Vol.326 結城浩/数学に熱中するきっかけ/タイムマネジメント/学ぶときの心がけ/本を書く心がけ/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年6月26日 Vol.326


はじめに

結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

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目次

  • 数学に熱中したきっかけ
  • 大学一年生のタイムマネジメント
  • 専門外の人に専門的なことを説明するとき
  • 「いつも明るい人」に不信感を抱いてしまう
  • 証明の細部は読者の練習問題とする - 学ぶときの心がけ
  • 堅固な「理解」を構築するコツ - 学ぶときの心がけ
  • 「みんなが読みたいもの」と「自分が書きたいもの」をすりあわせる方法 - 本を書く心がけ

数学に熱中したきっかけ

質問

結城先生が数学に熱中したきっかけってありますか。

回答

ご質問ありがとうございます。

そうですねえ、小中学生のころに講談社の「ブルーバックス」のような本を読んだ経験は、数学に興味を持つきっかけになっていると思います。いわゆる一般向けの科学啓蒙書でしょうか。

ところで、いまにして思えば、小中学生のころに読んだ啓蒙書の内容、私は「ほとんど理解してなかった」といえます。ブルーバックスはたくさん買いましたが、理解したのはほんの一部分だけだったんじゃないかなあ。

理解してはいませんでしたが、読んで「こりゃおもしろい話だ」と感じることはたくさんありました。

トポロジーの本を読んで、ぐにゃぐにゃした変な形を楽しみました。自分で大きな模造紙にトーラスを描いて遊んだのを覚えています。相対性理論ではローレンツ収縮の話や、ウラシマ効果の話など。その他「ブルーバックス」以外にも、カタストロフィ理論やフラクタル幾何学などなど。さっぱり「理解」はできてませんでしたが「ここにはおもしろい話があるぞ!」という体験はたくさんありました。

ふと気がつくと自分自身がそのような一般向けの啓蒙書を書く立場になっていることに気付きました。子供のころに私が「ブルーバックス」を楽しんだように、現代の中高生は「数学ガール」を楽しんでくれています。

ですから、私の書いた「数学ガール」を読んだ小中学生から「数式はさっぱりわからなかったけど、とってもおもしろい話でした!」という感想が来ると「わかる、わかるよ、その気持ち!」と言いたくなります。

それから、ときどき読者さんから「私は『数学ガール』に興味があるんですけれど、読んで理解できるかどうか心配です(震え声)」というメッセージをいただくこともあります。そんなときには、自分の経験を踏まえつつ「無理に読んで嫌いになられても困りますけど、でも実は、理解できるかどうかというのは、それほど大きなことじゃないんですよ」とお返事したくなります。

話がちょっとそれちゃいましたけれど、そんなところです。本との出会いは大事ですね。

ご質問ありがとうございました。


大学一年生のタイムマネジメント

質問

「大学は自由なところだ」という言葉を信じて「大学に入ったら、自分でこんなことを勉強するんだ」ということをモチベーションに入学しました。でも現在、与えられた課題だけで毎日が終わってしまい、自分の勉強したいことにはまったく手をつけられず、悲しく過ごしています。

こつこつ課題は進めているつもりなのですが「私の作業効率が悪すぎるのか」と凹むこともあります。

どうしたら、時間をうまく使っていけるでしょうか。

回答

ご質問ありがとうございます。

自分で学ぼうという姿勢はすばらしいですね。ぜひその意気を忘れないでくださいね。

課題は次々に与えられるでしょうから、それをこなすのに時間が掛かると、確かに凹みたくなるかもしれません。

あなたは「作業効率が悪すぎるのか」と考えていらっしゃるようですが、解決方法を探るためには、まずはデータ収集が必要です。データ収集をし、解決方法を事実に基づいて考える必要があるでしょう。

データ収集というのは、つまり自分の時間の使い方の調査です。「自分は毎日、何にどれだけ時間を使っているのか」という記録を付けるということ。どんな形でもいいですから、一週間、二週間、一カ月記録を付けてみましょう。まずはそこからですね。

自分が使える時間(いわば、可処分時間)がどれだけあるのかを考えます。もちろん、勉強だけしているわけにはいきませんから、他の活動をよく考えて自分の時間を何にどれだけ割り振るかを考える必要があります。

ところで、大学からの課題とは別に、あなたには「自分で勉強したいこと」があるのですよね。その時間は半ば強制的に確保した方がいいと思いますよ。たとえ長時間が無理でも、わずかな時間でいいのです。大事なのはコンスタントに確保すること。毎日、毎週、毎月。どういうペースがいいかはわかりませんが、自分の学びを育てていくことはとても大事です。

大学で過ごせる時間というのは長いようで短いもの。あっというまに卒業になってしまうでしょう。もちろん大学の課題は大事ですが「自分の外からやってくるもの」だけではなく「自分の内から出てくるもの」にも時間を割り振るのは大事ですよ。

まとめますと、こんなことに注目してみてはいかがでしょう。

  • 自分の時間の使い方を調査する
  • 可処分時間を確認し、活動へ時間を割り振る
  • 自分で勉強したいことのためにはコンスタントに時間を割り振る

あなたの学びが豊かな実を結びますように!

ご質問ありがとうございました。


専門外の人に専門的なことを説明するとき

質問

私は、複雑系科学を専攻しています。

自分の専門分野は、数物系の大学院生やハイレベルな学部生を除くと世間的な認知度が非常に低く、理解してもらうために毎回苦労します。

専門外の人に、自分の専門について説明するときに心がけていることはありますか。

回答

ご質問ありがとうございます。

「適切な具体例」を見つけるように心がけています。

ある分野について専門外の人は、当然のことながら専門的な知識や考え方を持ちません。でも、何も知らないわけではありません。ですから、話を聞いてくださる人が知っていることに関連した具体例を使うようにするのはいいことです。

いくら探してもそのような具体例がない場合には、比喩のような形でもいいです。話を聞く人が頭の中で類推できるような具体例を使って話すのがいいですね。

よく練った具体例を見つけるのは一朝一夕にはできないことですから、普段から意識して探し、ストックしておくのがいいと思います。

また「常識に反する知識」を話すと興味を持ってもらえる可能性が高くなります。

「常識的に考えると、ついこんなふうに考えがちですけど、実はそうじゃないんですよ」という話をすると「へえ!どうしてですか?」という反応を引き出すことができるからです。いわゆる「食いつきがよくなる」ということですね。

「常識に反する知識」までいかなくても、おもしろい法則、意外な規則、一見すると無関係に見えるような事柄に存在する関係などを伝えると、興味深く聞いてくれる可能性が高くなります。

専門性が高いものを、そのままの粒度で伝えようとするのは無理があります。ですから、何か一つのことをよく練った具体例で話し、関連することはさらっと流すようにメリハリを効かせるのも有効です。専門家はそのことを四六時中考えているので、たくさん話したくなりますが、非専門家にとっては新しい情報が多すぎて処理しきれない状況になりがちですから。

その一方で、聞く相手の熱意によりますが、非専門家であっても話を単純化し過ぎない方がいいこともよくあります。話を単純化し過ぎると、かえって興味を失う結果になることもあるからです。

専門家が非専門家に対して適切に説明する技術というのは、これからの時代で非常に重要だと思います。がんばってくださいね。

ご質問ありがとうございました。