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ストロングスタイル、Uスタイル、MMA、純プロレス……戦いのすべてを知り尽くした男、船木誠勝が語るシバターvs久保優太! 11000字でお届けします!(聞き手/ジャン斉藤)
――大晦日RIZINのシバターvs久保優太八百長疑惑騒動についてお伺いします。船木さんはこの試合をどのようなかたちでご覧になったんですか?
船木 大晦日のあの日、会場にいました。とある関係者の方と一緒に客席から見てまして。結局、この試合自体がテレビの視聴率のために組まれたものですよね。この試合は別物というか、自分はすごく白けて見てましたよ。シバターさんが勝っても「また去年(HIROYA戦)と同じだな……」っていうふうに見てました。
――船木さんはまるで興味がなかったと。今回の騒動の全体像は把握されてますか?
船木 試合前に2人が電話していたという話ですね。最初はシバターさんがインスタグラムでメッセージを送って、久保選手が返事をしてしまったんですよね。試合する同士がそんなやり取りをしてる時点でまずダメじゃないですか。いままでそういう話って聞いたことないです。ある意味、日本の格闘技界において歴史的な瞬間が起きてしまったような気がしますね。
――八百長の証拠らしきものが表に出てきてしまったわけですもんね。
船木 RIZINって真剣勝負を謳ってるじゃないですか。リアルファイトの中でそういう打ち合わせがあったら、その時点でダメですよね。「リアルファイト(打ち合わせあり)って書いてればOKですけど。「話し合いしても真剣にやりますよ」ってことならばOKです。それがありなんであれば、みんなやればいいと思うんですよ。相手がどんな戦法で来るかわからない。事前の打ち合わせを信じる・信じないはあなた次第じゃなくても、そういうことが面倒くさい人はもう取り合わなければいいし。でも、そこまでしたらみんな試合を見ないですよね。
――みんなが求める真剣勝負の格闘技ではないし、本当に面白く見られるものかといえば、そうではないでしょうね。
船木 自分はそういう試合にまったく興味ないです。最近は試合前の記者会見なんかで選手同士が言い合いするじゃないですか。ああいったやり取りも自分はあんまり信用してないですよね。だって試合が終わったら、健闘を称えてすぐに抱き合うじゃないですか。
――試合前の舌戦がなかったことになることは多いです。
船木 こっちからすると「いままでのあの勢いはなんだったんだろう?」って不思議に思っちゃうんですよね。本当に罵倒してるんであれば、試合が終わっても諦めない。すぐに握手をしたり抱き合ったりはしないと思うんですよ。最近はあえて盛り上げようとして、そういう発言を選手たちがしてるような気がしますね。
――そういうトラッシュトークをやることが、プロとしての評価のひとつになっているところはありますね。
船木 だったら、もっと徹底してほしいなと思いますね。わざとやってるっていうふうな感じになっちゃうので。
――単なるパフォーマンスになっちゃうという危惧ですね。
船木 本当に怒ってるときもあると思うんですけれども。プロレスなんかとくにそうですけど、プロの戦いですから。対戦相手との口喧嘩は付きものですよね。それこそモハメド・アリなんかベラベラしゃべるじゃないですか。でも、アリの試合はリアルファイトですよね。
――しかもアリのトラッシュトークは一流でした。
船木 いまは昔と違ってSNSの中でも選手同士が喧嘩するじゃないですか。そこは現代的だなって気します。昔であれば、パンクラスとリングスも口喧嘩がすごかったですけど。
――90年代の勃発した船木さんや鈴木みのるさんのパンクラスと、前田日明さん率いるリングスの“リング外”抗争ですね。
船木 あの頃はSNSはなかったですから「相手がこんなことを言っていた」という情報は記者や関係者から伝わるんです。昔は雑誌や新聞くらいしか情報を知る手段はなかったですからね。で、それに対する感想を記者の人に伝えたら、前田さんがまたこう返してきたと。最終的に自分は、もうそのやりとりが面倒くさいんで絶縁したんです。
――船木さんのリングス絶縁宣言はそういう経緯なんですね。相手の言い分を聞くのもイヤだし、返すのもイヤだと。
