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[MM日本国の研究846]「愛郷精神とこれからの日本サッカー」
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[MM日本国の研究846]「愛郷精神とこれからの日本サッカー」

2015-05-14 18:55
    ⌘                    2015年05月14日発行 第0846号
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     ■■■    日本国の研究           
     ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
     ■■■                       編集長 猪瀬直樹
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    「愛郷精神とこれからの日本サッカー」

     本日のメルマガは現在発売中の『フットボール批評05』に掲載された佐山一
    郎さんによるインタビューから抄録を特別にちょっとだけ、お送りします。旧
    知の二人の放談は、草サッカーからパトリオッティズムにまで拡がっていきま
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       *

    ──猪瀬少年の育った長野市のAC長野パルセイロや、母方の出身地でもある
    松本市の松本山雅の試合は気になりますか。

    ○猪瀬● 僕が向こうに住んでいれば気になるんじゃないの。今日、「201
    5・入試速報」とかで、どうでもいい電話コメントを週刊誌に求められた。長
    野高校と松本深志高はライバル校だと思うけど、どう思うかと。僕が言ったの
    は、「受験校は受験校で、それまでの話。その上で甲子園にお互い何回出て競
    い合っているのかが問題なんだ。長野高校は春夏甲子園に2回ずつ出ていて、
    僕が高校1年の62年夏(第44回大会)にも行ったぜ。そういうところで競い合
    わないとだめだ」と。

      今の松本山雅と長野パルセイにはどのぐらい人が来るの。その前にそもそも
    何でヤマガなんだ? 

    ──65年に結成された国体長野選抜の選手が松本駅前の『純喫茶 山雅』の常
    連で、そこから同好会「山雅クラブ」が生まれたんです。「山雅」の名前は今
    は亡きオーナーが、登山仲間に相談して決めたそうです。お店は78年頃の駅前
    再開発でなくなって、復活の噂も伝わって来ます。山雅は「郷土愛に支えられ
    た地域発展」を謳っています。

     J3所属のAC長野パルセイロのパルセイロの意味は、ポルトガル語で「パ
    ートナー」。前身は長野南高校サッカー部のOBを中心に発足した長野エルザ
    サッカークラブです。

    ○猪瀬● 長野南は、僕の時はまだなかった高校ですね。<草莽(そうもう)
    の志士>がいたということでは、すごいねえ。 店ならお客も来る訳だし、伝
    説があったというわけだな。松本山雅は、J1によく上がったよね。後発なの
    に、すごい発展だね。(茨城から大分までの)太平洋ベルト地帯じゃない地方
    都市は、大きな企業の背景がそんなにはない。しかもサッカーの伝統もさほど
    ない所で。新潟もヴァンフォーレ甲府も思ったより早くJ1に昇格しましたね。

     そういう意味では、4部リーグにあたる今のJFL16チーム中でJリーグ参
    入の意志のないチームは都市対抗野球みたいなもの。招致決定まであと57日と
    いう2013年の夏に、東京ドームで始球式をやったことがあるけど、お客さ
    んは少なかった。都市対抗でなく企業対抗になってしまい、パトリオティズム
    で動員してないから客がいない。

     長野パルセイロと松本山雅の話は、電車や高速道路で1時間かかるかかかん
    ないところに二つあっての熱狂が面白い。FC東京や東京ヴェルディは、今ど
    うなの。東京はなぜ(2013年「多摩国体」=スポーツ祭東京2013主会
    場用として出来た)味の素スタジアムだけなんだい。

    ──4期16年務めた鈴木俊一都知事時代(1979~1995)の2002年
    FIFAワールドカップ招致時の不熱心が大きいですね。立候補の意思表示が
    89年11月で、91年6月に招致委員会が発足。やっとのことで招致議連が出来た
    のが92年3月で共同開催の決定が96年5月31日──という流れの中での93年1
    月の国内開催都市候補地への立候補見合わせが痛かった。
    (*注・全国10箇所の選定は96年12月)

    ○猪瀬● 横浜国際は巨大で、近くの高速道路をクルマで走ってたとき工事中
    で、あまりに巨大な鉄骨を見て驚いた。2002年の日韓共催ワールドカップ
    に向けて、あのとき慌てて各地に作っていましたね。

    ──松本や長野に限らず、コアなサポーターは全国どこにでも応援に行きたい。
    そのために仕事を辞めてしまう人もいれば、子供が出来るまでと決めてる人も
    います。

