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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/05/31
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今回は、ニコ生ゼミ5月20日(#231)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【『かぐや姫の物語』解説 3 】 男がみんなクズに見えるのは姫の超能力のせい


 「『かぐや姫の物語』に出てくる男って、みんなクズばっかり」と言われてるんですけど、これ、違うんですよ。

 原因は、かぐや姫が魅力(チャーム)というアビリティを持っていることにあるんです。

 そんな能力があるもんだから、周囲の男の行動とか判断の全てを歪ませてしまうんですね。


 僕が昔、小学校の頃に読んだ宇宙論の本があるんです。

 図書館にあった分厚い本で、当時小学校6年生だった僕にとっては難しくて全部は読めなかったんですけども。

 その本に書いてあったことの中で1番面白かったのが “重力場” の説明なんですね。


 「重力場とは何かというと、ゴムでできた薄い膜が教室中の高さ1mくらいの位置に張り巡らせてあると思え」と。

 そこにボーリングの玉をドンと置くと、その重みの分だけ、ゴムの膜はギューンとヘコむ。


 では、その周りにビー玉があったらどうなるか?

 ビー玉は、ゴムの膜のヘコんだ部分に向かって、吸い込まれるように転がり落ちていくだろう。

 
 ビー玉を真っ直ぐに転がそうとしても、ボーリングの玉によって作られたヘコみに沿ってギューンとコースを変えることになる。

 これが、重力場というものだと書いてあったんです。


 つまり、強い力というものは、周りの物を歪ませる効果を発生させるということです。

 かぐや姫も それと同じなんですね。

 人間関係や、周りの人間の欲望とか決心を歪ませる。

 そういった強いチャームの能力を持っている。重力場を強く発してるんですよ。

・・・

 でも、この能力というのは、かぐや姫 のせいじゃないんですよね。

 だから、本人にもどうしようもできないし、制御できないんです。


 これ、たとえて言えば「脇の下からマタタビの匂いが出てる」というのと同じなんですよね。

 もし自分の脇の下からマタタビの匂いがしてしまったら、そりゃ、猫が近くによってきて、始終ニャーニャー言いますよ。

 で、そんなことがずっと続いたら、猫嫌いになって当たりまえですよね。

 「もう、猫はクズばっかり! 私の脇の下ばっかり狙ってる!」って思って当たり前なんですよ。


 でも、それは猫の責任でもなければ、本人の責任でもないんです。

 猫はマタタビの匂いには抗えない。

 それと同じように「基本的に、かぐや姫の魅力には人類は逆らえない」というふうに、このアニメの中では設定されてるんです。


 「理性が強かったら逆らえる」とか、そんな描き方をされてないんですよ。

 「かぐや姫の姿を見たり、もしくは演奏している琴の音を聴いたら、チャームの魔法に掛かってしまうし、それは地上の者である以上は仕方がない」というふうに設定されています。

・・・

 このチャームの能力を証明するシーンがあります。

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 これなんですけど、5枚同じ絵が並んでいるように見えますよね。

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 これは、開始から1時間8分55秒のカットです。
 DVDを持っている人は、後で確認してください。

 この1カット、実に20秒もの間、このまま続くんですよ。

 全く同じで、画面に動きがないように見えますが、実は動いているものがあります。何かというと――

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 わかりにくいんですけど、○をした位置に蝶々が飛んでるんですよ。

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 全く動きが無い画面の中を、蝶々がヒラヒラと飛ぶという、それだけのシーンに丸々20秒も使ってるんです。

 この蝶々というのは何かというと、これ、日本の古典とかに詳しい人だったらわかる通り、『吾妻鏡』に出てくる、“あやかし” が人を化かす時の象徴的な表現なんですね。

 まあ、中国の文学では、幻想、夢幻を象徴するシーンなんですけど。


 吾妻鏡によると、これは「これから何か怪しい現象が起こる」という明確なサインなんです。

 つまり、高畑勲監督としては、この20秒間、蝶が飛んでいるシーンを見せただけで、「この男たちは、今、魔法に掛かりましたよ」という状況を説明できたと思っちゃってるんですよ。

