『不落の重装戦術家』 静かな日【2】
沈みかけの日に周囲が赤々と染まる頃、隣国との国境近く。この付近一帯は深い森に覆われており、一本の街道だけが頼りなさげに国同士を繋いでいる。そこから少し外れに分け入った先、人の肩幅はあろう樹木の影。認識阻害の魔法結界に身を潜めながら、私は指示書の内容を思い返していた。
要人救出、対象は帝国の高官ゴードン・ゴルトマン。以前一度だけ見掛けたことがあるが、歳相応の交じり白髪と顔の皴、そしてまっすぐ射抜くような力強い目に、それまでの経験に裏打ちされたであろう信念と精神性を感じたものだ。しかし高潔で知られる彼を、それゆえに帝国内部では煙たがる者も多い。そんな彼が何者かに拉致され、その命と引き換えに高額な身代金の要求があったのだという。
事件の解決にあたっては帝国上層部でも意見が割れたらしいが、馬鹿正直にカネを払えば相手がつけあがるだけとする判断のもと、偽金を持たせた交渉役を単身突入させての殲滅救出作戦に決まったそうだ。それはそれで大した馬鹿さ加減と思うが、だからこそ聖騎士団の、それも魔族混血の私にこの任務がまわってきたのだろう。上手くいくならそれで良し、失敗するなら厄介者のゴルトマ...