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『恐怖の世界』レビュー:コズミックホラー×伊藤潤二×レトロ感によってプレイヤーに狂気を与えるホラーRPG
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『恐怖の世界』レビュー:コズミックホラー×伊藤潤二×レトロ感によってプレイヤーに狂気を与えるホラーRPG

2023-11-11 11:30
    根強い人気をほこる「クトゥルフ神話」を生み出した作家、H.P.ラヴクラフト(H.P. Lovecraft)。彼の作品に共通するテーマである「超自然的恐怖=コズミックホラー」をこの上なく表現したゲームが登場した。その作品こそ、ホラーRPG『恐怖の世界』(PC / Nintendo Switch / PlayStation4向け)だ。

    是非多くのホラーゲームファンに知ってもらいたい一作なので、今回はこの記事でその魅力を紹介したい!

    コズミックホラーを正面から描いたホラーRPG『恐怖の世界』

    『恐怖の世界』は、1980年代の日本を舞台にしたホラーRPGだ。学生は毎日学校に通い、社会人は会社で毎日仕事をこなす……そんな当たり前の日常が繰り返されてはいるものの、「旧き神々」という禍々しき存在によって、本作の舞台・塩川町は確実に破滅へと近づきつつあった。主人公=プレイヤーは、いたるところで発生する怪奇事件を捜査しつつ、「旧き神々」へ立ち向かうことになる。

    「旧き神々」という言葉から、思わず「クトゥルフ神話」を連想してしまうところだが、本作は必ずしも「クトゥルフ神話」をゲーム化しているわけではない。描いているのは、H.P.ラヴクラフトの持ち味だった「コズミックホラー」だ。

    「クトゥルフ神話」も「コズミックホラー」も、どちらもH.P.ラヴクラフトが生み出したもので、そもそもは同じものとも言える。先に書いた通り「コズミックホラー」とは「超自然的恐怖」のことを意味するテーマだ。そしてこの「コズミックホラー」を具体的な物語として表現したものが、「クトゥルフ神話」。

    ただ「クトゥルフ神話」はH.P.ラヴクラフトの死後、様々な作家によって世界が拡張された結果、キャラクター化していった。ちょうど『13日の金曜日』のジェイソンや『リング』の貞子といったホラー・キャラクターに近い。

    作品を重ねるごとに設定が明らかになり、弱点や対処法が開示されていく。そうなってはもう、恐怖の象徴として君臨することは難しい。

    そもそもの「超自然的恐怖」とは、宇宙や深海といった、我々が知覚できない未知の領域、未知の摂理にまつわる恐怖のこと。このため、「クトゥルフ神話」として体系化され、既知の存在になってしまえば恐怖感が減少してしまうのは当然のことだろう。

    こうした点を踏まえた上で、本作は明確に「コズミックホラー」を目指した作品といえる。本作に登場する怪異は「クトゥルフ神話」ではなく、本作オリジナル。

    だからこそ、未知。
    どこからどんなかたちで影響を与えるのかが分からない。
    もちろん、対処法も不明。

    未知の領域、未知の摂理にまつわる恐怖がバッチリ描かれているのだ。

    「クトゥルフ」的ゲームシステムと伊藤潤二テイストのビジュアルによって描かれる「狂気」

    H.P.ラヴクラフトの「コズミックホラー」では、我々が知覚できない未知の存在と遭遇してしまった人々が描かれる。たいていの場合、そうした人々は「狂気」に取りつかれてしまう。

    (画像は『新クトゥルフ神話TRPルールブック』株式会社KADOKAWA)

    これは「クトゥルフ神話」でも同様。たとえば「クトゥルフ神話」を原作とした『クトゥルフ神話TRPG』では、「正気度」というパラメーターを採用している。「正気度」は恐怖に出会うことで減り、残り少なくなると狂気に陥ってしまう……というシステムだ。

