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「【 知ってるようで意外と知らない『ムーミン』特集 3 】 ムーミンの中の隠されたエロス」
だけど、夜中に急にお客さんが来た。ドンドンとドアをノックする。
そんな時、ムーミンパパはパジャマからナイトガウンに着替えてドアを開けるんです。
で、ドアを開けて「ああ、〇〇さんでしたか。まあ、中へ入りなさい」と招き入れる時には、「ちょっと待ってください」と言って、ナイトガウンを脱いで素っ裸になって、シルクハットを被って、「どうぞ」と言うんですけども。
わけわからないですよね、その辺が(笑)。
今回の「隠されたエロス」で話したいのが『ムーミンパパ海へいく』なんですね。
『ムーミンパパ海へいく』というのは、ムーミンシリーズの最終巻である『ムーミン谷の11月』の1つ前の作品で、シリーズ全体のターニングポイントになったと言われているお話です。
でも、海馬の方から見られたりすると、ムーミンは自分のカッコ悪さ、醜さが恥ずかしくてしょうがない、と。
その結果、まともに話せなくなってしまうんです。
ムーミンは気がついてないんですけど、これは恋なんですね。
ムーミンは海馬たちに恋をしてるんだけど、まだそれが恋愛だとは気がついてない状態です。
その感情が自分ではなんだかわからず、ひたすらモヤモヤする。
でも、海馬はムーミンの気持ちをわかってるから、残酷にバカにするんですね。
「あら、ブサイクなお兄ちゃん」みたいなことを言うんですけども。
そんな、これまでの無邪気なムーミンとは違う、中2男子としてのムーミンが描かれてるのがこの『ムーミンパパ海へいく』です。
「ムーミン谷は平和すぎる!」と。
周りを自分がコントロール出来ている感じがしない。
本当の父親っていうのは、家族に対して「こうだ!」というふうにリーダーとして命令して、家族というのは「さすがお父さん!」というふうに、それに従うのが正しい姿。
でも、現に俺はそんなふうになってないじゃないか、と欲求不満になって、いきなり家族を連れて島に移住するというところからお話が始まるんですね。
そして、その分、余計に手間が掛かる。「これは父親じゃないと出来ない!」とか言い出しちゃうんですね。
その心配の仕方が、「またニョロニョロと一緒に家出しなければいいけど」ってふうに言うんですね。
その悪い暮らしというのは何なのか?
ムーミンはすごく知りたいんですけど、誰もハッキリ教えてくれないんですね。
では、なぜパパは、逃げる時にニョロニョロと逃げたがるのか?
これに関しては、これもエラい分厚い本なんですけど、『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』という評伝の中に書かれています。
この人は「なぜニョロニョロなのか?」について、こう分析しています。
雷の気配があると、ニョロニョロたちは帯電し生命力に溢れて繁殖する。
そんな時にニョロニョロに触れると感電してしまう。
感電するというのは、旺盛な性欲を表している。
ニョロニョロの外見も男性器やコンドームを連想させる。
そんなムーミンパパはトーベの父、ファッファンを思い起こさせる。
トーベの父、ファッファンも同じ様に家族を置いて何度もヘルシンキの夜の街に消えていった。
――――――
実は、トーベ・ヤンソンにはヘルシンキにアトリエあったんです。
そのアトリエは、トーベ・ヤンソンの遺族が管理して、誰も入れなかったんですよ。
それまでの研究者は入れなかったんですけども、このカルヤライネンの熱意に、遺族たちも鍵を渡したんです。
カルヤライネン自身も、そのヤンソンのかつてのアトリエに4ヶ月間住み込んで、そこにあったヤンソンのメモから、日記から、誰かに宛てた手紙から、全部読んだんです。
全部読んだ上でこの本を完成させた。
そして、完成させたこの本は、フィンランドで優れたノンフィクションにだけ与えられるラウリ・ヤンッティ賞というのを受賞したという、かなりお墨付きな本なんですね。
でも、そう言われたら、ニョロニョロの持っている「わけもなく水平線を目指す」とか、「いつも集団で行動する」とかは、女性から見て謎でおまけにちょっと怖くもある男性の性欲の正体というのを、わりと言い当てられたようで、ちょっと面白いんですけども。