    ○猪瀬● 野球にはなかった文化です。東京は故郷の意識がなくて、巨人や海
    外の好きなクラブがあればいいとうことで、愛郷心は希薄だよね。でも、プロ
    野球は都市の大きさにうまく合わせている。昭和20年代半ばからの2リーグ制
    以降にもそれぞれの歴史があって、パ・リーグは、阪急、南海、東急、近鉄、
    西鉄。セ・リーグは阪神、国鉄……。映画会社や新聞社も一通りあった。映画
    が、東映、松竹、大映。新聞が、読売、毎日、中日、サンケイ……。横浜DeNA
    ベイスターズは、TBSホールディングスが株式を保有してたけど、その前は
    マルハで大洋ホエールズ。日本人はクジラ食べてたんだよ。幼稚園の頃、女の
    子がチューリップを描く横で、潮を吹くクジラの絵を描いてたものね(笑)。
    プロ野球が、その時代の産業の熱気の場所でもあったんだよね。ソフトバンク、
    楽天、DeNAの登場も今の時代の反映で、反対に、通勤電車の利用者数は90年代
    に減り始めている。新聞も読まれなくなってる。だから支えるのは誰かという
    点で、昭和初期に始まった夏の都市対抗野球大会はJリーグと反対の方向にど
    んどん行って、ガバナンス(統治)がまったくない。

    ──重要なキーワードはやはり愛郷精神ですね。パトリオットには「志士」の
    意味もある。

    ○猪瀬● そういう意味でもJリーグは成功したんだよ。甲子園大会もパトリ
    オティズムが原動力になってるよね。常連校もあっという間にできちゃう。た
    だ、のび太が遊ぶ『ドラえもん』のはらっぱ(空き地)の世界はなくなってき
    ている。南米やヨーロッパの子がストリート・サッカーをやってきたように、
    日本にも町内対抗野球や三角ベースや草野球があった。

    ──今はブラジルあたりでもやる場所が減っています。「サッカー王国」で居
    続ける上での授乳装置からして危ういといわれ始めてます。

    ○猪瀬● アメリカに行くと、バスケットのリングがどこにでもあるじゃない。
    そういう拡がり方があったんだね。今はスペースがない所に動物の遊具とかが
    置いてあるからぶつかっちゃう。お父さんとのキャッチボールの風景がない。
    壁打ちテニスもあまり見ないよね。

     もう一つはペットが多すぎる。うちも犬買っていたけど、犬の散歩はスポー
    ツじゃないんだよ。歩くだけではスポーツじゃないな。ジョギングの場合は宙
    に一瞬浮いて負荷がかかる。

    ──猪瀬さんの場合、空手は80年代からだし、オリ・パラ招致のときもテニス
    やジョギングに親しむ<スポーツマン知事>でした。

    ○猪瀬● サッカーは、2013年のFC東京のホーム開幕戦で初めて始球式
    でシュートしました。東京のユニフォーム着てPKの練習を10回だけしてゴー
    ルの左のほうに入れた。キーパーは当時の阿久根(謙司)社長。ジョギングは
    64歳から始めて、今は毎月70kmがノルマです。誰かと約束の時間を合わせる必
    要がないからいい。こういう作家業だと、チームに入ってストイックに同じ時
    間に集まるという人に対する誠実さがキープできそうにない。だからサッカー
    やってる人たちがうらやましいよね。

    ──とはいえ、社会人になった途端、蹴るのを辞めてしまうケースも多いよう
    です。

    ○猪瀬● 土地が無いなら無いで、5人ずつのフットサルをやってればいいん
    じゃない。あれは、はらっぱの草サッカーの感じがするけどな。神宮外苑のど
    真ん中でもやれてるわけだから。地方なら主要会場の周りに10個ぐらいあって
    もいいよ。専用球技場での観戦だけじゃ、地域のスポーツ育成にならないじゃ
    ない。松本山雅や長野も、観るだけじゃなくもっと草サッカー的なものもやれ
    るようになるといい。東京オリンピック・パラリンピックやJリーグをきっか
    けに競技場が出来るのはかなりのレガシー。でも、身近でもっとやれるような
    ことを考えないと。「草」だよ、「草」を沢山やれるようにしないとダメだよ
    ね。バスケットボール協会やホッケー協会で起きた競技団体の分裂騒動も困っ
    たものです。

     障害者スポーツということで言うと、パラリンピックは2012年のロンド
    ン大会で満席だった。義足とか義手のレべルも上がってきている。日本は戦後
    70年戦争をしていないから、交通事故や病気以外に世界中で戦争があるという
    ことへの気づきがない。僕が子どもの頃は、神社のお祭に行くと必ず通行人か
    ら金銭をもらう傷痍軍人がいた。そういうパラリンピックの成り立ちに対して
    のリアルな気づきがまだないね。
                       
                       (『フットボール批評05』から抄録)

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