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「難解すぎる映画『エイリアン:コヴェナント』の読み方、教えます!<前編>」
その時、ダン・オバノンに対して「俺、SFは全然わからない。でも、『2001年宇宙の旅』だけは好きだ」と話していたとされています。
なんか、もう「そんな映画など知らない」みたいなフリをしているんですね。
これが、なぜなのかっていうのが、今日の話の肝なんですけども。
まあ、今回の『エイリアン:コヴェナント』とか、その1つ前の『プロメテウス』は、もう、誰がどう見ても“リドリー・スコット監督作品”なんですけども。
エイリアンっていうのは、リドリー・スコットにとっては消化不良のようなもので。
「ダン・オバノンが持ってきたものを、カッコよく映像化するために必死で作っていたんだけど、本人としては、いまいちテーマを掴み切れていなかった」というのが、僕の感覚なんです。
ブレードランナーでも、リドリー・スコットは、あくまでも途中で指名を受けて呼ばれた監督なので、テーマを上手く掴み切れていない。
いや、ブレードランナーという作品自体は面白いんですよ?
作っていた当時は、リドリー・スコットなりに、そこにテーマも盛り込んだつもりだと思うんですけど。
でも,この映画の原作は、もともと『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』というタイトルなんですよ。
この「電気羊」というのは何かというと。
あらゆる動物がほとんど死に絶えた後の地球、主人公のデッカードという男は、自分の家の屋上で電気で動く偽物の羊を飼っているんだけども。
彼は、「いつかそれを、ほんの少しだけ残っている、とても高価な、本物の生きた羊に飼い直したい」ということを夢見ているんです。
これが、原作小説 全体に流れているんですよね。
こういった「なぜ、人々は、そんなに“生きている動物”を欲しがるのか?」みたいなエコロジー的な問題が、ブレードランナーの原作の中にはあったんですけども。
リドリー・スコットは、そこをザクッと切ってしまって、「酸性雨が決して止まないロサンゼルス = ものすごい公害の世界」というような、ビジュアルだけでバーッと見せているんですね。
画的なカッコよさはあるけれど、その反面、「なんで雨が降っているのか?」というようなことが、テーマ的な部分にはあんまり繋がっていないんですね。
つまり、ブレードランナーという作品では、リドリー・スコットとしては、テーマを表現し損ねているわけなんですよ。
ところが、この映画の中で語られる人間というのは、二重構造になっているんです。
「人間が、自分たちを創った創造主を他の星に探しに行く」という話にも関わらず、この旅に一緒に連れて行くのが“アンドロイド”なんですね。
アンドロイドというのは、人間が創ったものなんですよ。
つまり、「人間というのは、神様によって創られた存在であり、アンドロイドを創った存在でもある」という、三者の真ん中にいる存在になっているんですよね。
ここでいう人類というのは創造主であるのと同時に、被創造物であるという2つの役割を持っているんです。
そして、今、公開しているコヴェナントというのは、「デヴィッドというアンドロイドが、創造主である人間を殺して新たな生命を創る、つまり、神様になる」というお話なんですね。
みんな、これらが「エイリアンのストーリーとどう繋がるのか?」っていう部分に注目しているし、そういう話だと思っているんですけど。
僕が見るにね、もう、リドリー・スコット監督はエイリアンに繋げることを考えていないんですよ。
というのも、最初に言った通り、彼にとってのエイリアンというのは、あくまで“借りてきた話”だから。
最後にあそこに戻ろうだなんて、絶対に考えないと思うんですね。
それよりも、もっと大事なテーマを見つけちゃったんです。
神と人間の関係の話を描きたいというのが、もう、明らかなんですよ。
すごく期待して映画館に行ったんだけども、「え? これで終わり?」と思って。次に、「じゃあ、この続編のコヴェナントを見れば、わかるのか?」と思ったんだけど、コヴェナントもコヴェナントで、なんかスッキリしないんですよね、正直な話。
なぜかというと、リドリー・スコットが何を描きたいのかが、僕らにはよく見えないからなんですよ。
たぶん、ブレードランナーを撮ってしばらくした時に、リドリー・スコットは「自分の生涯のテーマはあそこにある」って気が付いたんですね。
「俺は2001年みたいなことをやりたいんだ!」と。そして、近年、やっと自分の好きなように映画を作れるようになってきてから、徐々に徐々に、そっちの方向に戻してきた。
ブレードランナーを撮った当時のリドリー・スコットは、エコロジーとか、そういうものに興味がなかったので、原作の持っていたそういった要素を脚本からガバッと抜いちゃったんですけども。
