西川大和はなぜPFLを選んだのか? マネジメントのシュウ・ヒラタさんが明かす契約の裏側です(聞き手/ジャン斉藤)
――西川大和選手がPFLと契約したことが発表されました。
シュウ はい、サインしました。
――デビュー戦は4月14日ラスベガス。相手のクレイ・コラードはUFC1勝3敗、PFL3勝2敗で元UFC王者のアンソニー・ペティスにも勝っています。西川選手はUFCと契約するも白紙となり、来春以降の再契約を目指してましたが、どういう流れでPFLと契約することになったんですか?
シュウ 簡潔にいえばUFCと再契約できたとしても8月以降、しかもコンデンターズの可能性を含めて流動的なんです。だったらUFCよりファイトマネーがよくて試合数が確保できて、優勝すれば100万ドルも稼げるPFLといったん契約をしようということですね。
――あくまでUFCは契約の可能性があるだけで、最悪待ちぼうけになっちゃうわけですね。
シュウ そうなんです。UFCとしても枠が空いたら契約はするけど、いつになるか「時期」に関しては断言はできないと言われたんですよ。コンテンダーシリーズのスポットを用意できるかも?という話もされたんですが、そこに懸けるのも怖いですよね。
――それすらも取れなかったら時間の無駄になっちゃいますね。幻に終わった契約も、カードの穴が開いたことでの緊急オファーでしたけど、ライト級の枠はけっこうキツキツなんですね。
シュウ 複数回契約を結んでアブダビで試合をしていれば、次の試合も組めていたんですけどね。こうなったときに西川選手といろいろと話し合って、まず試合間隔をそんなに開けたくないと。彼はいままでずっと試合間隔を開けないで戦ってきているので、UFCをただ待ち続けるんだったら来年の夏ぐらいまで試合ができないかもしれないじゃないですか。
――最悪来年まで試合できない。“UFC難民”になっちゃうわけですね。
シュウ 彼はもう拠点を完全にタイに動かしました。次の試合をするまでタイから帰ってこないぐらいの勢いなんですよ。いくらタイの物価が安いとはいえ、それなりにお金はかかるわけですし、いま20歳ですから、試合はやりたいんですよね。1年近くと間隔を開けるのはやっぱり得策ではない。いろいろ話し合った結果、他の団体の可能性を探ろうと。
――そこでギャラもよくて確実に複数回試合を組むPFLが挙がったわけですね。
シュウ 面白いことに神龍(誠)選手や木下憂朔選手もそうだけども、この世代は“UFC中毒”じゃないんですよ。たとえば木下選手は、UFCコンテンダーシリーズの前に、じつはPFLのほうとも交渉してたんです。木下選手本人も「PFLは狙い目ですね」と言ってたぐらいで。第1希望はUFCですけど、うまく話が進まないならPFLに切り替える頭があるってことですね。
――UFCじゃなきゃ絶対にダメではない。つまりUFCコンプレックスがない。
シュウ そうなんです。神龍選手も同じです。じつをいうと、PFLは再来年の2024年に男子のフライ級を始める予定なんです。その計画を聞いた神龍選手は「2024年じゃなくて2023年だったら、全然そっちでもいい」という気持ちがあるってことなんですよね。
――神龍選手も待ちぼうけして、いたずらに時を無駄にしたくないってことですね。
シュウ それにPFLに出ちゃうとUFCはもう目指せないかといえば、そんなことはないですしね。PFLは年間リーグ戦形式のイベントですけど、チャンピオンになったら契約は1年間延長されるんですね。で、翌年もチャンピオンになったらもう1回延長されるだけ。2回以上、契約延長は繰り返せないんですよ。
――どんなに勝ちまくっても実質3年契約ということですね。そこまでいくと200万ドル以上稼いでるから“あがり”に近いですけど(笑)。
シュウ ほとんど全選手が1年契約なんです。けどPFLは1年延長できる権利があるんです。当然優勝したら戻ってきて欲しいですからね。その延長を2回以上することができない。それ以外の細かい部分はここでは明かせませんが。2度延長して、さて、フリーになりたいと思ったら独占交渉期間は3ヵ月間、マッチング期間が6ヵ月あるわけですから、他団体と交渉できるようになるまでには「契約期間」が終わってから、少なくとも3ヵ月間は縛られるんですけど。
――PFLは優勝したら100万ドルはヤバイですよね。
シュウ 優勝するということは1年で4試合やるわけですから。ファイトマネーの詳しい額は言えないですけども、100万ドル+アルファってことなんですよね。これは前からずっと言ってますけど、PFLって選手を集めないといけないから、UFCより高い金額のオファーを出すんですよ。で、西川選手にしても、やっぱりUFCより提示額ははるかにいいんですよね。
――最近のUFCのスタートは1万2000ドル+1万2000ドルですけど、それ以上だと。
シュウ はい、そうです。そして勝ったときのギャランティ、ウィンボーナスのアップ率もUFCよりも良いんです。レギュラーシーズンで2試合。そしてトップ4人がプレーオフに進出して、そこからは全員同じファイトマネーです。準決勝がギャランティ2万5000ドル、ウィンボーナス2万5000ドル。決勝はギャランティ5万ドル、ウィンボーナスが85万ドル。
――ウィンボーナスが85万ドル(笑)。
