Vol.224 結城浩/再発見の発想法/esa.ioを使ってみよう(2)/作品を書く人は「言い訳」をしない/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年7月12日 Vol.224

はじめに

おはようございます。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

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 【ブロマガメンテナンス】
 2016年7月12日(火) AM 6:00 〜 AM 11:00
 ※状況により終了時間が前後する場合があります。
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まぐまぐ!で購読なさっている方には影響はありません。

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Evernoteの話。

「Evernoteを活用していますか?どのように?」 という質問をときどきいただきます。

結城はEvernoteをたいへん活用しており、 執筆の仕事に欠かせないツールの一つになっています。

 ・本に関わるアイディアをメモする場所として
 ・参考書のスクリーンクリップを保存する場所として
 ・読者からの質問や誤植の指摘を保存する場所として

というのが主な用途です。 それ以外、日々の備忘録にも使っています。

現在ホットになっている書籍のアイディアや、 参考書のスクリーンクリップはもちろん大事です。 何しろ直近の作業に影響を与えますからね。

でも「読者からの質問や誤植の指摘を保存する場所」としての方が、 Evernoteの恩恵を享受しているかもしれません。 というのは、読者からの情報は、 その情報を得た直後だけではなく、

 ・正誤表を作るとき
 ・改訂版を作るとき
 ・新規企画を考えるとき

に大いに役立つからです。つまり、

 ・情報を「入手」する時
 ・情報を「使用」する時

この二つのあいだに時間があるということですね。 ということは、その間きちんと保存して置かなければなりません。 Evernoteを使っていると、

 「この本に関する読者からの情報はこのノートブックの中にあるはず」

という確信が得られますが、これは大きな助けです。

また、読者からの情報は、 以下のように多様なチャンネルからやってきます。

 ・メール
 ・TwitterのツイートやDM
 ・Facebookの記事やMessenger
 ・ブログ記事

必要になった時点で複数のチャンネルを探し回るのは非効率的ですから、 いろんな形での情報を入れておけるEvernoteは助かりますね。

これに関連した話題は、 後ほど「esa.ioを使ってみよう(2)」にも出てきます。

ところで、原稿そのものはEvernoteには入れていません。 結城は原稿をLaTeXで書いていますので、 プレーンテキストの管理が重要になります。 でも、Evernoteはプレーンテキストを管理するには向かないからです。

検索してみると、Evernoteに対して何年も前から、 「プレーンテキストを扱えるようにしてほしい」 という要望が出ていたようです。 でも、まだ対応されていません。

なぜでしょうね……

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しょうもない話。

「ふとんがふっとんだ」(実況記事)

「ふとんはふっとんだ」(叙事)

「ふとんはふとんだ」(トートロジ)

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数学の話。

先日、鯵坂もっちょさん(@motcho_tw, id:motcho)の記事を楽しく読みました。

 ◆とりあえずだまされたと思って-((-1)^(1/7))を2乗してみてくれ
 http://motcho.hateblo.jp/entry/2016/06/06/222447

ここに出てくるのは、

 aを二乗したらbで、
 bを二乗したらcで、
 cを二乗したらaになる、

という数はどんなもの? という話題です。 二乗を繰り返すと、a→b→c→a→... のようにぐるっと回って戻ってくる数です。

この記事を読むだけでもおもしろいのですが、 どうしても「なぜ、ぐるっと回って戻ってくるのか」を目の当たりに見たくて、 こんな図を描いてみました。


2016-06-07_motcho.jpg

「二乗を繰り返すと、ぐるっと回って戻ってくる」というのが、 「二倍して剰余を取ると、ぐるっと回って戻ってくる」というのに帰着できて、 楽しい気持ちがさらにアップ! 自分の手を動かして考えるのはいいですね。

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ワンテンポ遅れる話。

年を取ると何につけても「ワンテンポ遅れる」感があります。

単に瞬間的な反応速度が遅いというだけではありません。 たとえば、いつもより激しい運動をしたとき、 次の日になって身体が痛くなるのはまだまだ若い証拠です。 年を取ると、一日置いてさらに次の日になって身体が痛くなる (ような気がするのです)。

ソフトやサービスの評価で似たような現象が最近ありました。 ある週に「Ulyssesはどんなソフトかなあ」と試していて、 次の週になって、今度は「esaはどんなサービスかなあ」と試します。 そしてさらに次の週になって「そういえば、Ulyssesはなかなかいいかも」 などと考えはじめています。 自分の頭がワンテンポ遅れるのは悲しいですねえ。

