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「【『もののけ姫』の読み方 3 】 モロは本当に人間を憎んでいた?」
傷を負ったアシタカが、モロ達のねぐらで目覚め、外に出る。
すると、ねぐらの上に座っていたモロから話しかけられるというシーンです。
このシーンでモロ達の住処が出てくるんですけど、単なる山犬が住んでいるにしては、ちょっと不思議な感じの場所なんですよね。
このモロのねぐらは、全てが岩で出来ています。
それも、床と天井と壁の部分が、それぞれ巨大な1枚岩で出来ているんです。
床も天井も水平なんですね。その上、横の壁もほぼ同じ角度に傾いています。
ここで、この不思議な岩で作られたねぐらの全貌が見えます。
見て分かる通り、完全に1枚板の水平な岩が上に乗っていて、それを両側の岩が支えている。
床の部分も張り出して、ベランダ状になっているんですよね。
これと同じ形のものを、どこかで見た気がするんです。
大阪府の交野市にある磐船神社の “天岩戸” です。
そうではなく、これは “巨石文明の遺跡” なんですね。
つまり、アシタカ達の集落というのは、そういった巨石文明の末裔なんですね。
それに対して、モロがねぐらにしている場所はというと、劇中では何も解説してくれていないんですけど、こんなに水平な床や天井、全く同じサイズの岩で両側を支えていて、その上に水平な岩が乗ってるような洞窟なんて、自然状態で生まれるはずがないんです。
イギリスにある “ストーンヘンジ” も、大体、これと同じです。
垂直もしくは同じ角度に立てた岩の上に、水平に岩の板を乗せることによって、神様の座を作ろうとしていたんですよ。
これが巨石文明の特徴なんです。
モロ達のような一族というのは、巨大な獣であり、おまけに人の言葉を話すことが出来たので、古代人達から崇められていた。
つまり、本当の神様だったわけです。
なので、神殿を作ってもらって、そこで祀られていたんです。
しかし、今や、そんなモロの神殿には、誰もお詣りに来ない。
これこそが「森が死んでいく」という言葉の意味なんですよ。
なぜかというと、モロは “犬の神様” だからです。
犬というのは、人類にとって、一番 古く、一番 忠実な友なんですよ。
そんな犬の神様だから、もう誰も訪れなくなった神殿に、今もなお、誰かが帰ってくるのを待ちながら、ずっと住み続けてくれているんです。
だから、赤ん坊のサンを育てたんです。
捨てられていた人間の赤ん坊を、わざわざ自分の娘として育てるくらいなんだから、むしろ、人間が好きなはずなんです。
彼女は “人間の行為” が憎いだけなんですよ。
サンを捨てたエボシが許せないだけなんですね。
そこに映し出される “絵” だけを信じてくれれば大丈夫です。
というか、むしろ絵を信じた方が、どんな話なのか分かりやすいと思うんですよね。
この時点でモロは300歳で、乙事主は500歳。
なので、彼らが産まれた時代というのは、中国から日本に稲作や鉄が伝えられ、人々が「森には神様がいる」だなどと信じなくなった時代でもあるんです。
たぶん、自分たちの親とか一族から「昔はそうだった」と言い伝えられて来たんでしょう。
そう思ったからこそ、乙事主たちイノシシは、劇中では “鎮西” と呼ばれた九州から移動していたわけです。
これは “岡山舞台説” の1つなんですけど、僕も、たぶん、そうなんだろうと思っています。
というのも、もし、話の舞台が京都よりも東だったら、乙事主達イノシシの大群が京都を突っ切ったことになるわけですから。
あんな群れが、京都を突っ切れるはずがない。
ジコ坊が天皇から命令されているミッションは、もちろん「不老不死の力があるというシシ神の首を持ち帰る」ということもあるんでしょうけど、なによりも「イノシシ神の大群が、京都に突入してくる前に、最前線である岡山で食い止めろ!」という命令もあったんじゃないかな、と。
だって、巨大なイノシシの群れが京都を横断したら、ただでさえ、室町時代には権威の落ちきっていた、宮崎駿さんの解説によると「当時は自分のサインを売って、その日暮らしをしていた」という天皇家は、もう絶対に潰れてしまうから(笑)。
両者共、全く同じ状況だったんですね。
両者共、自分がタタリ神になりそうなのを抑えているから、余計に苦しいんです。
この痛みを他者への恨みに変えれば、2人共、簡単にタタリ神になれて、楽になるんですよ。
そんなアシタカを見て、モロも「こいつと同じく、この痛みをタタリ神にせずに、ここで一人死んで行こう」と考えていたんだと思います。
……まあ、「エボシの頭だけは噛み砕いてから死ぬ!」とは言ってるんですけど。
つまり、モロは、自分自身の負の感情に負けずに、苦しみに耐えるアシタカを見て「可愛い娘を任せられる男だ」と見たんでしょう。
そうではなくて、モロに怖い台詞ばっかり言わせるから、すごく怖いバアサンみたいに見えちゃうんです。
美輪明宏から「うわあ、そういう役なんですね。……でも、ちっともそれを書かないんですね」と言われた宮崎駿が「そう。書かないんですよ」と、嬉しそうに返すというやりとりが、ドキュメンタリーの中にも収録されています。
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