もう1つ、『2001年宇宙の旅』と、現実の宇宙旅行が、大きく違っちゃった部分があります。
それは、月への行き方です。
『2001年~』の主人公の1人、ヘイウッド・フロイド博士は、月へ行くために、3回乗り物を換えています。
1つ目は、さっきも言った、今はもう倒産しちゃったパンナムの民間旅客機です。
パンナムということは、つまり「なんと、この時代では、宇宙へ行くために、NASAとかそういうところのロケットじゃなく、民間のロケットで行ってますよ」という意味で、映画が公開された当時としては驚きだったんです。
このパンナムのロケットは “オリオン号” と言います。
このオリオン号で、次は宇宙ステーションに行きます。
これが “第1宇宙ステーション” ですね。
こういう構造になっています。
オリオン号が飛んでいて、地球が見える。
第1宇宙ステーションの中にはヒルトンホテルが入っています。
ヒルトンの反対側にはマリオットのゲートがあるから、「ああ、この第1宇宙ステーションに行くと、ヒルトンに泊まるかマリオットに泊まるか選ぶことが出来るんだ」という事がわかります。
この宇宙ステーションからさらに乗り換えて、月に行く時には “エアリーズ号” という月着陸船に乗ることになります。
これ、形を見てわかる通り、大気圏内を飛べないやつですね。
宇宙空間専用の月着陸船に乗って、月に向かいます。
こういった乗り換えは、この映画が企画されていた1964年当時、実際に計画されていたNASAのプロジェクトに基づく未来予測だったんですね。
これが、1952年から60年近くの『コリナーズ』というアメリカの有名な大判雑誌なんですけど、この中に、フォン・ブラウンが中心になって考えていた巨大なロケットの記事があるんです。
『コリナーズ』に載っているのが、これですね。
「こんな超巨大なロケットを打ち上げて、宇宙空間に行って、それで宇宙ステーションにドッキングしましょう」ということを言っていたわけですね。地球から飛ばしたシャトルが、この丸い宇宙ステーションにドッキングします。
そこから先は、また別の号の『コリナーズ』に載ってるんですけど。
こんな巨大な月着陸専門の宇宙船で着陸しようという計画だったんですね。
この宇宙船もかなりデカいです。
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ここでのポイントは「宇宙空間で組み立てること」なんですね。
宇宙空間で月に着陸する専門の宇宙船を組み立てて、それを月へ持って行こうという計画だったんです。
実際にNASAも、そんなふうに計画していたんですね。
これは、当時のプラモデルなんですけど。
当時、宇宙に行く方法はこんなふうに考えられていました。
今、スペースシップワンとかでやっていることに、わりと近いんですけど。
二段式の燃料をいっぱい積んでいる飛行機部分で、空気があるギリギリの高度まで飛んで、そこから先は子機がポンと射出して、宇宙ステーションまで飛んでいく。
そして、宇宙ステーションに、小さい子機だけが合体して、中で乗り換える、というやり方です。
それが終わったら、子機はまた地球へ帰る。
すると、すでに地球に帰って、子機の帰りを待っていた親機と合体して、もう一度、宇宙へ飛び上がる。
地球から宇宙へ行くために、こういったシャトル方式というのが、だいぶ前から考えられてました。
この宇宙ステーションというのも、かなり巨大なんですよ。
どれくらい巨大なのかというと、これって、さっき見せた “月へ行く宇宙船” を組み立てる、専用の宇宙ステーションなんです。
だから、もうこれ工場なんですよ。
1000人くらいが住んでるわけですね。
そういう巨大な宇宙ステーションを考えていたんです。
そんな宇宙ステーションで組み立てるのが、これまた巨大な、月へ着陸する専用の宇宙船です。
これが、フォン・ブラウンが考えていた “ムーンランダー” というやつですね。
デカいです。
どれくらいデカいかというと、この上の丸い部分の中に人が入るんですけども、これの大きさが、ほぼ直径10mくらいのボールだと考えてください。
全長が49m。ほぼ50mです。サターンⅤ型の半分くらい。
こんなものを飛ばそうとしていたんですね。
なぜかというと、これは宇宙ステーションと月の都市を往復して、資材を運ぶためのものだから、なんです。
なので、直径10mくらいのボール状の燃料タンクとか、人間を乗せる部分があるんです。
これが月へ行って、それらのタンクを全て降ろすと、降ろしたタンクの外装が資材となって、月の基地の材料になるんです。
このボール状のものを、そのまま月に半分埋めて、基地として使うわけですね。
そして、このタンクがなくなったガランドウの状態で、また宇宙に上がって行って、宇宙ステーションと合体する。これが、何度も往復すると考えたわけです。
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ちなみに、このムーンランダーには、4本の脚が付いているんですけど、この真ん中にあるやつは、実は “巨大なバネ” なんです。
この1本だけが他の脚より長く伸びていて、着陸して地面に当たる瞬間に、このバネの部分が地面に当たって、グシャッと衝撃を和らげてくれて、ドーンと着陸する。
着陸した後も、みんなこの宇宙船からエレベーター使わないと降りれないという、結構とんでもないものを、フォン・ブラウンは考えてました。
最近になって、ようやっとこのプラモデルが発売されました。
1万円くらいです。わりとパーツの合いが良いんですよね。
宇宙モノのプラモで合いがいいというのは、わりと珍しいんですけど(笑)。
みなさんも、どうぞ買って楽しんでください。
ということで、これがムーンランダーという乗り物で、見てわかる通り、宇宙空間専用なんですよ。
というのも、こいつが地球上に降りてきたら、脚とかが脆くて、とても着陸できない。
地球上に置いたら、自重だけでグチャグチャと崩れてしまうような設計なんですよ。
6分の1の月の重力でようやっと立てる。
つまり、宇宙ステーションで組み立てられる “宇宙の子供” なんですね。
地球から来る宇宙船は、宇宙では頑丈すぎて、要らないんですよ。
アポロの月着陸船ですら、頑丈過ぎるんです。
地球に置いていた時には「壊れやすくて困る」と言われていたんですけど、宇宙ではあんな強度いらないんですよ。
宇宙空間に持って行った時、なんとか成立する程度の強度が一番良いので。
これは、そういう世界での運用を考えられた宇宙船ですね。