結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年8月1日 Vol.279
はじめに
おはようございます。結城浩です。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
もう八月ですね……「夏本番」といえる暑さがやってきました。
暑い日でも、できるだけ外を歩く時間を作るようにしています。 一つは健康のためで、もう一つは仕事のためです。
「身体を動かすことは文章を書くのに役立つ」 ということは経験上わかっています。 単に血行がよくなって、 頭に酸素がたくさんまわるからかもしれませんけれど、 理由はまあなんでもいいでしょう。
自分の身体に刺激を与えることで、 自分の仕事(特に文章)にも刺激が加わるのを感じます。
ということで、暑い中、汗を流しながら、 せっせと歩くように心がけているのです。
* * *
「ロバ耳」の話。
結城は「ロバ耳」というWebサイトを20年間運営してきました。
◆Webサイト「ロバ耳」
http://www.hyuki.com/roba/
どうも調子が悪いというとき、 友達としゃべったり、メールを書いたり、 あるいはSNSに書き込んだりすると、 ちょっと気分がよくなることがあります。
誰かにメールを書いて送信した時点で (つまり、相手からのアドバイスや共感をもらう前に)、 気分がよくなっているという現象もよくあります。
だとしたら、もしかして
きちんと読まれることは保証されるが、
返事は絶対にこない
という形式のメールにも意味があるんじゃないだろうか。 そんなことを、結城はずっと昔から考えていました。
20年前のWeb日記で、 こういう企画には何という名前がいいだろうか、 という質問を提示したところ、複数人から、
「ロバの耳」
という名前がいいという案をもらいました。 そのような経緯を経て、 この「王様の耳はロバの耳」(ロバ耳)が誕生したというわけです。
「ロバ耳」で結城が定めたルールは以下の4個です。
ルール0.誰でも、何でも自由にお話しください
ルール1.あなたが話すことを結城はていねいに聞きます
ルール2.結城は返事をしません
ルール3.あなたが話すことは公開されません
実際には「話す」というのは、 結城が用意したWebフォームに書き込むという意味で、 「聞く」というのは、 結城に送られてきたその書き込みを読むという意味です。
送られてきた書き込みを結城は読むだけです。 その内容は誰にも言わないし、 書き込んだ人にも返信したりしません。
ただ、それだけのサイトなのですが、 「ロバ耳」が誕生した1997年7月31日以来、 結城の想像を越えた多くの方から利用いただくこととなりました。
今回「ロバ耳」を終了するのは、 一つは結城自身のキャパをオーバーしているためで、 もう一つは20年目という機会を節目としたいためです。
正直、20年も続くことになるとは思っていませんでした……
流れとしてはここで「ロバ耳」の思い出話を書くところですが、 このWebサイトの性質上、それは不可能です。
ということで、ご利用くださったみなさん、 ありがとうございました。
* * *
留年と進捗遅れの話。
京都大学のカウンセリングルームのWebサイトに「留年について」 という文章があります。 以前も見たことがあるのですが、先日再読してとてもよかったのでご紹介。
特に「学生さんが一度留年して、それがさらなる留年を生むという悪循環」 について書かれた部分は、学生さん以外でも参考になると思います。
◆留年について-カウンセリングルーム(京都大学)
https://www.gssc.kyoto-u.ac.jp/counsel/ryunen.html
項目だけ抜粋しましょう。 以下が「悪循環に陥るパターン」だそうです。
(1)留年を家族や友人に隠そうとする
(2)一挙に挽回しようとする
(3)日々の楽しみを自分に与えない
(4)卒業しなければ生きていけないと考える
(5)時期尚早に「来年からがんばろう」と考える
(6)自分は他の学生より明確に劣っていると考える
先ほどのWebページには、 各項目について丁寧な解説が書かれています。
ところで、この「悪循環に陥るパターン」というのは、 進捗が進まないクリエイタが陥る危険性にも当てはまりそうです。 たとえば、以下のように読み替えてみましょう。
(1)遅れを編集者に隠そうとする
(2)一挙に挽回しようとする
(3)日々の楽しみを自分に与えない
(4)〆切にまにあわなければ生きていけないと考える
(5)時期尚早に「次の作品からがんばろう」と考える
(6)自分は他のクリエイタより明確に劣っていると考える
そういえば、結城も最初の本を書いているとき、 これと似たような心境に陥りました。危険です。 とっても危険です。 そのときは担当編集者からのアドバイスに従うことによって、 危険を脱することができました。
クリエイタ系の人の中には、 繊細な心を持ち、潔癖な性格の方もいらっしゃいます。 その心とその性格のゆえに生まれる作品というものもありますが、 進捗遅れの「悪循環に陥るパターン」にはまる危険性も高いです。 ぜひ、ご注意していただきたいと思います。
* * *
高校生の活躍の話。
国際化学オリンピック、国際数学オリンピック、国際物理オリンピックで、 日本の高校生が活躍しているようすが記事になっていました。 以下、高校生新聞onlineの記事をご紹介。
◆国際化学オリンピック 日本代表全員がメダル 坂部圭哉君が2年連続「金」、3人が「銀」
http://www.koukouseishinbun.jp/articles/-/2028
◆国際数学オリンピック 髙谷悠太君(開成高)が世界1位 日本代表全員がメダル
http://www.koukouseishinbun.jp/articles/-/2229
◆国際物理オリンピック 渡邉明大君が世界1位、3年連続金メダル 日本代表は金2銀3
http://www.koukouseishinbun.jp/articles/-/2230
* * *
表記法の話。
先日「サイゼリヤ」がネットで話題になったとき、 以前から気になっていたことを思い出しました。
気になっていたことというのは、 店名が「サイゼリ《ア》」ではなく「サイゼリ《ヤ》」になっていること。
日本には「そっちが正式名称なんだ!」と驚く名前がいくつかあります。
結城が気づいていたのは、
サイゼリヤ(サイゼリアじゃない)
キヤノン(キャノンじゃない)
日経ソフトウエア(日経ソフトウェアじゃない)
くらいでしたが、 いろんな方から意外な表記をたくさん教えていただきました。 以下、その一部です。
オンキヨー(オンキョーじゃない)
キユーピー(キューピーじゃないんだ!)
