お世話になっております。鬼頭です。

今回はテック系の外資PRエージェンシーであるText100において、グローバルコミュニケーション、デジタル/ソーシャルメディアサービスの統括責任者のジェレミー・ウルフ(Jeremy Woolf)さんの寄稿記事を紹介させていただきます。※寄稿および抄訳に関しては私の前職の上司であり、現在はText100ジャパンの代表取締役社長 中崎 聡志さんにご協力いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

 

伝統的に、またソーシャルメディアの時代であってもPRは「リーチを獲得するもの」としてイメージが定着していると思います。本寄稿記事では、そのようなイメージを覆す事例を紹介し、リーチだけでなく認識変容、行動喚起(Call to Action)までうまく設計したコミュニケーションの可能性を浮き彫りにしています。さらに、ソーシャルメディア活用の結果としての量ではなく、性質の部分について言及しているので、その辺りを読んでいただけると幸いです。

 

Text100はPR業界専門メディアであるThe Holmes ReportにおいてAPAC 2012 Digital Consultancy of the Yearを受賞しており、また、その優れたデジタル/ソーシャルメディアのサービスは数多くのクライアントからも高い評価を受けています。そして、日本を含め海外の拠点では少数精鋭のチームでビジネスを行っており、少人数体制のループスとしても非常に刺激を受けると同時に親近感を感じます。

 

著者紹介

ジェレミー・ウルフ(Jeremy Woolf)(@jeremywoolf

Text 100/シニア バイス プレジデント、グローバルコミュニケーション/デジタル/ソーシャルメディア
 
Text 100では、グローバルコミュニケーション、デジタルとソーシャルメディアを活用したコミュニケーションビジネスを牽引。役割としては、様々なクライアントにソーシャルメディアとデジタルサービスを通してオーディエンスとのより良い関係構築や行動喚起を支援することを担当。

 

 

デジタル分野におけるアプローチ

 

Text100は、PR/コミュニケーション戦略の一環としてデジタル/ソーシャルメディアに関連するサービスを提供しており、ソーシャルメディアの発端から現在まで、その分野の最前線に常に身を置いています。デジタル/ソーシャルメディアの登場により、新たなビジネスチャンスが生まれたのは言うまでもありません。ソーシャルネットワーク、ブログ、仮想世界は今やもう「よくわからないもの」ではなく、むしろそれらは企業の大小を問わず、ブランドイメージを大きく左右する影響力を持っています。

 

ソーシャルメディアの各種チャネルとツールによって、企業は生活者へ今までにない直接的なアプローチができるようになりました。また、現在、生活者自身が劇的に変化し、すべての生活者が「ソーシャルコンシューマ」となり、同時に生活者自身がインフルエンサーに、コンテンツのクリエイターに、また支援者へと変化したのです。実際、ソーシャルメディアにより、企業コミュニケーションは大きく変容しました。

 

企業のソーシャルメディアチャネルには生活者だけでなく、パートナーや競合他社までもが正直かつオープンに書き込みをするようになり、企業がコントロールできる範囲の外でディスカッションが起こるほか、またそこから話題が生まれ、より多くの人からの意見が寄せられるようになりました。今はもう身を潜めてディスカッションの行方を見守る時期は終わり、積極的にディスカッションに加わっていくべきなのです。

 

当社では、クライアント企業のビジネスに大きな影響をもたらすオンライン上のディスカッションをいち早く特定し、何が重要事項かを優先をづけて、それに加わることができるような手助けをしています。今日のPR業界が直面している課題は、こうした新しい情勢に対しPRエージェンシーとしての新しい役割を理解することです。長年にわたってPRエージェンシーは伝統的なメディアチャネルを使って、クライアント企業が伝えたい話題を提供してきました。しかし今必要とされているのは、「ソーシャルコンシューマ」を理解し、行動を導くことなのです。

 

これには、クライアントやクライアントの業界、ブランドやそのオーディエンスを理解することが大前提としてあります。この前提のもと、魅力的なコンテンツとアクティブなコミュニティを形成することで、クライアントの戦略と期待される消費者行動を結び付けます。最後に、Webとソーシャルメディア分析ツールを使い、消費者の行動がどう変化したかを測定していくのです。 

 

私たちはこの新しいコミュニケーションプラットフォームを取り入れることこそが、クライアントにメリットをもたらすと信じています。適切な戦略を実行することにより、伝統的なPRではできない方法で、核となるオーディエンスと共通の関心を持つコミュニティの間に懸け橋をつくることができるからです。 

 

 

デジタル分野への移行について

 

今日のPRエージェンシーは、Facebook、ブログ、WebページのA/Bスプリットテストなどのクライアントが形成するコミュニティを円滑にマネジメントすることが必須となっています。PRエージェンシーや企業が抱えるさらなる課題は、この絶え間なく変化を続ける環境で、他社より優位に立った状態をいかに維持し続けるかということです。私たちは伝統的なPRに新しいメディアツールを統合するという新しい道を絶えず探しています。当社はソーシャルテクノロジーのアーリーアダプタであり、ソーシャルビジネスを中核にそえたビジネスへと変化しようとしています。