そんな本が、遺族の全面協力で書かれたという辺り、やっぱりフィンランドはすごい国ですよね、そこら辺。
この本の中で、いつもと決定的に違うのは、ムーミンママなんですよ。
ムーミンママというのは「あらゆる人とお付き合いしながら、孤独になれる人」なんですよ。
でも、そんなママが、この『ムーミンパパ海へいく』では、徐々に徐々に壊れて行くんですね。
しょうがないから、ママは海藻を集めては岩の上に広げるんですよ。
「これで海藻が腐ってきたら、土になるかしら? そしたら、花の種を植えてみよう」とか考えるんですけども。
この海藻は、翌朝には高波が来てさらってしまって、ムーミンママがお花畑を作ろうとしても全部無駄に終わってしまう。
徐々に徐々に、ママは何も出来ない状況の中で、ぼーっとしてる時間が長くなってくるんですね。
最初にお花を描いたら、すごく気が晴れた感じがして、どんどん絵を描いていく。
ついには、懐かしいムーミン屋敷にあったりんごの木まで描いて、その絵の中に入ってしまうんですけども。
――――――
夕方のお茶の時間になると、家族の者たちが帰って来ました。
ムーミンママはりんごの木の後ろに立って、みんながお茶の用意をするのを見ていました。
ママにはみんなが少しばかりぼやけて見えました。
まるで水の中を動き回っているみたいに。
でも、ママはちっとも驚きませんでした。
ママはやっと自分の庭に帰って来たのです。
全てがあるべきところにあり、生えるべきところに生えていました。
ちょいちょい本物通りとはいえないところもありましたが、そんなことはどうだって構いやしませんさ。
――――――
家の中で絵を描いてて絵の中に入ってしまった。
家にムーミントロールやパパが帰って来ても、彼らにはムーミンママの姿が見えないんですよ。
消えてしまったんです。
ムーミンママは、絵の中の世界からみんなを見てるんですけども「ぼんやりとしてて、みんなの姿がよく見えない」と描かれてるんですね。
ムーミントロールは、わけのわからない生き物に恋をして、ずっとそれを見ようと思って、心が傷ついてる。
ムーミンパパは「自分には何も出来ないんだ」ということを、ムーミン谷にいる時よりも強く押し付けられて、段々と「海からウイスキーが入った樽が流れて来るんじゃないかなあ?」ということだけを楽しみにしていく。
ムーミンママも、どんどん壊れて行くわけですね。
次第にお互いに背中を向けて、自分の世界だけに閉じ籠もってしまうんです。
いかがでしたか?
「え?!それってどういうこと?」「そこのところ、もっと詳しく知りたい!」という人は、どんどん、質問してみて下さい。
番組内で取り扱う質問はコチラまで!
岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/05/31
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今回は、ニコ生ゼミ05月19日(#282)から、ハイライトをお届けいたします。
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今回は、ニコ生ゼミ05月19日(#282)から、ハイライトをお届けいたします。
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「【 知ってるようで意外と知らない『ムーミン』特集 3 】 ムーミンの中の隠されたエロス」
では、「隠されたエロス」の話なんですけど…… “裸エプロン” の話はしません。
でも、ムーミンって面白いですよね。あのね、これ世間話なんですけど。
ムーミンパパって、夜寝るときにパジャマを着てるんですよね。普段は裸なのに、夜はパジャマを着るんですよ。
だけど、夜中に急にお客さんが来た。ドンドンとドアをノックする。
そんな時、ムーミンパパはパジャマからナイトガウンに着替えてドアを開けるんです。
で、ドアを開けて「ああ、〇〇さんでしたか。まあ、中へ入りなさい」と招き入れる時には、「ちょっと待ってください」と言って、ナイトガウンを脱いで素っ裸になって、シルクハットを被って、「どうぞ」と言うんですけども。
わけわからないですよね、その辺が(笑)。
まあ、そういうわけがわからない話は置いといて。
