Vol.318 結城浩/pixivFANBOX/優秀な人を見ているとつらい/人にうまく説明する方法/繰り返し本を読む/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年5月1日 Vol.318


はじめに

結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

早くも『数学ガール/ポアンカレ予想』の増刷が決定しました!

刊行されて二週間足らずなのに、もう増刷というのは驚きです。

ひとえに応援してくださる読者さんのおかげです。ほんとうにありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします!

◆『数学ガール/ポアンカレ予想』
http://www.hyuki.com/girl/poincare.html

ところで、第6巻『数学ガール/ポアンカレ予想』の刊行にともない、これまでの第1巻〜第5巻が「どんな内容なんだろう」と関心を持たれる方もいらっしゃいます。そこで「数学ガール」シリーズの内容を紹介するため、

 『数学ガールへの招待状』

という8ページの小冊子を作りました。以下の書店さんでの取り扱いになります。よろしくお願いいたします。

◆小冊子『数学ガールへの招待状』取り扱い店舗一覧
https://mm.hyuki.net/n/n3c8a6747b813


目次

  • はじめに
  • 目次
  • pixivFANBOXを始めました
  • 自分よりも優秀な人を見ているとつらくなる
  • 人にうまく説明する方法とその練習 - 教えるときの心がけ
  • 本を繰り返し読むということ
  • おわりに

pixivFANBOXを始めました

pixivFANBOX始まる

pixiv(ピクシブ)というのは、マンガやイラストを中心としたSNSで、利用者が画像を投稿したり閲覧したりして楽しむ世界規模の有名なサイトです。公式Webサイトによれば、ユーザ数は約3千万人とのことです。

◆pixiv
https://www.pixiv.net

そのpixivが先日pixivFANBOX(ピクシブ・ファンボックス)という新しいサービスを始めました。これはクリエイターを金銭的にファンが支援するサービスで、クリエイターが提示した「プラン」をファンが月額課金によって支援するというスタイルをとります。

◆pixivFANBOX(ピクシブ・ファンボックス)
https://www.pixiv.net/fanbox

◆pixivFANBOXプレスリリース
https://www.pixiv.co.jp/news/press-release/article/6212/

pixivFANBOXが一般のクリエイターに公開されるようになったのはほんの数日前、2018年4月26日のこと。しかし、あっという間に登録クリエイターが増え、公式Twitterアカウントによればリリース4日間で2万人が登録したそうです。

◆pixivFANBOX公式Twitterアカウント(@pixivfanbox
https://twitter.com/pixivfanbox

結城自身はマンガを描くわけでもイラストを描くわけでもないのですが、フリーランスのクリエイター系の立場からこのpixivFANBOXに非常に関心を持っています。

ということで、結城もさっそく「結城浩のpixivFANBOX」を始めてみました。

◆結城浩のpixivFANBOX(スクリーンショット)

2018-04-30_pixiv1.png

◆結城浩のpixivFANBOX
https://www.pixiv.net/fanbox/creator/24344450

無料・有料の境目を「自分ごと」として考えるために

この話題を知ってからpixivFANBOXをTwitterで検索していると、多くのpixivユーザが期待と困惑の入り交じった思いでこの企画をとらえているようすが伝わってきました。pixivFANBOXではリアルなお金が動きます。趣味で無料で絵を描いて交流するというときには気にならなかったことを急に意識し出しているようです。

それを眺めながら、結城は自分のことを思い出していました。有料メールマガジンであるこの「結城メルマガ」を始めたときや、note(ノート)でオンラインテキストを売ることを始めたときに感じたことと同じことを、pixivFANBOXを見たユーザが感じているように思えたからです。

いままでぜんぶ無料で公開してきた人が「ここまでは無料だけど、ここからは有料」という壁(いわゆるペイウォール)を作ってもいいよと言われたときの困惑と期待。無料と有料の境目をどのように決めるか、そもそもそんなものを作っていいのか、差別化するのかしないのか、無料ならば見てくれるかもしれないけど、有料にしたとたん誰も見に来ないのでは……無料/有料の境界線を「一般論」として考えるときと「自分ごと」として考えるときではまったく違う感覚になります。

