結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2019年2月5日 Vol.358
目次
- もう一度新卒で就職活動をするならどんな進路を選ぶか - 仕事の心がけ
- インクリメンタルな環境改善(2)ポータルページ・ポータルメモ・ダストリンク - 仕事の心がけ
- 自分の作品の価値がどこにあるのかわからない - 本を書く心がけ
はじめに
結城浩です。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
早いもので、もう2019年も2月なんですね。
あなたは「今年の目標」を立てましたか。
結城は特に大きな目標は立てていません。いつも通り毎週の執筆を進め、いつも通り書籍を何冊か書き上げるつもりではおりますけれど。
でも今年は「意識的に本を読む」ことと「インクリメンタルな環境改善をする」ことは心がけたいと思っています。
今回の結城メルマガでは後ほどその「インクリメンタルな環境改善」についてお話ししますね。
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早朝の話。
駅に向かっていると、私の前を親子連れらしき二人が歩いている(母と娘)。娘さんは小学校の低学年くらいだろうか。だいぶ小柄で歩幅もせまい。しばらく見ていると、お母さんが二歩進むあいだに娘さんは三歩進むことに気付いた。
前を行く母娘の足音ポリリズム(結城浩)
朝のちょっとした発見である。
◆ポリリズム - Wikipedia
http://bit.ly/hyuki-Polyrhythm
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かわいい「掛け算の本」の話。
Jo Morganさん(@mathsjem)のツイートで、かわいい「掛け算の本」の話。「4倍の表(4 TIMES TABLE)」と書かれた表紙をくるくると開いていくと、開くたびに●が4個ずつ増えていきます。三回開いたところでは、4×3と、12と、3×4とが書かれているのが見えますね。
◆ツイート本文
https://twitter.com/mathsjem/status/1086287614095867904
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二世代に渡る話。
結城は読者さんから、こんな感想をいただくことがあります。
「私は結城さんの本を読んで学びましたが、最近になって私の子供も読み始めました」
このような感想には感激しかありませんね!
私は、このような感想をいただくと「中学校の教師をしていた父」のことを思い出します。父は長年教師をしていたので、親と子の二世代に渡って教えることがよくあったらしいのです。
あるとき、父が笑いながらこんな話をしてくれました。
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授業で「よし、じゃあ〇〇に答えてもらおうかな」と生徒を指名した。するとその生徒は、苦笑しながら「先生! それ、母親の名前です!」と答えたんだ。
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父がしてくれたこの話を思い出すとき、私はいまは亡き父にこう伝えたくなります。
「ねえ、お父さん。私の本も二世代に渡って読者さんに読んでもらっているみたいですよ」
「二世代に渡る生徒」に「二世代に渡る読者」。父と私は「二世代に渡る相手に伝える仕事」を二世代に渡って行っていることになりますね。
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では、そろそろ今回の結城メルマガを始めましょう。
どうぞごゆっくりお読みください。
もう一度新卒で就職活動をするならどんな進路を選ぶか - 仕事の心がけ
質問
就職活動中の大学生です。
もう一度、新卒で就職活動をするとしたら、結城さんはどんな進路を選びますか。
会社に勤めますか、フリーランスですか。
もし会社に勤めるならどんな会社でどんなふうに活躍したいですか。
回答
ご質問ありがとうございます。
やや難しい質問です。
「もう一度就職をやり直すとしたら」というとき、現在自分が持っている記憶や経験は有効なんでしょうかね。
もしも、すべての記憶を失ってやり直したら、結局同じ進路を選びそうです(そりゃそうだ)。
もしも、現在の経験と記憶を持ったまま新卒になるなら、そうですねえ、恐らくフリーランスを選ぶことになると思います。わざわざもう一度会社に入りたいとは思わないかなあ。
ところであなたの質問の中で「新卒で就職活動をするなら」という表現がありました。別に文句をいうわけではありませんが、自分が何をして生活していくかという判断をするとき「新卒採用」だけが道ではないということは心の片隅に置いてもいいと思います。新卒採用以外の道を無理に選ぶ必要はありませんけれど。
話がそれました。
どんな労働形態を選び、どんな職種を選び、どんな会社を選ぶかというのは重大な選択だと私は思います。
私はといえば、恥ずかしながらあまり深く考えたことがありませんでした。雑に要約すると「その都度その都度おもしろそうなことをやってきた」と言えるかもしれません。でも、改めて思うと、もう少し「自分の成長」について考えておくべきだったなと思います。
別の言い方をするなら「《資産》をどこに、どのように蓄えるか」という意識があったらよかったなと思います。もちろんここでいう《資産》というのはお金だけの話ではありません。いわゆるキャリアパスに近いのかなあ。「宝をどこに積むか」という聖書の表現がありますが、それにちょっぴり通じるかもしれません。
私はフリーランスを選ぶと言いました。会社で仕事をするのは悪いことではありません。仲間とともに大きな仕事をできるというのはすごいことです。一人ではできないほどスケールの大きなことも、力を合わせることで可能になります。ただ、私は、スケールはそれほど大きくなくても、すみずみまで自分の考えで満たされる作品を自由に作る方が好みですね。
当たり前のことですが、会社に属することと、仕事とは独立の話です。キャリアパスを考えるというのは、言い換えるなら「自分には何ができてなにができないか。自分はどんなふうに成長して何をおこなうべきなのか。そのために、いつ、どこにいるのがいいか」といった内容を、時間の推移と変化に合わせて考えることです。
その際に「会社という存在」を不可欠な前提だと考えるのはそれほど正しくないと思います。もちろん、雰囲気で会社を忌避するのも正しくありません。私が言いたいのは「当座の仕事内容」を考えるだけではなく「仕事の変遷」を考えるのも大事だということです。変遷を考えるとき、ひとつの会社内で考えるものではありません。
私にとって幸いだったのは「プログラムを書くこと」と「文章を書くこと」の両方が好きで楽しくて、しかもつぶしが効く活動だったことです。あまりキャリアパスについて考えては来なかった私ですけれど、それでも読者さんからたくさんの応援をもらうことで、現在生活することができています。感謝ですね。プログラムを書くことも、文章を書くことも、自分個人の《資産》として積み上がっていることがありがたいです。ある会社の中でしか生かされない《資産》ではなく、どこで活動しようとも生かされる《資産》ということです。
何を自分の《資産》としていくかということを考えずに、会社で何十年も過ごすのは悪い意味での冒険だと思います。会社は社員の人生に無限の責任を持つわけではありませんから。変化の大きな現代では特に、自分の生き方を変化するもの、変化に耐えられるものにしておくことが望ましいと思います。
何だか偉そうな就職談義になってしまいましたので、このへんで。
よい仕事との出会いがありますように。
そして、あなたならではの《資産》を積み上げていくことができますように!