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今回は、ニコ生ゼミ05月19日(#282)から、ハイライトをお届けいたします。
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「【 知ってるようで意外と知らない『ムーミン』特集 3 】 ムーミンの中の隠されたエロス」
だけど、夜中に急にお客さんが来た。ドンドンとドアをノックする。
そんな時、ムーミンパパはパジャマからナイトガウンに着替えてドアを開けるんです。
で、ドアを開けて「ああ、〇〇さんでしたか。まあ、中へ入りなさい」と招き入れる時には、「ちょっと待ってください」と言って、ナイトガウンを脱いで素っ裸になって、シルクハットを被って、「どうぞ」と言うんですけども。
わけわからないですよね、その辺が(笑)。
今回の「隠されたエロス」で話したいのが『ムーミンパパ海へいく』なんですね。
『ムーミンパパ海へいく』というのは、ムーミンシリーズの最終巻である『ムーミン谷の11月』の1つ前の作品で、シリーズ全体のターニングポイントになったと言われているお話です。
この海馬というのは、原作ではすごく美しいと描かれているんですけど、そんな生き物が、ムーミンの周りを、からかうように飛び跳ねます。
その美しさにムーミンも「あんなふうになりたいな」と思って、海馬をじっと見ちゃうんですよ。
でも、海馬の方から見られたりすると、ムーミンは自分のカッコ悪さ、醜さが恥ずかしくてしょうがない、と。
その結果、まともに話せなくなってしまうんです。
ムーミンは気がついてないんですけど、これは恋なんですね。
ムーミンは海馬たちに恋をしてるんだけど、まだそれが恋愛だとは気がついてない状態です。
その感情が自分ではなんだかわからず、ひたすらモヤモヤする。
でも、海馬はムーミンの気持ちをわかってるから、残酷にバカにするんですね。
「あら、ブサイクなお兄ちゃん」みたいなことを言うんですけども。
そんな、これまでの無邪気なムーミンとは違う、中2男子としてのムーミンが描かれてるのがこの『ムーミンパパ海へいく』です。
そもそも、そんな場所に移住しようといい出したのは、ムーミンパパなんですよ。
「ムーミン谷は平和すぎる!」と。
周りを自分がコントロール出来ている感じがしない。
本当の父親っていうのは、家族に対して「こうだ!」というふうにリーダーとして命令して、家族というのは「さすがお父さん!」というふうに、それに従うのが正しい姿。
でも、現に俺はそんなふうになってないじゃないか、と欲求不満になって、いきなり家族を連れて島に移住するというところからお話が始まるんですね。
全部、父親である自分が決めて、自分でやりたがる。
そして、その分、余計に手間が掛かる。「これは父親じゃないと出来ない!」とか言い出しちゃうんですね。
その心配の仕方が、「またニョロニョロと一緒に家出しなければいいけど」ってふうに言うんですね。
そんな時のママにとっての最悪の家出が、どうも昔、ムーミンパパはニョロニョロと一緒に家出をしたらしいんですね。
その家出っていうのが「悪い暮らしをしてた」というふうに語られるんです。
その悪い暮らしというのは何なのか?
ムーミンはすごく知りたいんですけど、誰もハッキリ教えてくれないんですね。
なので、自分で請け負った責任を取り切れなくなって、その責任から逃げたくて仕方がなくなるんです。
では、なぜパパは、逃げる時にニョロニョロと逃げたがるのか?