シヤチハタ(シャチハタじゃないの?)
富士フイルム(富士フィルムだと思ってた…)
文化シヤッター(文化シャッターでもないし、文化シヤツターでもない!)
おもしろかったのは、
函館どつく
です。函館を「どつく」わけではなく函館ドックのようです(造船メーカー)。
* * *
そのアカウントはどんな人?の話。
Twitterを眺めていると、ときどき 「思わずリツイート(RT)したくなるようなおもしろツイート」 が流れてきます。でも、RTした後で、
「結城さん、さっきのは《パクツイBOT》による
《パクリツイート》でしたよ」
と教えていただくことがあります。
つまり、こういうことです。
(1)誰か(A)が非常におもしろいツイートをする。
(2)パクツイBOTなどと呼ばれるアカウント(B)が、 そのツイートの内容をパクって、 あたかも自分のものであるかのようにツイートする(パクリツイート)。
(3)パクリツイートを見た人が「これおもしろいな!」といって、 パクリツイートとは知らずにRTして拡散する。
(4)オリジナルのツイートをしたAではなく、 パクリツイートをしたBがフォロワーを増やす。
パクリツイートを拡散するのは好ましくありませんけれど、 自分が見ているツイートがオリジナルのツイートなのか、 それともパクリツイートなのかを見極めるのは難しいものです。
ツイート単体での見極めは難しいですが、 パクリツイートをしているアカウントを見分けることは、 それほど難しくないかもしれません。 少なくとも確信犯的にパクツイBOTを続けているアカウントはわかりそうです。 というのは、
そのアカウントが、
他の人からどんな「リスト」に入れられているか
を調べることができるからです。 多数の人から「パクツイBOT」や「パクリ」 などという名前のリストに入れられていたら、 パクツイBOTである可能性が高いでしょう。
確認方法はアプリで異なりますが、 iPhoneのTwitterクライアントの場合、 そのアカウントのプロフィールページから歯車をタップして、 →「リストを表示」→「追加されている」タブで調べます。
アプリでのUIの違いはありますが、 要するに「@ユーザ名」がどんなリストに追加されているかは、
https://twitter.com/ユーザ名/memberships
というURLにアクセスすればわかります。 たとえば、結城浩(@hyuki)の場合には
https://twitter.com/hyuki/memberships
というURLを表示すればいいですね。
ちょっと時間があったので、 そのアカウントのプロフィールページやツイートを表示した状態から、 「そのアカウントはどんなリストに追加されているか」 を調べるブックマークレットFameList.jsを作りました。
◆TwitterでパクツイBOTか否かを調べる方法
(FameList.jsで「そのユーザが登録されているリストページ」を確かめる)
https://snap.textfile.org/20170725150257/
厳密には「パクツイBOTか否か」を調べているわけではないのですが、 当該アカウントが「他人からどんなリストに入れられているか」 は有益な情報になるでしょう。
ちなみに、 結城のアカウントが入っているリストを名前が多い順に並べてみました。 こんな感じです。
43 math
37 IT
34 science
30 tech
29 数学
27 famous
25 My
23 engineer
20 it
17 twizard-magic-list
17 programmer
17 dev
15 book
14 writer
13 programming
12 developer
12 celebrity
11 author
10 list
10 geek
10 fav
(以下略)
https://gist.github.com/hyuki0000/43c35992a0b43761336f9542926bc1a8
なるほど。
* * *
親子の話。
よく晴れたある日のこと。
結城が駅に向かって歩いていると、 リュックを背負った親子(父と娘)らしい二人が前を歩いています。 これからきっと「プチお出かけ」なのでしょう。
はっきりとはわかりませんが、背丈から想像して、 娘さんは小学五年生くらいに見えます。
何ということもなしに二人が歩くのを後ろから見ていると、 お父さんの方の手が少しずつ娘さんの手に近づいていきます。 どうも、お父さんは娘さんと手をつないで歩きたい様子。
デートで手をつなごうとしている男女を見てるみたいに、 私のほうがどきどきしてきました。
娘と二人、手をつないで歩く休日へ……
お父さんが手を伸ばして、ようやく手が触れようとした瞬間。 娘さんに(うざいな)という感じに振りほどかれていました。 お父さんは再挑戦せず。
あのくらいのお年頃になると、 親と手をつないで歩くというのは難しいのかもしれませんね。
お父さんの失意の胸の内を想像して、
(お父さん、ガンバ…!)
とエールを送ってしまいました。
* * *
それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- 読書感想文のテンプレート - 文章を書く心がけ
- 「頭がいい人」について
- これだけは負けないと思うこと - Q&A
- おわりに