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市場変化だけではない、誰が専門マスコミを衰退させたか?
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市場変化だけではない、誰が専門マスコミを衰退させたか?

2016-03-09 12:00
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今週のお題…………「格闘技と専門マスコミ」
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文◎田中正志(『週刊ファイト』編集長)…………水曜日担当


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 今週のテーマをいただいて、ちょうど金曜3月4日に新・新生K-1の代々木大会があり、日曜6日にチャンネルを変えていたら、フジテレビ系CS放送で1997年のK-1グランプリ大阪ドーム開幕戦をやっていた。-65kg日本代表決定トーナメント、やはり世界選抜トーナメントよりも日本人選手の潰しあいの方が感情移入するというか面白い。優勝した山崎秀晃、奥さん美人だなぁとか激闘を堪能させてもらったが、そのあとに全盛期のK-1大会アーカイブ番組が放送。当然結果とか全部覚えている回だが、また完全に見入ってしまったのだ。
 なんせ1997年は、名古屋ドーム含めてK-1が3大ドームツアーを推進、栄華の頂点にあった。ピーター・アーツがチャクリキから独立、離婚もあったという時期だがやはり顔が若い。地元凱旋の佐竹雅昭は延長を2Rもやらされて、アンディ・フグがテコンドー王者相手にメインを務め上げた。こっちの迫力に、現在進行形の-65kg日本代表決定トーナメントがどうしても霞んでしまう。なにしろ、若いファンには信じられないかもなのだが1997年には格闘技イベントが大阪ドームで開催されたのだ。入場からして大掛かりな"ドラゴンゲート"と"タイガーゲート"が用意され、舞台装置にも大金がかけられている。
 1997年当時、インターネットはまだ普及していない。専門誌メディアの衰退は、一にも二にもインターネットの浸透が原因ということになろう。また、BS/CS放送が北米市場と比べるなら今日でも拡散はまだまだだが、少なくとも格闘技ファンとなればパソコンを初めて買う決断よりも、まずアンテナ設置を含むテレビ環境の改善から始めるだろうから、一部のメジャー大会を除けば「読むだけ」で見ることが物理的に出来なかった時代と比べて、肝心の試合を自身の目で確かめて、結果はネット速報があふれるようになってくると、もう、ますます表面をなぞっただけの雑誌を買う行為から遠のいてしまう。この巌流島ブロマガ連載でも先に書いたが、それはプロレスでも一緒だし、アメリカでも同じこと。「WWE公式マガジン」もついに消滅・廃刊になってしまった。
 
 しかし、市場環境の変化だけを言い訳にして、落ちていく部数の責任を取らなかった編集部や記者の問題を指摘しないと公平さにかける。1996年、週プロを超大躍進させたターザン山本編集長が、トップ団体新日本プロレス批判記事を出したら、おごり高ぶっていた長州力現場監督が怒ったと、取材拒否の通告という絶対にやってはいけないことが本当に起きてしまう。まるで全体像をわかってない傍観者がこの事件を活字にすると、「これを機に週プロの売上が落ちていく」とかにするが、実際は「これを機にマット界全体の大きな地盤沈下が始まった」と記すべきだ。週刊ファイトの井上譲二・元編集長も著作で大書しているように、俗にいう『暗黒の10年』が始まってしまったからだ。いや、10年どころか、もう20年続いているといっても過言ではない。日本の業界は、プロレスも格闘技も一つだから、格闘技専門の媒体にせよ、団体に都合の悪いことはご法度みたいになってしまい、それではジャーナリズムではない。古今東西共通のテーゼ(命題)でもあるが、ジャーナリズムが機能してないジャンルに繁栄なんかないのは自明のこと。なのに長州力&新日本プロレスは、成長期なのに自分の首を絞めてしまったというのが冷静な分析になる。我が国のマット界は自滅してしまったのだ。
 