 「そんなこと、日本人だったらわかるだろ?」とばかりに。

 僕なんかは「悪いけど、高畑さん、それ、無理だから」って思うんですけども(笑)。

・・・

 要するに、この瞬間、5人の貴族たちは、かぐや姫のチャームの魔法に掛かっているんです。

 もちろん、噂を聞いた後、かぐや姫のところへ牛車レースで行った時は、単なるスケベ心なんですよ。

 ところが、かぐや姫と会えるとなって、琴の音と肉声を聴いた瞬間に、彼らは魔法に掛かっちゃった。

 そして、その後は、かぐや姫から押し付けられた無理難題に、ひたすら誠意を持って答え続けるハメになります。


 ある者は海中を旅をしたり、ある者は命を掛けてツバメの巣を高い所から拾おうとしたり、ある者は財力の全てを掛けて偽物を作ろうとした。

 偽物を作るのは、やってることはダメなんだけど、ただ、熱意だけはものすごいんですね。


 なぜ、彼らがそんなに熱意を注いだのかと言うと、かぐや姫によってチャームの魔法を掛けられてしまったからなんです。

 いわば被害者なんですよね。

 この蝶のシーンのコンテには、「ものみなくっきりと鮮やかさを増し、まるでLSDか何かの覚醒作用が働いたかのよう」という指示が、ハッキリ書いてあるんですよ。

 高畑さんとしては、「ある種の幻覚作用が働いている」と描いてるんです。

・・・

 貴族たちだけでなく、親代わりのおじいさんについても「かぐや姫の望みを無視して、通俗的な幸せばっかりを押し付けてるクズだ」と言う人もいるんですけども。

 かぐや姫に対するおじいさんの愛情というのも、かぐや姫の幻術の影響の1つなんですよ。

 だから、おばあさんには掛からないんですね。

 
 嫗はかぐや姫のチャームの魔法に掛からないからナチュラルに接することが出来るだけ。

 それに対して、翁の方は、まともにかぐや姫のチャームの魔法にかかってしまったので、タケノコの幸せだけを延々と思ってしまうんです。


 不幸があったとすると、彼女を幸せにしようとした結果、5人の貴族と同じように、自分が思いついた稚拙な方法しかできなくなっちゃっているところです。

 これはなぜかというと、当たり前ですけど、チャームの魔法によって知能指数も下がっちゃってるからですよね。


 「タケノコの幸せだけを願っている」と言いながら、翁がやったことは、かぐやの幸せには直結していないという現象は、マタタビで興奮してる猫がいくら周りによってきても、脇の下がマタタビ臭い人が幸せにならないのと同じですね。


 ちなみに、この幻術は男にしか通じません。

 だから、家庭教師の相模っていう嫌味なおばさんには全く通用しませんし、村の女の子もタケノコに対して一貫してフラットな態度です。


 タケノコの家で雇われている侍女たちも、タケノコに対して態度が変わったりしません。

 男ばかりが変なんですよ。


 「それは、彼女が美人だから」って、アニメを見ている人は、ついつい思っちゃうんですけども。

 この蝶々のシーンを見逃さなければ、何か特殊な能力が発動しているというのがわかります。

・・・

 結果として言えば、『かぐや姫の物語』というのは、「かぐや姫の魔力から捨丸兄ちゃんだけが助かる」という話なんですよね。

 実は、かぐや姫というのは、言い方は悪いけど、捨丸兄ちゃんもチャームの魔法でたらしこんで、「一緒に逃げよう」と言わせることになったんです。


 だけど、一緒に空を飛んで逃げる最中に、後ろからでっかい月が現れて、「バカヤロウ、かぐや姫、見てるぞ!」って感じで、“罰当たり光線” が発射されることになるんですけど。

 それに当たったかぐや姫と捨丸兄ちゃんは「あぁー!」って落ちてしまうんですけども。なんと、月には “時間戻し” の能力まであるんですね。

 結果、記憶はあるんだけど、そんなことはなかったことになってしまいます。


 でも、この駆け落ちは、本当にあったんですよ。

 だから、「かぐや姫がそこにいた」という証拠は残るんです。


 その後、奥さんと子供が近づいてきた時に、捨丸兄ちゃんは慌てて誤魔化して、子供を抱きかかえるんですけども。

 コンテには「妻の目を見ないようにしている。やましい。妻も何か気づいているが、言えない」って書いてあるんですよね(笑)。

 つまり、捨丸兄ちゃんは月の光によって助けられたということなんです。

 そういった、「バンパイアに噛まれずにすんだ」みたいな話になってるんですよね。


 この辺りのかぐや姫の丁々発止の面白さ!

 実は、かぐや姫の「私は私らしく生きたい!」とか、「そんなの私の幸せじゃない!」みたいなセリフから読み取れるテーマと、絵としては何が描かれているのかという部分の両方を見ていると、この『かぐや姫の物語』が持っている、ものすごく複雑な構造がわかってくるんです。

 ここら辺のレイヤー構造を、さすが最後の作品だけあって、高畑さんはメチャクチャ上手く組んでるんですよ。


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