結城が有料メールマガジン「結城メルマガ」を始めて「有料」の重みを考えていたころの解説記事はマガジン航に短期集中連載したことがあります。pixivFANBOXの登場で、無料・有料について「自分ごと」として考え始めたクリエイターさん向けの記事とも言えますね。この記事は四年前のものですが、古びた内容にはなっていないと思います。

◆結城浩「私と有料メルマガ」(短期集中連載) - マガジン航
https://magazine-k.jp/category/series/on-my-paid-email-magazine/

結城がnote(ノート)を始めたときに考えた内容の一部は「投げ銭」という形にもなっています。note(ノート)が始まったときも、コンテンツは全部見せて「気に入ったら投げ銭よろしく」というタイプの記事を書いていました。2014年にはnote(ノート)にも公式な「投げ銭」的機能ともいえる「サポート機能」がついていますね。

◆投げ銭スタイル - 結城浩
https://mm.hyuki.net/m/m2fcf49389ee8

◆クリエイターを金銭的に支援できる「サポート機能」を追加いたしました! - note公式
https://note.mu/info/n/n44b59869e25f

pixivFANBOXの特徴

結城は最初、pixivFANBOXを有料メルマガやnote(ノート)と同じようなものととらえていました。でも調べてみるといくつか違いがあることがわかりました。

たとえば、pixivFANBOXは「月額課金」のみです。つまり、作品一つ一つを購入したり、作品一つ一つに対して投げ銭するのではなく、あくまで「クリエイターを継続的に支援する」ということに重きを置いています。

◆石井/さわき@pixivさんのツイート(スクリーンショット)

2018-04-30_pixiv3.png

◆石井/さわき@pixivさんのツイート
https://twitter.com/sawaki_yuko/status/989517219066335232

作品の購入ではないという点は、ペイウォールのありかたにも現れています。あるクリエイターを支援する(つまり月額課金する)と、その金額に応じた特典コンテンツが見られるようになっているのですが、過去の特典コンテンツが遡ってすべて見られるというタイプになっているのです。さらには、課金した人への特典は必須ではないというのも特徴です。あくまでクリエイターが新しい作品やおもしろい活動に取り組むための支援をするのが目的であって、課金によって何かを購入するというのが主目的ではないということです。

クリエイターが「好きなもの」を作ることをサポートする道を作るというのが、pixivFANBOXのねらいのようです。

「もし、月額制というかたちで、ファンがクリエイター個人に直接支援金を贈ることができれば、クリエイターは既存の商業活動によらない新たな収入源を継続して得ることができるようになります」(プレスリリースより)

「結城浩のカフェ代支援」プラン

とにかく自分でpixivFANBOXの開設してみないことにはどういうものかよくわからないので、さっそくpixivFANBOXを開設しました。pixivアカウントを持っていればすぐに無料でpixivFANBOXを作ることができます。

開設方法などを細かく書くのもなんなので、詳しくは結城の以下の連続ツイートをごらんください。

◆pixivFANBOXを作ってみました - 結城浩の連ツイ
https://rentwi.hyuki.net/?989748624228737024

一人のクリエイターは複数の「プラン」を作ることができます。私は「結城浩のカフェ代支援」という毎月200円のプランを作ってみました。

◆「結城浩のカフェ代支援」プランを作りました。(スクリーンショット)

2018-04-30_pixiv2.png

◆「結城浩のカフェ代支援」プランを作りました。
https://www.pixiv.net/fanbox/creator/24344450/post/11147

私はカフェで文章を書きます(この原稿もカフェで書いています)。支援者さんからいただいた月額課金はカフェ代金に充当させていただきます……ということで、支援者への特典はいまのところありません。何かおもしろいことを思いついたらまたプランを考えようと思っています。

そんなプランを公開したところ、さっそく何名かのファンの方が「結城浩のカフェ代支援」プランに参加してくださいました。こんなに早く反応があるとは思ってもみなかったのでびっくりです!たいへんありがたいことですね。

そしてわかりました。これはやっぱりやってみないとわからない感覚だな、と。

あなたが読んでいらっしゃるこの「結城メルマガ」もそうです。現在は七年目にはいっているこの有料メルマガですが、購読者さんがいらっしゃることがどれだけはげみになっているか。経済的に助かるのはいうまでもありませんが、読者さんが「支援してくださる」「支えていてくださる」という感覚はかけがえのないものなのです。

