結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2019年3月26日 Vol.365
目次
- 人前でプレゼンするときに気を付けていること
- 受験後ダラダラするような性格を何とかしたい
- noteのファイルアップロード機能 - 文章を書く心がけ
- ポイントバックキャンペーンで気付くこと - 仕事の心がけ
- どうしたら「何か」を成し遂げられるのですか - 本を書く心がけ
はじめに
結城浩です。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
今回で「結城メルマガ」がVol.365になりました!
もしも「結城メルマガ」のバックナンバーを1日1個ずつ読んでいったとしても、すべて読むまでに一年かかる計算です。これはなかなか分量を実感できるサイズですね。
ちなみに「閏年だとしたら1日分足りないよね」と思ったあなた。ご心配なく。結城メルマガはサンプル号としてVol.000から始まっていますので、全部で366号あるのです(にこにこ)。
日付をチェックしてみますと、Vol.000は「2012年3月23日」でした。ちょうど7年になるなんて、すごい偶然です!
……と思ったのですが、よく考えてみますと「1週間は7日」なので365倍したら「365週間は7年」になるのは当然でした(てへ)。
冗談はさておき、数の積み重ねを思うとき、結城はいつも「継続は力なり」という言葉が心に浮かびます。結城メルマガでも何回もこの言葉を繰り返して書いていますね。
「継続は力なり」というのは私の亡き父がよく口にしていた言葉でした。父は、コツコツ続けることと継続することの大切さを折あるごとに語っていましたね。「継続は力なり」と合わせてよく口にしていたのは「努力は天才を作る」という言葉でした。表現は違いますが、主旨はおおむね同じです。
来週から四月。新しい活動がスタートする季節でもあります。何かをスタートするときに最初から「継続」のことを意識する人は少ないかもしれません。でも実は春こそ、何かをスタートする季節こそ「継続」を意識する必要があるのかも。
桜の便りを耳にしながら、そんなことを思いました。
* * *
数学的なマインドセットの話。
スタンフォード大学のJo Boaler教授(@joboaler)のツイートで「数学的なマインドセットを教えるためのガイド」というWebページを知りました。
◆Mathematical Mindset Teaching Guide, Teaching Video and Additional Resources
https://www.youcubed.org/mathematical-mindset-teaching-guide-teaching-video-and-additional-resources/
ここに書かれている一つ一つの項目はなんとも盛りだくさんで、読んでいて飽きません。
たとえばMistakes(誤り)という項目にはこんな三段階が書かれています。
(1)完璧さや正しさが強調される。間違ってはいけない。
↓
(2)誤りは受け入れられる。しかし、さらなる探求には至らない。
↓
(3)誤りにも価値があると認められる。たとえ確信が持てなくても生徒たちは安心して共有する。
上で紹介したリンク先には三段階のうち(3)に相当する状況が動画で公開されています。具体的には12×15の計算をまちがった少女が「結局まちがいだからいいの」と引き下がろうとしたところで、教師が「何をやろうとしたか教えて」と話を引き出す場面ですね。ささやかなやりとりなんですが、静かな感動があります。ぜひご覧下さい。
結城はもちろん「数学ガール」に描かれている世界を念頭に置きながら、これらのマインドセットを読んでいきました。そして、多くの共通点があることを確かめて「ふむふむ」と満足した次第です。
* * *
それでは今回の結城メルマガも、どうぞごゆっくりお読みください。
人前でプレゼンするときに気を付けていること
質問
人前で話すときに気をつけていることはありますか。
今度プレゼンをするのですが、スライドを作る際に気をつけていることも教えていただきたいです。
回答
ご質問ありがとうございます。
人前で話をする、プレゼンテーションをするというのは、慣れないと難しいものですね。緊張もします。
結城は文章を書く原則として《読者のことを考える》とよくいいます。『数学文章作法』でも繰り返しお話ししています。それと同じ原則が人前で話すときにも当てはまるでしょう。
つまり《聴衆のことを考える》という原則です。
プレゼンをするとなると、多くの人はプレゼンの内容の方を意識します。それは当たり前のことですし、必要なことです。でもその前に必ず《聴衆のことを考える》のを意識する必要があります。
《聴衆のことを考える》というのは、言い換えると「自分は誰に向けて話をするのだろうか」と自問する行為です。自分が話す相手はどういう人で、何人いて、どういうことに関心があって、そもそも何のために話を聞くのか。そういうことを自問するのです。
《聴衆のことを考える》ことをせずにプレゼンの内容を準備することは不可能です。なぜなら、聴衆が誰であるかによって内容がまったく変わることになるからです。どんな項目を、どんな順序で、どんな言葉遣いで話すか。それは聴衆に依存することです。
自分はどんな聴衆に向けて話すのかという理解が十分進んだとしましょう。次に「自分の言いたいことは何か」ではなく「相手に伝えたいことは何か」を考えるようにしましょう。この二つは違いますよね。
相手にプレゼンテーションをするのですが、それは相手に対してプレゼントを用意するようなものです。プレゼントは相手が喜ぶものを渡したいですよね。それと同じです。自分が言いたいことから発想するのではなく、相手に伝えたいことから発想する必要があるのです。
もしもあなたがプレゼンの経験が少ないなら、スライドを早く作りましょう。そして誰かに見てもらい、コメントをもらいましょう。できれば、あなたの聴衆に近い人がいいですね。コメントを聞くときも、あなたが意識することはいつも《聴衆のことを考える》という原則です。
強くお勧めするのは、練習です。プレゼンであなたが話すのと同じような状況を使って、できれば機材も同じものを使って、時間を計って練習をします。その様子を録音・録画して自分でチェックするのです。早口になっていないかな、これで聴衆に伝わるかなと意識しながら。
プレゼンのスライドの作り方に一般的な注意はたくさんあります。たとえば、一枚のスライドにはたくさん盛り込みすぎない。文字の大きさは小さくし過ぎない。聴衆が話を見失わないようにまず全体像を説明するといったことです。でも、そういった基本的な注意は《聴衆のことを考える》原則に当てはめるだけで、かなりの部分がカバーできます。
ぜひ《聴衆のことを考える》という原則に従って準備してみてください。
ご質問ありがとうございました。
◆『数学文章作法』
https://www.hyuki.com/mw/