今回の「隠されたエロス」で話したいのが『ムーミンパパ海へいく』なんですね。
『ムーミンパパ海へいく』というのは、ムーミンシリーズの最終巻である『ムーミン谷の11月』の1つ前の作品で、シリーズ全体のターニングポイントになったと言われているお話です。
・・・
この『ムーミンパパ海へいく』の中では、たとえばムーミントロールは、少年から多感な青年になる最中の姿を見せます。
2匹の “海馬” という生き物が出てきて。
この海馬というのは、原作ではすごく美しいと描かれているんですけど、そんな生き物が、ムーミンの周りを、からかうように飛び跳ねます。
この海馬というのは、原作ではすごく美しいと描かれているんですけど、そんな生き物が、ムーミンの周りを、からかうように飛び跳ねます。
2匹の海馬はそっくりで、お互いの美しさをお互いに褒めあっていて、お互いにお互いしか見えていない状態ですね。
その美しさにムーミンも「あんなふうになりたいな」と思って、海馬をじっと見ちゃうんですよ。
その美しさにムーミンも「あんなふうになりたいな」と思って、海馬をじっと見ちゃうんですよ。
でも、海馬の方から見られたりすると、ムーミンは自分のカッコ悪さ、醜さが恥ずかしくてしょうがない、と。
その結果、まともに話せなくなってしまうんです。
ムーミンは気がついてないんですけど、これは恋なんですね。
ムーミンは海馬たちに恋をしてるんだけど、まだそれが恋愛だとは気がついてない状態です。
その感情が自分ではなんだかわからず、ひたすらモヤモヤする。
でも、海馬はムーミンの気持ちをわかってるから、残酷にバカにするんですね。
「あら、ブサイクなお兄ちゃん」みたいなことを言うんですけども。
そんな、これまでの無邪気なムーミンとは違う、中2男子としてのムーミンが描かれてるのがこの『ムーミンパパ海へいく』です。
ムーミンパパ自身も、ひたすら、男とか父親の情けなさを見せます。
『ムーミンパパ海へいく』というのは、閉ざされた灯台しかない島にムーミン一家が移住するという話なんですけど。
そもそも、そんな場所に移住しようといい出したのは、ムーミンパパなんですよ。
そもそも、そんな場所に移住しようといい出したのは、ムーミンパパなんですよ。
「ムーミン谷は平和すぎる!」と。
周りを自分がコントロール出来ている感じがしない。
本当の父親っていうのは、家族に対して「こうだ!」というふうにリーダーとして命令して、家族というのは「さすがお父さん!」というふうに、それに従うのが正しい姿。
でも、現に俺はそんなふうになってないじゃないか、と欲求不満になって、いきなり家族を連れて島に移住するというところからお話が始まるんですね。
なので、島に行く時も、いつもはそういう雑用を全部やるはずのママに、一切の手出しをさせないんです。
全部、父親である自分が決めて、自分でやりたがる。
全部、父親である自分が決めて、自分でやりたがる。
そして、その分、余計に手間が掛かる。「これは父親じゃないと出来ない!」とか言い出しちゃうんですね。
そんなパパを、ママは心配するんです。
その心配の仕方が、「またニョロニョロと一緒に家出しなければいいけど」ってふうに言うんですね。
・・・
実は、ムーミンは昔から、このママの愚痴というか不安を聞いてるんですよ。
単行本の他の巻からずーっと、パパはしょっちゅう行方不明になったり、家出したりするんですけど。
そんな時のママにとっての最悪の家出が、どうも昔、ムーミンパパはニョロニョロと一緒に家出をしたらしいんですね。
その家出っていうのが「悪い暮らしをしてた」というふうに語られるんです。
そんな時のママにとっての最悪の家出が、どうも昔、ムーミンパパはニョロニョロと一緒に家出をしたらしいんですね。
その家出っていうのが「悪い暮らしをしてた」というふうに語られるんです。
その悪い暮らしというのは何なのか?
ムーミンはすごく知りたいんですけど、誰もハッキリ教えてくれないんですね。
パパというのは、今の話でだいたいわかる通り、責任感はやたらあるんですけど、能力がないんですよね(笑)。
なので、自分で請け負った責任を取り切れなくなって、その責任から逃げたくて仕方がなくなるんです。
なので、自分で請け負った責任を取り切れなくなって、その責任から逃げたくて仕方がなくなるんです。
では、なぜパパは、逃げる時にニョロニョロと逃げたがるのか?