書籍であれ、有料メルマガであれ、Web連載であれ、そしてここでお話しているpixivFANBOXであれ、リアルなお金を投じてまでも支援してくださるという人の存在は、ものすごくはげみになるものなのです。

ということで「結城浩のpixivFANBOX」をまずは開設してみました。というお話でした。

◆結城浩のpixivFANBOX
https://www.pixiv.net/fanbox/creator/24344450


自分よりも優秀な人を見ているとつらくなる

質問

僕は小学生の頃からプログラミングを始め、今は大学生です。

初めは好きでやっていたことですが、今はまわりの優秀な人たちを見ていると苦しくなります。だからつい、もっと上を目指してしまいます。でも、これからもずっと、このつらさがつきまとうことに耐えられるのかと不安です。

自分に、何か他のアイデンティティがあれば良いとは思いますが、他人より優位に立てるものしかアイデンティティとして認められない自分もいて苦しいです。

心の持ち方、アイデンティティに関して結城先生の考えをお聞きしたいです。

回答

ご質問ありがとうございます。

私自身も、大学生時代に自分のアイデンティティに関して悩みました。あなたとやや方向性は違いますが、ぐるぐると苦しかったことはよく覚えています。私自身は「自分を特徴づけるものは何か」で苦しむことが多く、「他者との比較」についてはあまり気にしていなかった(まわりが見えていなかった)と記憶しています。

さて、あなたが優秀な人を見てはげみにするのはいいことです。でも、あなたが書いているように、他人より優位に立てるものしかアイデンティティとして認められないというのは確かに苦しいことだと思います。

正直にいいますと、他人より優位に立てるものしかアイデンティティとして認められないというのはかなり無茶な話、不可能に挑戦するような話と思えます。

なぜなら、世の中は広いから。あなたがどんな分野、どんな領域を選択しようとも、ほとんどすべての分野や領域で、あなたよりも優秀な人は必ず存在するでしょう。もしも、他人より優位に立たなければならないというのを推し進めるのなら「自分の活躍場所」をとても狭く限定してしまう危険性がありますよね。

忘れて欲しくないことが一つあります。それは大学生であるあなたは「大きな変化の途上にいる」ということです。

現在あなたは自己認識を持っているでしょう。自分はこれがこのくらいできる。自分はこれはこのくらいしかできない。自分はあいつよりもこれが得意だ……という自己認識です。

でも、あなたは「大きな変化の途上にいる」のですから、あなたが持っている自己認識こそ、大きく変化していくのです。「自分はこういう人間だ」と思い込みすぎるのは不適切です。流れていく川を氷のごとく考えるように不適切です。枝を大きく広げようとする若木を彫刻のごとく考えるように不適切です。

あなたの中には、あなた自身が気付いてない能力がまだまだたくさんあります。あなたはそれを発見し、大きく育てることになります。それは他者との比較から生まれるものではありません。そうではなく、自分の存在を認め、自分の変化を認め、自分を大切にするところから生まれます。自分という生き物を育てていくのです。

自分を育てる過程の中で、他者との比較がはげみになることはあるでしょう。でも他者との比較が成長の主目的ではありません。

もっというならば、あなたに価値があるのは、あなたが何かをできるからではなく、あなたがあなたであるからです。一つの能力や一つの分野で秀でているから価値があるのではありません。存在に価値があるのです。それはあなたが「人を愛する」ことを知ったときに深く実感するはずです。自分が愛する人に価値があるのは、その人が何かをできるからではなく、その人がその人であるからなのです。

それと同じ意味で「自分を愛する」とき、すなわち自分自身の存在をそのまままるごと認めるとき、それが自分の成長の土台となります。何かができるから自分に存在意義があるのではなく、自分の存在が認められるからのびのびといろんなことができるようになるのです。

自分が「大きな変化の途上にいる」ことと、「自分の存在をまるごと認めて自分を愛する」ことをどうか覚えていてください。

以下の文章は二十年前に書いたものですけれど、今日のあなたのために書いたような文章に思えました。

◆こどもとおとなのあいだにいるあなたへ
http://www.hyuki.com/story/youth.html

ご質問ありがとうございます。