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  • 『不落の重装戦術家』 静かな日【5】

    2025-02-27 23:352
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     私の知らぬ間に急遽編成されたという帝国聖騎士隊。耳慣れぬ声をした指揮官の弩弓斉射号令。『不落』たる私を前に遅滞なく命令を遂行する弩弓兵。殺意を乗せて飛来する矢弾の群れ。

     なんとも不可思議な光景だ。今この瞬間、世のすべてを敵に回した気さえする。

     一方ゴルトマン陣営は、部下一同が身体を盾にゴルトマンへの射線を遮ろうとしていた。この状況においてそれしか防御策を持ち合わせていないことに対しては言いたいことの一つや二つあるのだが、命を投げ出すことに躊躇いなどないその姿には感心する。おかげで防護魔法の展開も容易に済むというものだ、防衛対象は小さく纏まっている方が都合が良い。

     
  • 『不落の重装戦術家』 静かな日【4】

    2025-01-24 21:153
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     決して表情に出すまいと平静を装うに努めたこの数秒が、私には途方もない時間に感じられた。

     今回の任務は、何者かに拉致されたゴードン・ゴルトマンの救出と実行犯の殲滅だったはずだ。しかし今、その頭目らしき男がゴルトマンを名乗り、確かにその顔は過去の記憶と一致している。面倒なことになりそうだと思った。とりあえずここにいる全員を死なない程度に痛めつけてから考えるのも手だろうか? ……そんなことを考えていると、ゴルトマンを自称する男が口を開いた。

    「安心してくれたまえ、我々は敵ではない。まだ味方でもないがね。少なくとも君に危害を加えるつもりはない、まずはそれを認識してもらえれば結構だ」

     
  • 『不落の重装戦術家』 静かな日【3】

    2024-12-30 20:252
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     私の意思一つで起爆する爆炎球を肩に浮かべながら、男は坑道内を先導し続ける。その背中を常に視界のどこかに捉えながら、私は少なからず違和感を覚えていた。

     この男が廃坑入口で言った『あんたが来るとは』という言葉。あれは、私の存在が想定外であるからこそと思った。しかし、私を『不落』として認識しながら少しも狼狽える様子はなく──これでも不埒な輩どもにはそれなりに名が知れている身だ──にもかかわらず身体検査も武装解除もないままに招き入れ、そうしておきながら単独での不意打ち。窮地においては仲間を喚ぼうとすらしなかった。それらに加えて、匂いだ。この男がただの山賊風情であるなら、組み伏せた時に油脂が腐り固まったような特有の不快臭がしてもおかしくなかったはずだ、だがそれも無かった。過去の経験則に当てはまらない事例などいくらでもあるが、それが二度ならず三度を超えてくるなら話は変わってくる。