 

社内の当該チームはデジタル/ソーシャルメディアに関する情報を日々モニターし、クライアントとチームに共有しています。社内向けブログではデジタルトレンドについての記事を定期的に投稿し、最新のPRプランをグローバルでシェアするためにSharePointのコミュニティを使用しています。Facebook、YouTube、Pinterest、LinkedIn(Communication Conversations)、Google+、社外向けブログ(HyperText)、ベースキャンプやGoogle Docsなどを使って、クライアントのプロジェクトの共有などを行っています。ソーシャルメディアの概念は私たちのDNAに刻み込まれており、スタッフは40%もの時間をソーシャルメディアまたはデジタル関連のプロジェクトに費やしています。

 

ソーシャルメディア活用フロー

洞察(Insights)から競合優位性や差別化要因の抽出(Differentiate)、ソーシャルメディア上のコミュニティを活性化させるための施策展開/オーディエンスもしくは能動的な参加者向けの行動喚起の枠組みづくり(Engagement)、そしてリアルタイムでの評価分析(Asess)という一連のステップを連動して迅速に実施/対応(出所:Text100)。 

 

 

グローバルにおけるデジタルプログラムの実行

グローバルの統括本部(Hub)における戦略立案、それ以降はクライアントの知見やマーケティングゴールを逐一加味しながら、グローバル/ローカルでのソーシャルメディア運用を共通要素とローカル要素に分けて実施した上で評価分析を行い、深い洞察(Insights)に繋げる(出所:Text100)。

 

デジタルコミュニケーションにおけるポリシー

 

当社はすべてのスタッフに積極的なソーシャルメディアの活用を奨励しています。ソーシャルメディアの専門的なコンサルタント集団を社内に設けている企業とは異なり、私たちはスタッフ全員がソーシャルメディアのコンサルタントとして活躍できるよう教育しています。なぜならソーシャルメディアは未来のパブリック・リレーションであり、コンサルタントは自らの専門分野をクライアントに示さなければならないからです。

 

“従業員全員がソーシャルメディアのエキスパートになる”―この目的を達成するために、私たちは2011年の7月に「社内デジタル検定(Digital Certification)」を起ち上げました。このプログラムは、コンサルタントが時代に最も適した効果的なPRをクライアントに提供できるようになるべく設計されました。また、スタッフが「社内デジタル検定」に常にモチベーションを高くもって取り組んでもらえるよう、ある一定のレベルに到達するとそのレベルに達したことを示すバッジが贈られ、また優秀な成績を修めたスタッフには褒賞が授与される、などアワード形式で行っています。「社内デジタル検定」はコンサルティング、トレーニング、ソーシャルネットワークコミュニティエンゲージメント、ソートリーダーシップの構想など、従業員の能力強化に役立ち、そして最終的には、ビジネスにおける成長の基盤となるものなのです。 

 

私たちは社内で独自に策定したソーシャルメディアポリシーを、従業員の啓蒙に役立てています。そのポリシーには、ブログやフォーラムなどのソーシャルメディア上で対話が生まれ発達すること、当社のスタッフの仕事が、同僚、クライアント、メディア、ブロガーやひいては世界全体に影響することなどが書かれています。しかしそれは、従業員を縛りつけるようなものではありません。私はコミュニケーションに関わる人間であれば誰でも、この激しく進化する交流の世界に積極的に参画すべきで、また、PR業界やクライアントに衝撃を与えるようなアイデアの共有をも積極的に行うことが重要であると考えています。

 

そのため、当社では全てのスタッフがソーシャルメディアを自由に使っていくよう勧めています。新しいことを積極的に始め、新しいつながりを作り、新しい機会を発掘するためです。そこに恐れを感じてほしくないのです。私たちのソーシャルメディアポリシーは、対話を発展させ、会社の、またクライアントの代理として誠実な関係を構築するための基本的かつシンプルな指標となるもののみなのです。

 

 

【事例】Cube Checks:ターゲット企業へのダイレクトなアプローチ

 

ここで、当社が豪州のIT関連企業 Ninefold社向けに実施した事例を紹介したいと思います。Ninefold社はB2Bのクラウドコンピューティング関連会社で、当時は設立から6か月しか経っていない頃でした。彼らの課題は明確に2つ、ターゲット顧客となるデジタルコンテンツを提供する大手代理店の中でのブランド認知度がまず低いこと、そしてその代理店の中の決定権がある人の中での認知度が低いことでした。

 

Ninefold社を知ってもらうため、TwitterとFoursquareを使った見込顧客に向けたキャンペーン、「Cube Checks」というトレジャーハントを実行することになりました。企画実行は当社のシドニーオフィスのチームです。「Cube Check」ハンティングは、2つの特性を同時に持つ人をターゲットとしました。デジタル分野における影響力を持つ人で、かつFoursquareでどこかのメイヤーシップを持っているユーザです。 私たちはNinefold社の潜在的顧客である大手代理店の近くにNinefold社のブランドのシンボルでもある白い箱をハンティングのために設置する準備を整えました。

 