まあ、「ワンテンポ遅れる」ことがわかってさえいれば、 そんなに困ることはないんですけど。 要するに、

 性急な判断をしないように

ということなんですから。

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歩く話。

結城はふだん、外にでて仕事をしています。 森を抜けて仕事場へ行き、カフェを巡って文章書き。

iPhoneの「ヘルスケア」というアプリには、 結城の歩数が記録されています。 それによると、普段の結城の歩数は一日5000〜8000歩のよう。

先日、外に出ない日が三日続いたのですが、 その日はいずれも1000歩未満になっていました。 外に出ない日の歩数は激減です。

やはり、外に出て仕事するのは、 健康のためによいのではないか、と再認識しました。

あなたは一日に何歩くらい歩いてますか。

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具体例がすべてではないという話。

文章では「具体例」がとても大事になります。 でも、どんな場合でも具体例が有効とは限りません。 具体的な話は確かにわかりやすく感じますが、 読者によってはわかりにくいと感じる場合もあるからです。

読者が一般論を求めているときに、 具体例ばかりを羅列してもよくありません。 具体例を並べても説明の代わりにはならないからです。

説明をせずに具体例を羅列するのは、 読者に対して「抽象化」や「一般化」という情報処理を丸投げしているともいえます。 その意味では、具体例の羅列は読者への負担となりかねません。

具体例だけを示し、相手に一般化を暗黙のうちに行わせるのは、 詐欺師のテクニックにもありますね。

 「Aさんはこの方法で123万円儲けました!」

という具体例だけを出すと、いかにも、

 「誰でももうかります」

という一般論を提示しているように見えます。 でも、読者に一般化を行わせ、説明を補完させて、 誤解へ導いているのです。

「具体的すぎてわからないから、もっと抽象的に言ってほしい」 というのは理系ジョークの一つですが、 具体例は、説明と共に適切に使いたいものです。

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draw.ioの話。

結城はふだん『数学ガール』の図を描くとき、 TikZというLaTeXのパッケージや、OmniGraffleというドローツールを使っています。

 ◆TikZ
 https://texwiki.texjp.org/?TikZ

 ◆OmniGraffle
 https://www.omnigroup.com/omnigraffle

それはそれで問題ないのですが、 ときどき、原稿に残すわけではなく、 もっと「さくさく」っと図を描いて考えたいときがあります。 そんなときには、draw.io が便利です。

 ◆draw.io
 https://draw.io

ブラウザで draw.io を開くといきなり、 「新しい図を作る」と「既存の図を開く」ボタンが現れます。

 ◆draw.ioにアクセス直後

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そこで「新しい図を作る(Create New Diagram)」を選ぶと、 ブラウザ上ですぐに図を描き始められるのです。 そして、そのまま保存もできます。

 ◆draw.ioで図を描いている途中の様子

cf4a5c606fb4b4a1ac2bebcf77daeef2.png

draw.ioは手軽でいいツールですね。

 ◆draw.ioでさくさくと描いてみた「結城メルマガ」の執筆の流れ

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Twitterでの「学び」の話。

先日「有理数体のp進完備化」という概念について考えていたとき、 自分の理解がおかしいんじゃないかと不安にかられて、 ツイートをしました。

 https://twitter.com/hyuki/status/749165448428523520

結果的に、何人かの人に教えていただいて、 私は自分の理解を正すことができました。 ……と、こういう出来事を結城はよく体験します。

Twitterに限りませんが、結城のところには、 いろんな方から「結城さん、ここまちがってますよ」や、 「結城さん、それはこうしたほうがいいですよ」 というメッセージがやってきます。

結城は数学読み物を書いていますから、数学の専門家から、 あるいは結城よりもずっと数学を理解している愛好家から メッセージがやってくるのです。 それは、何と感謝なことでしょうか。

正直いうと、そのすべてを結城が理解できるわけではなく、 自分の不勉強を恥じて終わることも多いです。 でも、たとえそうだとしても、 このようなメッセージを送ってもらえることは感謝です。

ふと思うんですが「インターネットで情報発信」というとき、 必ずしも、権威者として発信しなくてもいいのではないでしょうか。 その道のオーソリティだけが情報発信するものではない。 そうじゃなくて、学ぶ人がその都度その都度、

 「自分の現在の状況を発信する」

ことにも、大きな意味があると思います。

もちろん、まちがった情報を流しっぱなしというのは困りますが、 「絶対に正しい情報でなければ発信できない」 と考えないほうがいいと思います。

せっかくインターネットが発達した現代に生きているのですから、 思い切って自分の学びを発信し、 いろんな人からフィードバックを受けるというのは、 なかなかよいことじゃないかと考えています。

きっと、正直ベースで行くのがいい戦略なんですよ。 自分が「わかった」と思うことは「わかった」という。 自分が「わからない」と思うことは「わからない」という。 そういう正直さが、長期的には功を奏するのではないかと思います。

「聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥」の現代版ですね。

結城は、前世紀の終わりから、 そんなふうにして、たくさん学ぶことができました。

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では、今週の結城メルマガを始めましょう。

どうぞ、ごゆっくりお読みください!

目次

  • はじめに
  • 再発見の発想法 - 三路スイッチ
  • esa.ioを使ってみよう(2) - 仕事の心がけ
  • 作品を書く人は「言い訳」をしない - 文章を書く心がけ
  • おわりに