これに関しては、これもエラい分厚い本なんですけど、『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』という評伝の中に書かれています。
これは、トーベ・ヤンソンのことを研究して書かれた本です。
作者はトゥーラ・カルヤライネンという人なんですけど、この人は作家でありながらトーベ・ヤンソン生誕100周年記念展の、展示のキュレーターまでやってる人なんですね。
作者はトゥーラ・カルヤライネンという人なんですけど、この人は作家でありながらトーベ・ヤンソン生誕100周年記念展の、展示のキュレーターまでやってる人なんですね。
この人は「なぜニョロニョロなのか?」について、こう分析しています。
――――――
ニョロニョロはムーミン谷の性的なエネルギーを象徴している。
雷の気配があると、ニョロニョロたちは帯電し生命力に溢れて繁殖する。
そんな時にニョロニョロに触れると感電してしまう。
感電するというのは、旺盛な性欲を表している。
ニョロニョロの外見も男性器やコンドームを連想させる。
こうした男性的な世界に引き寄せられたムーミンパパは、家族を放り出して、ニョロニョロたちと行動を共にしてしまう。
そんなムーミンパパはトーベの父、ファッファンを思い起こさせる。
トーベの父、ファッファンも同じ様に家族を置いて何度もヘルシンキの夜の街に消えていった。
――――――
この分析というのは、単なる当て推量や無理やりなこじつけではないんですよ。
著者のカルヤライネンは、この本の研究のために、トーベ・ヤンソンのアトリエに住み込んでいるんです。
実は、トーベ・ヤンソンにはヘルシンキにアトリエあったんです。
そのアトリエは、トーベ・ヤンソンの遺族が管理して、誰も入れなかったんですよ。
それまでの研究者は入れなかったんですけども、このカルヤライネンの熱意に、遺族たちも鍵を渡したんです。
カルヤライネン自身も、そのヤンソンのかつてのアトリエに4ヶ月間住み込んで、そこにあったヤンソンのメモから、日記から、誰かに宛てた手紙から、全部読んだんです。
全部読んだ上でこの本を完成させた。
そして、完成させたこの本は、フィンランドで優れたノンフィクションにだけ与えられるラウリ・ヤンッティ賞というのを受賞したという、かなりお墨付きな本なんですね。
ニョロニョロの正体が男性の性欲とか、形自身も男性器を象徴しているというのは、僕もすごくビックリしました。
この本を読むまで全く気がつかなかったんですけども。
この本を読むまで全く気がつかなかったんですけども。
でも、そう言われたら、ニョロニョロの持っている「わけもなく水平線を目指す」とか、「いつも集団で行動する」とかは、女性から見て謎でおまけにちょっと怖くもある男性の性欲の正体というのを、わりと言い当てられたようで、ちょっと面白いんですけども。
ちなみに、ムーミンの公式サイトに “ムーミン占い” というのがあって、「あなたは何タイプ?」みたいな。
そこで、わりとニョロニョロっぽい答えをすると「あなたはニョロニョロタイプです」って出てくるんですけども。
そこで、わりとニョロニョロっぽい答えをすると「あなたはニョロニョロタイプです」って出てくるんですけども。
以後は、これをキャバクラでお姉ちゃんにやらせて、「あ、君、ニョロニョロなの? エッチだね!」なんて言うおじさんが続出するんじゃないかと思いますが、そんなことをやったら100%嫌われるだけだから、やめときましょう(笑)。
この本には、たとえば「この時期のトーベ・ヤンソンの恋人は誰だったか?」とかが、いちいち断言されているんですね。
それは、トーベ自身の手紙とか日記を全部読んで分析したからこそ出来ることなんですけど。
そんな本が、遺族の全面協力で書かれたという辺り、やっぱりフィンランドはすごい国ですよね、そこら辺。
・・・
まあ、そういうふうに、ムーミンパパというのは、時々、男性としての不安に苛まれてしまって、ニョロニョロ達と旅に出たくなってしまう。
この本の中でも、そんな人間なんです。
これに関しては、いつも通りはいつも通りなんですね。
これに関しては、いつも通りはいつも通りなんですね。
この本の中で、いつもと決定的に違うのは、ムーミンママなんですよ。
ムーミンママというのは、シリーズを通して、実は一番の自由人として書かれています。
チビのミーは何でも好きなことを言って本質を突く自由人。
スナフキンはいつでも好きな所にプイッと外に出て行ける自由人。
ただし、ムーミンママはそれと違う。
さらにすごいんですよ。
スナフキンはいつでも好きな所にプイッと外に出て行ける自由人。
ただし、ムーミンママはそれと違う。
さらにすごいんですよ。
ムーミンママというのは「あらゆる人とお付き合いしながら、孤独になれる人」なんですよ。
チビのミーは「孤独になっちゃう」わけですね、好きなことを言うから。
スナフキンは他人から離れて孤独になろうとするんですけど。
ムーミンママは他人とどんなに一緒にいても、自分の魂をちゃんと中立に孤独に保てるすごい人として描かれてるんです。
