(前号からの続き)
ストーリーは、ホラー映画のお約束を守って、いかにもなカンジで進行する。
彼氏の浮気で怒ったヒロインが、友達を誘って、山の中の別荘で女子会をする。
まず、お決まりの女優たちが脱ぐシーン。
別荘のすぐそばにある湖で、優雅に泳ぐヒロイン。
水の中からは、ゾンビーバーが泳ぐヒロインをじーっと観ている。
いつ襲われるかと、観客はハラハラというか、ワクワクしながら観る。
そこへ、彼氏がよりを戻そうとして、友達を連れてきて合流。
男女6人のセックス大パーティになったところで、いよいよ、ゾンビが陸に上がって襲ってくる!
という展開だ。
ただ、襲ってくるゾンビーバーの攻撃方法は、基本「かじる」だけ。
どうしても地味で単調な戦いになる。しかも、ゾンビーバーは、ほとんどのシーンが、マペットなのだ。
パペットマペットの「うしくん、かえるくん」を思い出してほしい。
手にかぶせて、指でちょっと動かすだけ。当然、下半身は登場しない。
そんなヤツと戦うわけだから、迫力が出るはずがない。むしろ、かわいい。
もう一つのゾンビーバーの攻撃技が、ダム作り。
ビーバーだからね。
登場人物たちが車に乗って逃げようとするが、道にダムが作られていて、進めない。
この「かじる」「ダムを作る」だけで、ホラー映画としてのおもしろさをも保たなければならないので、かなり苦しい。
映画の後半になって、「ゾンビーバーにかまれた人間はゾンビになる」という展開になり、ようやく少し、ホラー映画らしい怖さが醸し出される
といっても、かまれた人間はただのゾンビになるのではない。
前歯がどんどん伸び、ものすごく大きいしゃもじみたいなしっぽがはえ、「ビーバー」になってしまうのだ。
牙は、かむ攻撃に使うが、しっぽは、床を鳴らして仲間への合図として使う。
実際、ゾンビーバーにされた女の子が、そのでっかいしっぽで床をバッタンバッタンたたいていたが、実にマヌケだった。
読んだだけでも、「それはくだらない!」と思うだろうが、実際にこれを1時間半かけて観せられたら、そのくだらなさはハンパないのだ。
では、ゾンビーバーはくだらなくて面白くない作品なのか?
つまらない映画観たときというのは、トイレでもみんな黙りこくってるし、帰りのエレベーターでもムスっとしてるものだ。
が、この映画に関しては、観てる最中から、みんな顔をテラテラさせたり、ぼそぼそとしゃべってたりしていた。
つまり、こういう映画を仲間と観られたという喜びで、映画館があふれていたのだ。
映画の最後、クレジットでいきなり主題歌の「ゾンビーバー」が流れたときには、場内が爆笑だった。
アンディ・ウィリアムスの『ムーンリバー』を彷彿とさせるような、モノクロ時代のようなテーマソングだ。
イージーリスニング的なのんびりした「ゾンビ~バァ、ゾンビ~バァ」という音楽とともに、メイキング映像が流れる。
ゾンビーバーに追いかけられ、小型犬が湖を泳いで逃げるシーン。
メイキングでは、小型犬がリモコンのゾンビーバーで遊びだしてしまい、「だめだよ~、遊んじゃぁ」という監督の嘆きの声が入っていたりする。
観客たちは、クスクスを通り越して、声をあげて笑い出し、次第に場内は笑いの渦となっていった。
映画と言うのは単なるコンテンツだけではなくて、誰と観るのかも実は大事だ。
見に行けないような映画、日本で数館しかやってないような映画には、逆にそういう仲間を作るチャンスでもある。
とりあえず「ゾンビーバー」この夏のオススメです。
以上、情報サイト『探偵ファイル』よりお届けしました。
バックナンバーは
こちら!