    こうした「狂気」について本作では、ゲームシステム面とビジュアル面の両方から表現している。

    ゲームシステム的に「狂気」を表現する要素が「理性」と「破滅値」だ。「理性」は主人公が恐怖と相対することで減少していくパラメーター。そして「破滅値」は主に時間経過によって増加していく値で、最大まで到達すると「旧き神々」が復活しゲームオーバーとなる。

    本作は一見、レトロなアドベンチャーゲームのようなルックスを持っているが、既に書いた通り正真正銘のRPGだ。

    主人公=プレイヤーの行う基本的なアクションが、探索コマンド。探索を行うことでランダムにイベントが発生し、HPや理性、破滅値といったパラメーターが増減する。その一方で、怪異を解決するためのアイテムや情報を獲得することができ、クリアへ近づいていく……という流れだ。

    イベントの解決には、「ダイスロール」的なシステムが採用されている。

    「ダイスロール」とは、TRPG(テーブルトークRPG)におけるシステムのひとつで、ダイス(=サイコロ)を振って、行動の成否を決めるというもの。サイコロの出目によって成功失敗が決まるわけなので、成功するかどうかは運次第……なのだが、単なる「運頼み」にはなっていない。

    なぜなら、成功を示す出目が、ゲーム内のキャラクターの能力値に基づいて決まるからだ。能力値が高ければ成功率は高くなるし、能力値が低ければ失敗しやすくなる。このためTRPGでは、より成功しやすい行動を模索することが重要だ。

    本作でもこれと同様で、主人公=プレイヤーがイベントごとに選択肢を選び、その成否は能力値に基づいて判定される。ただ、一筋縄ではいかない。事件解決を急ぐのか、HPや理性の減少を避けるのか……状況に応じた判断が求められる。

    キャラクターのパラメーター減少は、ほとんどのRPGでネガティブな要素となっているが、一方で宿屋や薬草といった回復手段も用意されている。もちろん本作でも回復イベント自体は存在しているのだが、たいていの回復イベントで時間経過がともなうため、破滅値の上昇を招く。このため、1個1個のイベントの緊張感が強い。

    戦闘はターン制でコマンドを選ぶという形式で、不気味な存在がリアルタイムに襲ってくるような怖さはない。しかし、パラメーター減少の緊張感が強いため、ホラー性の高い、スリリングな感覚が味わえる。

    ちなみにこの、狂気や神々の復活をコントロールしつつ、イベントをダイスロールでこなしていく……というシステムは、『クトゥルフ神話TRPG』以外にも、『エルダーサイン』や『アーカムホラー』、『マンション・オブ・マッドネス』などといった「クトゥルフ神話」もののボードゲームで採用されているシステムだ。狂気を味わうためのスタンダードなゲームシステムといえるのかもしれない。

    (画像は『マンション・オブ・マッドネス』第一版)

    一方、ビジュアル面では漫画家の伊藤潤二氏のタッチを思わせるキャラクターデザインが狂気へと繋がっている。伊藤潤二氏は、『富江』や『うずまき』といった代表作を持つ、ホラーに特化した漫画家だ。とりわけ本作は、世界が徐々におかしくなっていくという点で『うずまき』の世界観と近く、ビジュアル、世界観、ゲーム性が高いレベルでマッチしていると感じた。

    レトロアドベンチャーが持つわかりにくさと狂気! プレイヤーを巻き込む恐怖

    キャラクターデザインが伊藤潤二氏を思わせるのに対し、UIなどのビジュアルについては、1980年代のレトロなアドベンチャーゲームを思わせる。

    モノクロ2色で粗いドット絵、画面に並んだボタン、マウス操作前提の設計……。本作のUIが持つこうした要素は、レトロ感を表現する一方で、わかりにくさにも繋がっている。

    ただその一方でこのUIだからこそ、他の作品では得られない恐怖を生み出すことに成功しているのだ。

    レトロ感を狙ってドット絵を採用するインディーゲームもあるが、たいていの場合、ビジュアルがドット絵というだけで、機能性や操作感などは現代のゲームに合わせることが多い。しかし本作の場合、操作を含む全体的なUI設計までレトロなアドベンチャーゲームの再現を狙っているように感じられる。

    というのも、ビジュアル的にもUI的にもゲームシステム的にも、わかりにくいから。正直なところ、本作のスクリーンショットを一目見るだけでは、本作がどんなゲームであり、プレイヤーは何を目的に、画面上のどの情報に注目してどう操作するのか、わからないのではないだろうか?

