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MMAを続ける恐怖…目の前の小切手と無意識のよだれ■OMASUKI FIGHT
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MMAを続ける恐怖…目の前の小切手と無意識のよだれ■OMASUKI FIGHT

2013-03-28 12:21
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相次ぐ若手MMAファイターの引退

マーク・ホミニックの現役生活の頂点は20114月、地元カナダ・オンタリオ州のロジャーズセンター、55,724人の大観衆の前で、フェザー級チャンピオン、ジョセ・アルドに挑戦した試合だった。序盤はアルドが圧倒したものの、ホミニックが徐々に盛り返す。額に大きなタンコブを作りながら、ホミニックは全力を尽くして最終ラウンドを圧倒、結果はアルドの判定勝ちとなったものの、内容的にはまさにこれまでの努力の集大成といえるできだった。

しかしこのとき、ホミニックの脳裏に、引退の2文字が埋め込まれていた。その20ヵ月後、ホミニックは30歳で引退を決めた。

「いまの生活を踏まえ、これからどうしていくのかを考えると、これまでのような犠牲を払うことが無理になってきたんだ」とホミニックは明かしている。「連勝中に自分がどんな練習をしていたか、いまの自分にどんな練習ができているのか、ちゃんとわかっている。もはや試合前に2ヵ月も家を空けることができなくなった。僕はUFCにぶら下がっているだけの選手にはなりたくないんだ。アルドとか、トップ選手と戦えないなら、ここにいるべきじゃない」

ここ最近、ホミニックのように、トップレベルのMMAファイターが若くして引退していくという傾向が続いている。2011年以降、ホミニック(引退時点で30歳)、ニック・デニス(同、29歳)、コール・コンラッド(28)、トム・デブラス(30)らが引退した。ジェイソン・メイヘム・ミラー(31)、カイル・キングスベリー(30)、ジョナサン・ブルッキンス(27)も引退を検討中だと言われている。

195センチのパワーファイター、コンラッドは、ベラトールの現役ヘビー級チャンピオンのまま、引退していった。農作物商品先物取引の会社でトレーダーとして採用されたことがきっかけとなった。喧嘩屋コンラッドはじつは大学で修士号を獲得しており、それをいかした仕事をしたかったのだ。さらに、つい最近結婚したこと、ベラトールのヘビー級は層が薄く、試合数が少ないこともネックとなった。ベラトールでの1年半で、コンラッドは2試合しかしていない。

「トレーダーの仕事と格闘技を比較すれば、格闘技は将来性がないという現実を認めざるを得ない。35歳になっても40歳になっても戦っているのか?その頃に引退して、ろくな職歴もなくて、それでいったいどうするんだ? その年で引退してもやっていけるだけの金が稼げるのか? 人によっては可能かもしれないが、俺の場合は無理だと見たんだ。格闘技だって下手なわけじゃないが、どうも一流選手になるには何か足りないと思ったんだ」

カイル・キングスベリーは2008年のTUFシーズン8で登場した選手だ。その後5年経過したが、UFCとの契約条件は改善していない。前回の試合のファイトマネーは12千ドルだった。金銭的な負担をまかなうため、ここ最近2度の合宿は、フルタイムの仕事のかたわらに行った。もちろん、練習時間は足りないし、疲れを癒す時間もない。悪循環が始まっていた。さらにまずいことに、前回の試合では53発のパウンドをくらい、左目の眼窩底を骨折した。

キングスベリーが現役生活に疑問を持つようになったのは、グローバー・テイシェイラ戦だった。キングスベリーはそのとき、最高の合宿をこなした。こんなにたくさんのスパーリングはしたことがなかったし、体調もこのうえなかった。しかし、テイシェイラに2分弱で片付けられてしまった。「連勝中には調子に乗りがちなんだ。自分のことをすごいと思う。まわりの評判も高まっていく。カネならいくらでも入ってくると思ってしまう。だから、結果が身の丈に合いはじめると、事実をなかなか受け入れがたいんだ」

それだけではない。キングスベリーは昔から、ジムのチームメイトの言葉がハッキリしなくなったり、無意識によだれを垂らしたりしているのを警戒して観察していた。好戦的な自分のスタイルを考えると、自分はどこに向かっているのかと考えざるを得なかった。

キングスベリーに、もはや格闘技を続ける理由はなかった。ただ、公式に引退を表明したわけではない。ジムでの練習は続けるが、頭に打撃を受けるようなスパーリングは行なわない。柔術では茶帯を目指す。父親に追いつくためだ。ヘッドムーブメントを上達させて、簡単に殴られないようになるため、ミットワークもする。同時に、消防士になるという目標も立てた。何ヵ所かに申し込んで、試験を受けるつもりだが、うまくいくかどうかはわからない。だからいまのところ、格闘技から引退するとも発表しない。また戦うこともあるかもしれないのだ。

バイオケミストリーの博士号課程の途中でUFCファイターに転じたニック・デニスの場合、脳しんとうに関する論文を詳しく調べて行くにつれ、自分が直面しているリスクを深く理解するようになった。デニスにとって格闘技を続けることは、目の前の栄誉や小切手と、長期的な健康の取引であった。

「引退を決めたときには悲しかった。もし、教育がなかったり、ほかに興味のあることがなかったら、格闘技こそすべてだと思い込んでいたかもしれない。でも僕はもう、これは身体に悪いという結論に達してしまったんだ」

デニスはいまでは、MMAからすっかり離れている。たまに、有名な俳優の名前が出てこないときなどに、すでにダメージを負ってしまっているのではないかと案じることがある。そして、自分がダメージを与えてきた対戦相手やスパーリングパートナーに思いをはせる。「MMAに賛成できない自分がいる。同時に、人は自分の好きなことをする権利があるとも思う。ただ、リスクを正しく理解すべきだと思う」

若い選手が引退していく理由はさまざまであるが、どこか共通しているのは、健康面、金銭面、あるいは自分自身がどうありたいかとことについてたちこめる、将来への不安感である。引退した選手たちはみな、MMAでの経験はためになったと口をそろえる。キングスベリーは、試合のプレッシャーに比べれば、日常生活の問題など些細なことだと思えるようになったという。ホミニックは、MMAを通じて親友を得たとしている。デニスも、MMAは人生の重要な一部分だと述べている。それでも、若い選手たちはMMAを離れていく。

デニスは語っている。「MMAでは毎日、シーズンもなくずっと練習している。すごくたくさんの時間を使う。でも、自分の仕事をボスが見てくれるのは、せいぜい4か月おきにたった15分だ。それだけですべての評価が決まる。それ以外の努力は全く関係ない。きついトレーニングも関係ない。その上、常に仕事を失う危険がある。家族がいたりしたら、長くは続けられない仕事だと思う。なかには、MMAファイターこそ世界最高の仕事だと思っている人もいる。でも、若くて知的な選手がどんどん去って行くということに、どういう意味があると思う?」


(文 高橋テツヤ Omasuki Fight


(出所)

Mike Chiappetta, For many young fighters, retirement calls early, MMA Fighting, Mar 10 2013,

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