船木 はい。前田さんには「もうしゃべらないでくれ」と思ってましたから。新生UWFが解散して、リングス、Uインター、藤原組の3つに分かれて。自分はその藤原組から離れてパンクラスを始めたじゃないですか。別れたところとは関わりたくなかったですし、何かあったら自分がケツ拭かなきゃいけないですよね。自分の試合に集中したいんで絶縁して区切ったんですけども本当にイヤでした。でも、その当時、前田さんとは新幹線の駅で、ばったり会うことがあって。リングスとパンクラスはすごく仲の悪い状態だったんですけども、挨拶に行けば、前田さんはちゃんと普通に接してくれるんです。
――直接、顔を合わせるとじつは何も起きなかったりしますし、そこはまさしくプロとしての煽り合いだった一面もあったんですね。ただ、前田さんと安生(洋二)さんの因縁は修羅場に発展して。99年11月14日、東京ベイNKホールのUFC日本大会のバックステージで、安生さんが前田さんを後ろから殴って失神させるという。
船木 ありましたね。安生さんは前田さんに対して怒ってましたから。安生さんが何かあったら前田さんをやってやるという噂は出回っていたんですよ。ただ、何か起こるにしても口喧嘩から始まると思ってたんです。バックステージで前田さんが何かインタビューを受けてる姿が見えて、それが終わったら揉めるのかなって構えていたら、安生さんはいきなりバーンと殴って。
――この件でよくパンクラスを交えた陰謀論的に語られがちですけど、各高校の不良が一堂に会することになったら事件が起きないわけがなかったんだろうなって。
船木 自分としては2人が接触しないことがいちばんだったんですけどね。安生さんは前田さんと以前、揉めたときに「家族の前で制裁してやる」と言われたことが引っ掛かったと思うんですよ。
――リングスはUインターとも揉めてましたね。その件はUインター側が脅迫罪で訴えるということで前田さんがいったん謝罪したけど、サムライTVのパーティーで小競り合いがあったり。
船木 いまも口喧嘩はあるのに、なんでこういったトラブルが起きないのかなっていえば、結局YouTubeの再生回数とかでお金が発生するじゃないですか。みんな、そこにわざと乗っかってる気がしますね。お互いにYouTubeありきでやり合ってるみたいな。
――ビジネスとしての喧嘩ですか。
船木 YouTubeをやってる人は、なんにしろ、そっちの方向にくっつける。それですごいお金を稼いでるじゃないですか。だからその部分でちょっと麻痺してるような気がします。
――シバターvs久保はまさにネットで消費されれば救われるという行動原理が事件を複雑化させてるところがありますし……。
船木 他の格闘家や関係者もYouTubeでこの件を語るじゃないですか。自分なんか、正直あの試合はまったく論外なんですよ。それで再生回数を稼ぎたいと思わない。
――こうやって取材があればしゃべるけども、ってことですね。
船木 たぶんこの取材が最後だと思いますし、自分のYouTubeチャンネルのほうへ質問が来たら、それはそれで答えますけども。自分からは「あの試合はどうのこうの」って積極的に話す気持ちにはなれないですよね。ホントにバカバカしいというか。
――しかし、リングスvsパンクラスの時代にYouTubeがあったら大変なことになってましたね。
船木 大変ですよ。それこそ前田さんなんか、カメラを持って殴り込みに行くんじゃないですか(笑)。
――逆にYouTubeでコラボすることで関係が修復したかもしれないですけど(笑)。
船木 いまの時代、怒ったからといって殴り込みとかしないじゃないですか。会ったら即喧嘩という事件なんか起きないんで。だから永遠に口喧嘩がSNSで続くんじゃないですか。それはそれですごい時代なんですけど。
――清算するなら試合で決着を付けるしかないし、もしくは安生さんみたいに本当にやっちゃうしかわけですもんね。安生さんの場合、ヒクソンの道場破りまでやっちゃう人ですし。
船木 安生さんみたいにやっちゃう人が出てきたら、それこそもっと大変なことになりますね。
――話を戻すと、今回のシバターvs久保はネットによって事件が広まるという現代的な展開ですよね。
船木 両者の電話の音声が流出したりとか、すごい生々しい。
――昔から八百長疑惑のかかった試合はありましたけど、証言以外で証拠が出てきたケースってないですし。