レッドさん のコメント
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80年代からコラムやインタビューなどを通して、アメリカのプロレスの風景を伝えてきてくれたフミ・サイトーことコラムニスト 斎藤文彦 氏の連載「斎藤文彦INTERVIEWS」 。マット界が誇るスーパースターや名勝負、事件の背景を探ることで、プロレスの見方を深めていきます! 今回のテーマは AEWチャンピオンベルト盗難事件 です!
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フミ はい、じつはそうなんです。多くのプロレスファンはこの盗難事件をAEWの世界で起きた出来事、つまりネタとして見ていたんですが、実際に盗難事件があったんです。このAEWのベルトは新設されたばかりでクリス・ジェリコがハングマン・ペイジを破って初代王者になりましたが、その試合の翌日にクリス・ジェリコの手元から盗まれてしまったんです。
―― 試合翌日に! となると“プロレスの出来事”と捉えるのは普通というか……。
フミ まずジェリコの王座戴冠の流れから追っていくと、AEWはネットから始まってネット上ですべてが展開されていくという新世代のプロレス団体ですよね。日本のファンからすればケニー・オメガの物語に見えるし、アメリカのマニア層からすればCodyやヤングバックスの物語かもしれない。でも、よーく分析していくと、ここまではクリス・ジェリコの物語だったんです。いまから1年前の2018年9月1日、まだAEWが旗揚げ前にCodyやヤングバックスらが中心となって『ALL IN』という単発のイベントがシカゴで開かれました。メインイベント終了と同時にペンタゴン・ジュニアに変装したクリス・ジェリコが乱入してケニー・オメガを襲撃するというボーナストラックがあった。それからちょうど1年後の2019年8月31日に場所も同じシカゴで、今度はAEWとして『ALL OUT』という興行が開催されました。ここでジェリコがAEWの初代王座に就いたんです。
―― 『ALL IN』の最後に乱入したジェリコが『ALL OUT』でチャンピオンになったと。
フミ つまり、ボクらは『ALL IN』から『ALL OUT』まで、クリス・ジェリコがAEWという新団体の初代チャンピオンになるまでの物語を知らずに見せられていたわけです。もちろんジェリコ以外の物語もあって、シャヒド&トニー・カーン親子という大富豪が現れてAEWのオーナーになり、ケニーたちの新日本プロレス離脱があったり、かつてWCWの親会社でプロレスビジネスの失敗から、もうプロレス番組は放送しないだろうと言われていたTNT(ターナー・ネットワーク・テレビジョン)がAEWの新番組を始めたり、WWEを離れたジョン・モクスリーがAEWに参戦したりしている。そのAEWの番組は10月から毎週水曜日に放映されますが、AEWなんて意識はしてないと公言していたWWEが同時刻に下部組織のNXTのウィクリー番組をぶつけてくるという新たな展開も生じたんです。
―― WWEはAEWをしっかり意識してるということなんですね。
フミ NXTはいままでWWEネットワークの中での1時間番組でしか扱ってなくて、悪くいえばインターネットの動画配信の中に封じ込められていた映像なんですね。それがUSAネットワークの新番組としてAEWと同時刻に勝負すると。90年代はWWEとWCWと月曜テレビ戦争が火花をちらしましたが、今度はWWEとAEWの2020年代バージョンのテレビ戦争が始まるというわけですね。
―― 開戦待ったなし! の状況でベルト盗難事件が起きてしまったんですね。
フミ プロレスの歴史を紐解いていくと、チャンピオンベルトの盗難事件というのはわりと発生していて。ブルーノ・サンマルチノ時代のWWWF世界ヘビー級王座のベルトもニューヨークの街なかで盗難にあってるんです。結局そのベルトは盗まれたきり、二度と戻ってこなかったんです。
―― いまだに誰かが持っているということですか。
フミ それはもう50年も前の事件なんですけど、盗難事件という事実があるかぎり、現物は表には出てこないのでしょうね。WWWFはペドロ・モラレス時代のベルトもじつは盗まれてるんです。そのときは数ヵ月後にニューヨークの質屋で発見されたんですけどね。
―― 質屋で!
フミ お金に困って誰かが質屋に持ち込んだのか、もしくは高く売れると思ったんでしょうね。「本物のプロレスのベルトが質屋にあるぞ」と話題になったことで盗難にあったベルトだと判明したんです。「いつのまに盗まれたのか」でいえば、バーン・ガニアのAWA の2代目ベルトは本部席に置いてあったところを試合中に誰かに持っていかれました。
―― 大胆すぎる盗難事件ですね(笑)。
フミ タイトルマッチが行なわれてるあいだ、ベルトを本部席に置いてていたら、いつのまにかなくなっていた。そんなところから盗むわけがないとみんな思っていて無防備だったんでしょうね。 ややマイナーなベルトでいえば、オレゴンのパシフィック・ノース・ウエストのタッグ王座のベルトが盗まれたときは、テレビ番組内で「ベルトが盗難にあったのでどんな情報でもお寄せください」と告知したことがあったそうです。そのベルトも結局戻ってこなかったんですけどね。数あるベルト盗難事件の中でも最も衝撃だったのは、バディ・ロジャースやパット・オコーナー、ルー・テーズ、ジン・キニスキー、ドリー・ファンク・ジュニア、ハーリー・レイスが腰に巻いた黒革のNWA ベルトも盗難にあってるんです。
―― 由緒あるNWAのベルトが!
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