これに関しては、これもエラい分厚い本なんですけど、『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』という評伝の中に書かれています。
作者はトゥーラ・カルヤライネンという人なんですけど、この人は作家でありながらトーベ・ヤンソン生誕100周年記念展の、展示のキュレーターまでやってる人なんですね。
この人は「なぜニョロニョロなのか?」について、こう分析しています。
雷の気配があると、ニョロニョロたちは帯電し生命力に溢れて繁殖する。
そんな時にニョロニョロに触れると感電してしまう。
感電するというのは、旺盛な性欲を表している。
ニョロニョロの外見も男性器やコンドームを連想させる。
そんなムーミンパパはトーベの父、ファッファンを思い起こさせる。
トーベの父、ファッファンも同じ様に家族を置いて何度もヘルシンキの夜の街に消えていった。
――――――
実は、トーベ・ヤンソンにはヘルシンキにアトリエあったんです。
そのアトリエは、トーベ・ヤンソンの遺族が管理して、誰も入れなかったんですよ。
それまでの研究者は入れなかったんですけども、このカルヤライネンの熱意に、遺族たちも鍵を渡したんです。
カルヤライネン自身も、そのヤンソンのかつてのアトリエに4ヶ月間住み込んで、そこにあったヤンソンのメモから、日記から、誰かに宛てた手紙から、全部読んだんです。
全部読んだ上でこの本を完成させた。
そして、完成させたこの本は、フィンランドで優れたノンフィクションにだけ与えられるラウリ・ヤンッティ賞というのを受賞したという、かなりお墨付きな本なんですね。
この本を読むまで全く気がつかなかったんですけども。
でも、そう言われたら、ニョロニョロの持っている「わけもなく水平線を目指す」とか、「いつも集団で行動する」とかは、女性から見て謎でおまけにちょっと怖くもある男性の性欲の正体というのを、わりと言い当てられたようで、ちょっと面白いんですけども。
そこで、わりとニョロニョロっぽい答えをすると「あなたはニョロニョロタイプです」って出てくるんですけども。
そんな本が、遺族の全面協力で書かれたという辺り、やっぱりフィンランドはすごい国ですよね、そこら辺。
これに関しては、いつも通りはいつも通りなんですね。
この本の中で、いつもと決定的に違うのは、ムーミンママなんですよ。
スナフキンはいつでも好きな所にプイッと外に出て行ける自由人。
ただし、ムーミンママはそれと違う。
さらにすごいんですよ。
ムーミンママというのは「あらゆる人とお付き合いしながら、孤独になれる人」なんですよ。
スナフキンは他人から離れて孤独になろうとするんですけど。
ムーミンママは他人とどんなに一緒にいても、自分の魂をちゃんと中立に孤独に保てるすごい人として描かれてるんです。
でも、そんなママが、この『ムーミンパパ海へいく』では、徐々に徐々に壊れて行くんですね。
だから、せめてお花畑を作ろうとするんですけど、土もないんですね。
しょうがないから、ママは海藻を集めては岩の上に広げるんですよ。
「これで海藻が腐ってきたら、土になるかしら? そしたら、花の種を植えてみよう」とか考えるんですけども。
この海藻は、翌朝には高波が来てさらってしまって、ムーミンママがお花畑を作ろうとしても全部無駄に終わってしまう。
徐々に徐々に、ママは何も出来ない状況の中で、ぼーっとしてる時間が長くなってくるんですね。
最初はですね、花を描くだけなんですけど、その花が増えて、りんごの木まで描いてしまいます。
そんな中、思い切って部屋の壁に絵を描いてみるんです。
最初にお花を描いたら、すごく気が晴れた感じがして、どんどん絵を描いていく。
ついには、懐かしいムーミン屋敷にあったりんごの木まで描いて、その絵の中に入ってしまうんですけども。
木の肌はザラザラして暖かでした。
海の音も聞こえなくなりました。
ムーミンママはもう自分の庭の中に入っていたのです。
――――――
夕方のお茶の時間になると、家族の者たちが帰って来ました。
「たぶん、水でも汲みに行ったんだろう。ほらご覧よ。みんなが出かけてからママはまた木を1本描きあげたんだね」。
ムーミンママはりんごの木の後ろに立って、みんながお茶の用意をするのを見ていました。
ママにはみんなが少しばかりぼやけて見えました。
まるで水の中を動き回っているみたいに。
でも、ママはちっとも驚きませんでした。
ママはやっと自分の庭に帰って来たのです。
全てがあるべきところにあり、生えるべきところに生えていました。
ちょいちょい本物通りとはいえないところもありましたが、そんなことはどうだって構いやしませんさ。
――――――
家の中で絵を描いてて絵の中に入ってしまった。
家にムーミントロールやパパが帰って来ても、彼らにはムーミンママの姿が見えないんですよ。
消えてしまったんです。
ムーミンママは、絵の中の世界からみんなを見てるんですけども「ぼんやりとしてて、みんなの姿がよく見えない」と描かれてるんですね。
だから、ムーミン谷を離れて島に来たはずだったのに。
ムーミントロールは、わけのわからない生き物に恋をして、ずっとそれを見ようと思って、心が傷ついてる。
ムーミンパパは「自分には何も出来ないんだ」ということを、ムーミン谷にいる時よりも強く押し付けられて、段々と「海からウイスキーが入った樽が流れて来るんじゃないかなあ?」ということだけを楽しみにしていく。
ムーミンママも、どんどん壊れて行くわけですね。
次第にお互いに背中を向けて、自分の世界だけに閉じ籠もってしまうんです。
「え?!それってどういうこと?」「そこのところ、もっと詳しく知りたい!」という人は、どんどん、質問してみて下さい。
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