 例えば専門記者を名乗る以上、あれこれ全部の大会まで会場に行くのは無理にせよ、まずはサムライTVやGAORAに加入、UFC Fight PassとWWEネットワークに加入してと、最低限見ないことには書けないからそれらに時間を使うわけだが、そうやって大会フォローだけで毎週追われてしまうと、ライバル(?)雑誌が出たからと、読まなければいけないという気にならない。これは絶対チェックだというライターなりがいないし、魅力のある特集なり、独自の鋭い辛口評があるならまだしも、ありきたりの内容ばかりで時間を使う気が起きない。鋭い「ファイト直言!」コラム掲載まで無理なんだとしても、お仲間だけで紙面構成してもつまらないのは編集の原則にもかかわらず、専門家ならではの大会前紹介と分析にも光るものがない。どれだけ他媒体にない独自の情報と総括が載っているかにせよ、手前味噌ながら例えば海外ネットワークなら、私が責任者の電子書籍ジャーナル「週刊ファイト!ミルホンネット」がダントツのNo.1であり、おざなりの上辺情報を数週遅れで出している雑誌のに価値が見受けられないのだ。また、電子書籍には団体に都合の悪い指摘もバンバン載せている。なにしろI編集長こと故・井上義啓先生直系の教えを忠実に守っているのだから、批評精神を持たないなら専門媒体なんかやってはいけないと確信している。

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 競合他社の内容の不甲斐なさばかりを責めても、これもまたフェアではない。ターザン山本編集長が石もて追われたとき、ファンは抗議の声を上げなかった。この見殺しの罪と罰はあまりに巨大だ。あれでマット界は、成長して繁栄するジャンルではなくなった歴史的事実は正確に記録すべきである。ヲタクだけが心地よい小宇宙空間志向の、いびつなジャンルに転落していったのだ。
 直近では『UFC196』。スポーツ紙見出しに「コナー・マクレガーが初のミリオンダラー」というのがあり、これまでGSP(ジョルジュ・サン・ピエール)が最終的にたった1試合でどれだけ稼いだかを毎回報告してきた記者としては一瞬「?」である。よくよく読むと、最低保証額がミリオンダラー(通称1本)とあり、記事はなにも間違ってないのだが、やはりこれだと一般には誤解を与えかねない。代理人(スポーツ・エージェント)とUFC運営会社ズッファ社の駆け引きであって、保証額だけで大きくもらうのか、PPVの利益配分をあてにするのか、勝った負けたのボーナスに賭けるのか、立場によってそれぞれ皆が違うし、どれが正解の契約だったとも言いにくい。あるいは、日本大会にも参戦して中井りんを下したミーシャ・テイトが、ホリー・ホルムから一本取って女子バンタム級王座交代となったことは果たして「番狂わせ」なのかどうか。確かにホリーは、今や全米の社会現象と化したロンダ・ラウジー様をKOして王座を奪い、大ヒットTV犯罪ドラマ『ブレイキング・バッド』の現場だったニューメキシコ州アルバカーキー(元絶対王者ジョン・ジョーンズ逃走劇の舞台でもある)では、地元凱旋のパレードまで行われて事情通ならゲラゲラ笑ったものだった。また、(米国ではマイナーなのに)キックボクサーと紹介されるのも応援したくなる選手なのだが、ロンダ様に勝ったことが過大評価されていたように思う。
 アイルランド共和国ダブリンの貧困家庭出身にして、英雄になったコナー・マクレガーにせよ、電子書籍内では信じられない超豪邸をひけらかしている様子に注意を記したが、煽り段階から「マザー・ファッカー」と禁句を連発して挑発していた"悪童"ネート・ディアスに判定負けしている。ここで指摘したいのは、スポーツ紙に象徴される、名前のある媒体に書いてあることを権威だと勘違いして、ブログやSNSなどに二流記事ばかりを引用してしまう判断力を失った自称論客が大半な我が国の惨状について。確かに今はネット報道全盛時代なのだが、やはり無料で読めるものに頼っても、本当に知りたい核心にはたどり着けないのは米国でも日本でも同じである。本物の分析にメスを入れている専門媒体を読もうとせず、安易な無料ネットで間に合っているとする風潮を作ってしまったこともまた、結局は自らの首を絞めて専門誌メディアの衰退、ひいては業界全体の転落を助長したのではなかろうか。
 
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 インターネットの拡大・浸透が、必ずしもK‐1、プロレス、そして格闘技全体の衰退の直接の原因ではないと思います。1990年代後半、一局独占から市場原理のユーザー重視戦略に各団体が適合し得なかったことに大きな要因があったと、私は分析します。  
 21世紀の現在、格闘技ファンも専門ライターもインターネット、SNSではなく、実際に会場へ自ら足を運び、現場の生の試合を実体験することがより重要だと私は考えます。その上でその感動をネット上、活字メディアで広く視聴者に伝えるプロのライターとしての技量と眼力と志が、今こそ問われているのではないでしょうか。
43ヶ月前
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