スナフキンは他人から離れて孤独になろうとするんですけど。
ムーミンママは他人とどんなに一緒にいても、自分の魂をちゃんと中立に孤独に保てるすごい人として描かれてるんです。
でも、そんなママが、この『ムーミンパパ海へいく』では、徐々に徐々に壊れて行くんですね。
何もない、岩しかない島なんですよ。
だから、せめてお花畑を作ろうとするんですけど、土もないんですね。
だから、せめてお花畑を作ろうとするんですけど、土もないんですね。
しょうがないから、ママは海藻を集めては岩の上に広げるんですよ。
「これで海藻が腐ってきたら、土になるかしら? そしたら、花の種を植えてみよう」とか考えるんですけども。
この海藻は、翌朝には高波が来てさらってしまって、ムーミンママがお花畑を作ろうとしても全部無駄に終わってしまう。
徐々に徐々に、ママは何も出来ない状況の中で、ぼーっとしてる時間が長くなってくるんですね。
ついにママは壁に絵を描き始めます。
最初はですね、花を描くだけなんですけど、その花が増えて、りんごの木まで描いてしまいます。
最初はですね、花を描くだけなんですけど、その花が増えて、りんごの木まで描いてしまいます。
『ムーミンパパ海へいく』では、章のタイトルが時々怖いんですけど。これは「月が欠けていく」っていう章です。
一番最初、ムーミンママには、何もやることがなくて、部屋の中でただ単にボーッとしてるんです。
そんな中、思い切って部屋の壁に絵を描いてみるんです。
そんな中、思い切って部屋の壁に絵を描いてみるんです。
最初にお花を描いたら、すごく気が晴れた感じがして、どんどん絵を描いていく。
ついには、懐かしいムーミン屋敷にあったりんごの木まで描いて、その絵の中に入ってしまうんですけども。
この「月が欠けていく」の原文の一部そのまま読みます。
――――――
元の家に帰りたいな。もうこんな恐ろしい荒れ果てた島や、いじわるな海を離れて家へ帰りたいな。
ムーミンママはりんごの木を抱きかかえて、目をつぶりました。
木の肌はザラザラして暖かでした。
海の音も聞こえなくなりました。
ムーミンママはもう自分の庭の中に入っていたのです。
木の肌はザラザラして暖かでした。
海の音も聞こえなくなりました。
ムーミンママはもう自分の庭の中に入っていたのです。
――――――
「この絵の中にムーミンママが入ってしまった」というふうに、原作には描かれています。
この話はまだ続きます。
――――――
夕方のお茶の時間になると、家族の者たちが帰って来ました。
「ママはどこ?」とムーミントロールが尋ねました。
「たぶん、水でも汲みに行ったんだろう。ほらご覧よ。みんなが出かけてからママはまた木を1本描きあげたんだね」。
「たぶん、水でも汲みに行ったんだろう。ほらご覧よ。みんなが出かけてからママはまた木を1本描きあげたんだね」。
ムーミンママはりんごの木の後ろに立って、みんながお茶の用意をするのを見ていました。
ママにはみんなが少しばかりぼやけて見えました。
まるで水の中を動き回っているみたいに。
でも、ママはちっとも驚きませんでした。
ママはやっと自分の庭に帰って来たのです。
全てがあるべきところにあり、生えるべきところに生えていました。
ちょいちょい本物通りとはいえないところもありましたが、そんなことはどうだって構いやしませんさ。
ムーミンママは丈の高い草の中に座って、川向うの何処かから聞こえてくるカッコウの鳴き声に、耳を傾けていました。
――――――
すごいですよね。ムーミンママは消えてしまっているんですね。
家の中で絵を描いてて絵の中に入ってしまった。
家にムーミントロールやパパが帰って来ても、彼らにはムーミンママの姿が見えないんですよ。
消えてしまったんです。
ムーミンママは、絵の中の世界からみんなを見てるんですけども「ぼんやりとしてて、みんなの姿がよく見えない」と描かれてるんですね。
いつの間にか、なんかすごい話になってるんですよ、ムーミンって。
もともと、ムーミンパパがこの島に来たのは、家族だけ……養子のチビのミーも一緒に連れてったんですけど、家族3人プラス養子の4人だけになるためなんです。
ムーミン谷は知り合いがあまりに多過ぎるし、冒険ももうないし、父親が父親らしいことが出来るような環境じゃない。
だから、ムーミン谷を離れて島に来たはずだったのに。
だから、ムーミン谷を離れて島に来たはずだったのに。
ムーミントロールは、わけのわからない生き物に恋をして、ずっとそれを見ようと思って、心が傷ついてる。
ムーミンパパは「自分には何も出来ないんだ」ということを、ムーミン谷にいる時よりも強く押し付けられて、段々と「海からウイスキーが入った樽が流れて来るんじゃないかなあ?」ということだけを楽しみにしていく。
ムーミンママも、どんどん壊れて行くわけですね。
次第にお互いに背中を向けて、自分の世界だけに閉じ籠もってしまうんです。
『ムーミンパパ海へいく』という話は、こういう現代の不安を取り上げた、まあ、ものすごい文芸作品なわけです。
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