だけど、同時に、物語後半では、「ルドガー・ハウアー演じるロイ・バティが、自分の創造主であるタイレル博士に会いに行き、そして殺す」というシーンを描いているんですね。
やっぱり、ここで描いたこういったテーマが、何年も経ってから、自分の中ですごい強い想いとして帰ってきて、「これを描くしかない!」というふうに思うようになった。
それが現れているのが、『エイリアン:コヴェナント』と『ブレードランナー2049』だと思います。
ところが、神様に会いに行く途中の人間は、冷凍睡眠で寝たきりなんですよね。
それに対して、人間に創られたアンドロイドのデイヴィッドっていうヤツは、自分の創造主が寝ている間、ずっと起きていて、その周りで、楽しそうにバスケットボールをしたり自転車に乗ったりしてるわけですよ。
彼にしてみたら、自分を創造した神様が、みんなグーグー寝ている中で、「早く起きねえかなあ」というふうに待っている。
そういった、「俺の神様、早く起きないかなあ」と待っているデイヴィッドと、「神様に会いに行くんだ!」と思いながら寝ている人間という、この皮肉な状況というのをリドリー・スコットは作っているんです。
……ただ、そんなもん、非キリスト教圏の俺らには伝わらないし、下手したらキリスト教徒のアメリカ人やヨーロッパ人にも伝わってないんですよね(笑)。
なんかね、やるんだったら、もっとハッキリとわかりやすくやらないとダメなのに、リドリー・スコット監督はね、まだまだ照れてるんですよ。
ちょっとずつ、カードをチョイ出ししているんですね。
「神様に会いに行く」もなにも、自分にとっての神様すぐ側にいるし、会話しようと思えばできるわけですよ。
つまり、デイヴィッドは神様を信じる必要がないんですね。
ところが、人間にとっては、神様は見たことも会ったこともない存在だから、「神を信じるのかどうか?」というのが大きな問題になってくるんですよね。
デイヴィッドに言わせれば、「人間って大変ですね。神様を信じるか信じないかで悩んでいる。私達アンドロイドは、あなたたちが“メーカー”だっていうのがわかっているから、不安なんてないですよ」と、すごい穏やかな気持ちでいられるんです。
こういった「不安に煽られている人間と、落ち着いているデイヴィッド」という構図が映画の中にも出てくるんですけど。
これは、ロボットと人間の違いというだけではなく、実は、自らの創造主というのが、手に届く範囲にいるか、噂でしか聞いたことがなく、信じるかどうかという問題であるかという、それぞれの創造主との関係性の差として描かれているんですね。
あれは「神様の声を聞きたがる人達」の話なんですよ。
では、なぜ、神の声を聞きたがるのか?
なぜ、神が近くにいると実感したがるのか?
それは、キリシタンにしてもヨーロッパの宣教師にしても、当たり前ですけど、「神の存在を確信できないから」なんですね。
我々人間は、神様の存在を確信できないからこそ、神の声を聞きたがったり、神様を信じたがったりするんです。
だって、「信じる必要がある」ということは、イコール、「いないことが薄々わかっている」わけですから。
もちろん、リドリー・スコットはイギリス人で、“神様を信じる文化圏”の人なんです。だからこそ、これを自身のテーマとして、なんとか扱おうとしているんですけども。
神様がもし人間の主人だとしたら。
たとえば、『エイリアン:コヴェナント』の中で、人間というのはデイヴィッドのようなアンドロイドを“自分たちが使う便利な道具”として創ったんですよ。
「神様がもし人間を創ったのだとしたら、彼らも、自分たちの道具として、人類を創ったはずだ。なのに、なんで彼らは、今、自分たちの側にいないんだ?」、
「主人のはずなのに、近くで命令してくれないんだ?」、
「なんで神様はこんなに人間に対して無関心なんだ?」という、絶望というか、迷いが、神様を信じる人間にはあるんです。
1つは、プロメテウスから始まる新たなエイリアンのシリーズです。
そして、もう1つがブレードランナーシリーズなんです。
これ、今のうちに言っておきますけども。
僕、この2つの映画シリーズは、将来、交わると思います。
マーべル・ユニバースとか松本零士作品と同じく、リドリー・スコットも79歳になって、自分の作品を交ぜることを始めると思うんですよね(笑)。
ブレードランナーというのは、人間という神様によって便利に創られちゃったレプリカントのお話なんですね。
そして、新しいエイリアンは、神様に捨てられた人類と、エイリアンを創っちゃったアンドロイドとの話なんですよ。
つまり、エイリアンというのはアンドロイドが創ったレプリカントみたいなものですから、これ、実はね、すごい繋がっている話なんですよね。
今 現在、こうやって、1つの同じテーマを、2つのシリーズに展開させているリドリー・スコット監督は、たぶん、これを将来、交ぜるんじゃないかと、僕は思っています。
次号に続く
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