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安倍晋三首相の靖国神社参拝について、中国や韓国はもちろん、米国、ロシア、欧州連合(EU)などから批判や失望、遺憾の表明が相次いだ。この問題をどう考えるか。基本構図を確認しておきたい。
まず、これまでの経過で明らかなのは、首相の靖国参拝問題は完全に「国際政治と外交の問題になった」という事実である。言うまでもないと思われるだろうが、国内の保守派からは「国のトップが犠牲になった英霊にお参りして、何が悪いのか」といった声がある。つまり「参拝は祈りの儀式」という主張である。
たしかに、参拝という行為自体を取り出してみれば、そうだ。その限りで話が済むなら、何も問題はない。だが残念ながら、そうした主張は 靖国参拝が各国に呼び起こした国際的な反響を前に色あせてしまった。
もはや、参拝問題は「祈り」という行為だけを単純に切り出して議論できない。言い換えれば、首相の靖国参拝は「政治化」してしまった。
GDP8兆ドル、米国債1.3兆ドル保有。経済で「急所」握る中国
なぜ、靖国参拝が「政治化」したのか。それは、小泉純一郎元首相が参拝したときに米国は何も言わなかったのに、安倍首相が参拝したら「失望した」と表明した事実に象徴されている。なぜ、米国の態度が変わったのか。
その理由を一言で言えば、米国がもはや中国を無視できなくなったからだ。アジア太平洋における中国の存在感は、年を追うごとに増している。中国の国内総生産(GDP)は2012年に8兆ドル強になった。これに対して日本は6兆ドル弱だ。米国は16兆ドル弱なので、中国はまだ米国の半分にすぎないが、日本をすでにしのいでいる(世界銀行データ)。
加えて、中国は世界一の外貨準備高(3.6兆ドル)を背景に、米国債を1.3兆ドルも保有している。これは保有国の中で世界最大である。中国に米国債を売り浴びせられたら、米国経済はひとたまりもない。長期金利は急上昇し、米ドルは暴落してしまう。
つまり、米国は中国に決定的な急所を握られている。
周小川・中国人民銀行総裁は2011年3月の時点で「外貨準備高は合理的な水準を超えている」と述べた。中国が米国債を買う原資である外貨準備が増えたのは、貿易黒字を出していながら通貨、元の変動を小幅にとどめ、為替水準を人為的に低く抑えているからだ。このまま中央銀行がドルを買って(=外準の増加)、その裏側で市中の元を増やせば、国内のインフレ圧力を抑えられないので、やがてはドル買い介入を縮小して、本格的な変動相場制への移行が避けられなくなるはずだ。
だから、周総裁の発言は自国の都合である。そうはいっても、米国にしてみれば「中国が膨大な米国債を保有してしまった」現実は、いまさら変えられない。米国との貿易関係も深まっている。つまり経済面では中国と手を握り、両者が利益を享受する「ウィンウィン関係」に持ち込む以外にない。