シュウ ですからプレーオフは2連勝して100万ドルなんです。当然、たとえば、(アンソニー・)ペティスのようなスター選手は、契約金とか、レギュラーシーズンのフィとマネーが準決勝のファイトマネーよりもさらにいいんだと思うんです。そういったかたちでスターたちの契約に関しては、そのようにしてバランスをとっているんだと思います。勝ち抜けば日本円にして1億3000万円以上は稼げるってMMAでもめったにないことですからね。このイベントに出てみようと思うのは普通の感覚だと思います。
――UFCは本契約どころかコンテンダーズすらも流動的で、大金が稼げたうえにUFCの道も開けるっていうことですもんね。
シュウ 優勝しちゃって拘束されたとしても3年終わったら狙えますし、そのときはまだ23歳ですから。PFLはUFCと同じでESPNでオンエアされていて、UFCファンと視聴者は被りますから、そこで活躍している選手はやっぱり取りたくなりますよね。たとえば、PFL女子ライト級で3年いて(2020年はパンデミックでフルシーズンなかったので)2回連続優勝したケイラ・ハリソンはUFCと交渉したけど、結局まとまらなかったじゃないですか。それはUFCが女子フェザー級を廃止する予定だったから、彼女を取ってもしょうがないという決断だと思うんですよ。だけど、西川選手のライト級が廃止されることは、ありえないですからね。
――話をまとめると、試合ができてギャラもいい。プロファイターとしての選択だったということですね。
シュウ そういうことになりますね。これを言っちゃうと悪いですけど、日本のMMA団体のファイトマネーはRIZINさん以外はそこまでよくないですから。それはキャリアに見合った金額かもしれないですけど、どうしてもスポンサーに頼るしかないところもありますよね。でも、プロアスリートとして食ってくんだったら、そのスポーツで稼いだギャラ、プロMMAならファイトマネーだけで食いたいじゃないですか。それにマネジメントとして、どうしても負けちゃったときのことを考えちゃいます。たとえば最近のUFCは2連敗すると、昔みたいにポンって切られるケースも出てきましたから。
――しばらく契約消化コースでしたけど、また違ってきてますね。
シュウ そうするとカムバックが大変ですよね。PFLだと仮に1試合目を落としたとしても、絶対に2試合目はすぐに組まれます。そこで工藤諒司選手のように1試合目で判定で負けても、2試合目にフィニッシュで勝てば、一気にプレーオフに進出できるわけですよ。ケガしないかぎりですけど。工藤選手も1試合目終了後のその日の夜に「次は何月何日で相手は誰々」って言われますからね。負けちゃったとしても次の試合に向けてすぐに試合が組まれるので、選手もリセットしやすいってことですね。
――次の試合はどうなるかわからないケースがほとんどですね。
シュウ あともうひとつ面白い話があって。2ヵ月ごとに試合をするのって減量を含めてなかなかキツイじゃないですか。それもあって大きな減量幅がある選手が少ないんですよ。ライトなら、普段90キロ80キロから落としてくるような選手の割合が少ない。
――あー、トーナメントやリーグ戦向きの身体ってあるんですね。
シュウ 無理に削ってくるんじゃなくて、ある程度維持していかなくちゃいけないじゃないですか。そうなると体格的に劣る日本人も戦いやすい団体だと思うんですよ。西川選手の唯一の不安は、コーチのお父さんが最後の最後まで悩んだんですが、PFLはエルボーがないんです。ベラトールのトーナメントもエルボーがなかったりするんですけど。西川選手の場合、エルボーも多用している選手なんで。お父さんも考えたんですけども、このルールにファイトスタイルをアジャストしていくだけの時間があるということで。
――日本のファンからするとPFLは距離のある団体なんですが、西川選手の参戦で注目度は上がると思います。
シュウ 4月には工藤選手や東陽子選手も出ますから、けっこう話題になりますし、日本人選手が100万ドルを取ったら流れも違ってくると思います。あと女子フライ級もやるんですよ(笑)。
――ハハハハハハ! あの選手に出てもらいたいなあ。
シュウ ボクもですよ(笑)。
――気になるのはUFCが白紙になった理由に、修斗プロモーターのサステインとの契約がありましたが、今回は問題ないんですか。
シュウ サステインの主張だと、今年1月19日まで独占交渉期間があるということですよね。彼らの言い分は、PFLでもどこでも交渉しちゃいけないってことなんですよ。ただ、前にも申し上げたように西川選手本人はサインしていないわけですし、向こうが出してきた契約書の筆跡は彼のものでもなければ、彼が使ってるハンコでもないんですから。違約金200万円を払えと言われてますが、こちらとしては払う義務は全然ないという認識です。結局試合は4月ですから。法的効力は1月19日までですけど、それ以上、何をするんですかって話になりますね。違約金200万円ってことなのかもしれないですけど。またUFCのようにPFLにファックスを送るんですかって感じじゃないですか。とりあえず西川選手は前に進みますので応援よろしくお願いします!<おしまい>
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