「ぼくはねぇ、その日、碁会所に行くつもりだったんですよ。それで、途中の電車の中でこれを読もうと思って、鞄に放り込んでおいたわけ。ところがねぇ、読み始めたら止まらなくなちゃって。それで仕方なく、喫茶店に入ったんですよ。それで、ご飯を食べながら続きを読んだわけ。そうしたら結局、最後まで読んじゃって。それで結局、その日はそのまま家に帰っちゃったんですよ」
ぼくは、上田先生のお話の意図するところが、ぼんやりとではあるが理解できた。しかし、それはにわかには信じがたいことだったので、何も言わないでおいた。
すると、座は一旦しんと静まった。どれだけ沈黙が続いただろうか。誰も口を開こうとしなかったから、仕方なく上田先生が、こうつけ加えられた。
「つまり、それだけ面白かったってことなんですけどね」
それで、ぼくと加藤さんは顔を見合わせた。それから、加藤さんが次のような質問をした。