    ただこの感覚こそが、「ガチの1980年代」のレトロ感ではないかと、筆者は思う。

    そもそも現在のゲームがわかりやすいのは、40年以上の長い歴史を経て洗練させてきたから。2Dが3Dになったというわかりやすい進化だけでなく、「情報はどう表示すべきか?」「直感的に操作しやすいUIとは?」といった一見目立たない、縁の下の力持ち的な部分も、進化を重ねてきたのだ。……と同時にハードウェアスペックが上がることで、ゲームに詳細なチュートリアルを組み込むことができるようになった。

    この結果、現代のゲームはパッと見でもどんなゲームなのかが分かるようになっている。一方、レトロなアドベンチャーゲームはこうした点を備えていない。

    そもそも当時のゲームは、ゲームソフトに添付されていた説明書を読むことが大前提。謎解きも、説明書を読まなければクリアできない……どころか、普通にプレイしているだけではとうてい解けないような、理不尽な謎を持っているゲームも少なくなかった。それこそが、「ガチの1980年代」レトロゲームなのだ。

    さすがに本作は、普通にプレイを重ねていれば内容を理解でき、解けるようになっている。「ガチの1980年代」の理不尽要素まで再現しているわけではない。内容を把握するまでにはある程度のプレイ回数が必要なものの、一応チュートリアルも存在している。

    ただ現代のゲームと比べると、やはりわかりにくい。しかし、この「わかりにくさ」こそ、「コズミックホラー」へと繋がっている要素なのだ。

    「コズミックホラー」では、怪異に遭遇した主人公が、探索したり文献を確認したりといった行為によって、未知の存在への理解を深めていく。本作の「ゲームへの理解を深めていく」という体験は、この「コズミックホラー」のストーリーラインをなぞっているかのようだ。この結果、主人公に感情移入して恐怖に共感するのではなく、プレイヤー自ら恐怖を体験しているかのような感覚が味わえる。

    実際に本作のホラー演出には、プレイヤー自身に向けられたものが存在している。ホラー演出はプレイヤーを怖がらせるために行われるので、プレイヤーへ向けて演出されるのは当然だ。

    とはいえ、演出内で怪異に襲われ、危険な状況に陥るのはゲームキャラクターだ。「バイオハザード」シリーズのゾンビが攻撃するのはゲーム内キャラクターのクリスやレオンであり、プレイヤー自身に掴みかかってくることはない。

    だが本作のホラー演出のいくつかは、プレイヤー自身に向けられたものになっている。たとえばタイトル画面で大量の文字が次々表示されたり、ゲーム画面がノイズによって乱れたり……など。ゲームキャラクターが認識できない、プレイヤーでしか認識できない状況でのホラー演出が存在しているのだ。

    本作の「わかりくさ」が「コズミックホラー」へ繋がっていると感じたのは、こうした「プレイヤー自身に向けられたホラー演出」があるからだろう。ゲーム中、プレイヤーの操作するキャラクターは作中の怪異へ相対しているが、同時にプレイヤーも、本作という怪異に相対しているわけだ。

    だからこそ、本作は怖い。

    2D、ドット絵、ターン制……などなど、ホラーゲーム的には「怖さ」を表現しにくい要素で作られているにも関わらず、本作はまぎれもない「コズミックホラー」を感じさせてくれる。ビジュアルやゲーム性から人を選ぶ作品であることは間違いないが、恐らく、「コズミックホラー」好きであれば本作を堪能できるだろう。是非手に取ってみてほしい。

    「コズミックホラー」を選んだということは、あなたもまた「コズミックホラー」によって選ばれたということなのだ……。

    文/田中一広

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