悪循環が始まっていた。さらにまずいことに、前回の試合では 53 発のパウンドをくらい、左目の眼窩底を骨折した。
キングスベリーが現役生活に疑問を持つようになったのは、グローバー・テイシェイラ戦だった。キングスベリーはそのとき、最高の合宿をこなした。こんなにたくさんのスパーリングはしたことがなかったし、体調もこのうえなかった。しかし、テイシェイラに 2 分弱で片付けられてしまった。「連勝中には調子に乗りがちなんだ。自分のことをすごいと思う。まわりの評判も高まっていく。カネならいくらでも入ってくると思ってしまう。だから、結果が身の丈に合いはじめると、事実をなかなか受け入れがたいんだ」
それだけではない。キングスベリーは昔から、ジムのチームメイトの言葉がハッキリしなくなったり、無意識によだれを垂らしたりしているのを警戒して観察していた。好戦的な自分のスタイルを考えると、自分はどこに向かっているのかと考えざるを得なかった。
キングスベリーに、もはや格闘技を続ける理由はなかった。ただ、公式に引退を表明したわけではない。ジムでの練習は続けるが、頭に打撃を受けるようなスパーリングは行なわない。柔術では茶帯を目指す。父親に追いつくためだ。ヘッドムーブメントを上達させて、簡単に殴られないようになるため、ミットワークもする。同時に、消防士になるという目標も立てた。何ヵ所かに申し込んで、試験を受けるつもりだが、うまくいくかどうかはわからない。だからいまのところ、格闘技から引退するとも発表しない。また戦うこともあるかもしれないのだ。
バイオケミストリーの博士号課程の途中で UFC ファイターに転じたニック・デニスの場合、脳しんとうに関する論文を詳しく調べて行くにつれ、自分が直面しているリスクを深く理解するようになった。デニスにとって格闘技を続けることは、目の前の栄誉や小切手と、長期的な健康の取引であった。
「引退を決めたときには悲しかった。もし、教育がなかったり、ほかに興味のあることがなかったら、格闘技こそすべてだと思い込んでいたかもしれない。でも僕はもう、これは身体に悪いという結論に達してしまったんだ」
デニスはいまでは、 MMA からすっかり離れている。たまに、有名な俳優の名前が出てこないときなどに、すでにダメージを負ってしまっているのではないかと案じることがある。そして、自分がダメージを与えてきた対戦相手やスパーリングパートナーに思いをはせる。「 MMA に賛成できない自分がいる。同時に、人は自分の好きなことをする権利があるとも思う。ただ、リスクを正しく理解すべきだと思う」
若い選手が引退していく理由はさまざまであるが、どこか共通しているのは、健康面、金銭面、あるいは自分自身がどうありたいかとことについてたちこめる、将来への不安感である。引退した選手たちはみな、 MMA での経験はためになったと口をそろえる。キングスベリーは、試合のプレッシャーに比べれば、日常生活の問題など些細なことだと思えるようになったという。ホミニックは、 MMA を通じて親友を得たとしている。デニスも、 MMA は人生の重要な一部分だと述べている。それでも、若い選手たちは MMA を離れていく。
デニスは語っている。「 MMA では毎日、シーズンもなくずっと練習している。すごくたくさんの時間を使う。でも、自分の仕事をボスが見てくれるのは、せいぜい 4 か月おきにたった 15 分だ。それだけですべての評価が決まる。それ以外の努力は全く関係ない。きついトレーニングも関係ない。その上、常に仕事を失う危険がある。家族がいたりしたら、長くは続けられない仕事だと思う。なかには、 MMA ファイターこそ世界最高の仕事だと思っている人もいる。でも、若くて知的な選手がどんどん去って行くということに、どういう意味があると思う?」
(文 高橋テツヤ Omasuki Fight )
(出所)
Mike Chiappetta, For many young fighters, retirement calls early, MMA Fighting, Mar 10 2013, ■ Omasuki Fightによる ロンダ・ラウジー長編コラムが掲載の『Dropkick vol.8』絶賛発売中
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