ボックスの手掛かりの大まかな場所をTwitterで投稿し、どのあたりにボックスが設置されたかを参加者に知らせました。ボックスが設置されると同時に、その場所の最終的なロケーションがツイートされ、参加者は賞品を手にするためボックスの場所へ急ぎました。ボックスには封筒が置かれており、中には「Foursquareでここにチェックインするように」という説明が入っています。チェックイン後、賞品である500ドル(豪ドル)分のドリンク無料券が贈られる仕組みです。

 

ちなみにここまででNinefoldがこのトレジャーハントに関わっているということは一切明かされていません。 上記のハンティングゲームを10回行った後、「Cube Checks」ハンティングがNinefold社が行ったものであるということを豪広告業界のリーディング オンラインメディアであるMumbrellaが報じました。 その後、Ninefold社のWebサイトのトラフィックは25%アップし、日々のサインアップ数が4倍に膨れ上がり、そして大手代理店からのトライアルの打診―つまり、直接的なビジネスへとつながったのです。

 

 

デジタルにおける最新動向

 

企業のソーシャルメディア活用における明暗はますます広がりを見せています。この波に乗れずもがき苦しんでいる企業の多くは、リソースがない、ROIが明確でないことが理由で立ち往生してしまっています。 もう一方では、たくさんの企業が着実にステップを踏み始めています。しかし「不景気による予算削減」という脅威が高まる中、駆け出したばかりのコミュニティが衰退し、なくなってしまうリスクに怯えています。 そして少し離れたところでは、ソーシャルメディアをビジネスにうまく結び付けている企業がいます。そうした企業は活気に満ち、様々な部署の社員が有志として、自らのコミュニティを積極的にサポートしているのです。その企業の顧客そして社員は、積極的に新たな何かを発掘し、またサービス開発に協力しています。そして、彼らはそれらの行動すべてが、無視することができない重要なROIへとつながっている、ということを知っているのです。

 

アナリストの見解によると、2016年までに双方向マーケティング市場は800億ドル(米ドル)市場へと成長するとのことです。もはやソーシャルメディアやデジタルコンテンツはパジャマを着たブロガーやティーンエイジャーたちの遊び道具ではないのです。 もちろんそんな甘い話ばかりを鵜呑みにし、ただ「デジタル」という金で舗装された道を歩いていけばいい、というものではありません。双方向マーケティングで成功をおさめるまでの道は険しいのです。 たとえば、ロイターが2011年12月に報じた内容によると、ファイナンシャルアドバイザーをターゲットとした調査では、ソーシャルメディアから生じる利益は多くない、という見解をもつファイナンシャルアドバイザーが多数いたという結果がでています。それ以外に、The New York TimesではFacebookに訪れる人の伸び率が下がってきていると報じているのです。

 

また、IBMのソーシャルCRMスタディでは、マーケティング・パーセプションとソーシャルコンシューマの現実にギャップ(売り手と買い手の認識の差)が現れていることを示しています。企業側は消費者が彼らのソーシャルネットワークに入ってくるのは、そのブランドが好きだからだと思っています。しかし消費者はクーポンやディスカウントやカスタマーサポートなどを求めて訪れているのが現実なのです。 このような状況の中で、企業のゴールを達成させるための双方向マーケティングをいかに成功させるか、ということがこれからの企業やエージェンシーの新しい発想や努力にかかってきます。

 

今後、企業のブランドはソーシャルメディアにおいて様々な難しい選択を迫られることが多くなるでしょう。今日、Facebook、Twitter、LinkedIn、YouTubeのこの4大ソーシャルメディアにおけるプレゼンスの獲得は譲ることができないものとなりました。ですが、企業がそれらのソーシャルメディアの中で盛況なコミュニティ作りを行っていく、ということは、膨大な時間を必要とし、また、その中で企業のゴールを達成するための環境が整っているわけでもなく、もしかしたら意味のないものとなるかもしれません。本当に行っていく価値があるか否かの判断が必要になります。混沌とした現状の中、各ブランドはさらに、新興チャネルへも目を配っていく必要があります。Google+を見てみてください。あれだけ中傷されていながら、1月には、2012年中に4億ユーザ(グローバル)の獲得ができるだろうと言われているのです。

 

今はソーシャルコンシューマが成熟し、彼らはこれから自分たちの行動を修正していく時期でしょう。ソーシャルメディアは現在飽和状態にあり、ユーザは自分たちのニーズをくみ取らないソーシャルネットワークから少しずつ離れていきます。ソーシャルメディアでプレゼンスを確立しているブランドは、今から自身のロイヤルユーザに、何を求めているのか耳を傾け、必要に応じて軌道修正をすべきです。頭打ちになっていて、新しいユーザの獲得もしくはエンゲージメントのレベルが落ちてきているブランドにとっては特に重要なことです。 私は、確実にソーシャルコンシューマの声をくみ取り、かつビジネス成果を出している小規模なコミュニティを特定し、そこに注力することが企業のソーシャルメディアにおける成功につながっていくと考えています。

 

 

Text100(テキスト・ワンハンドレッド)について

Text100は世界30都市に約500名のスタッフを擁するグローバル・コミュニケーションコンサルタント エージェンシーです。クライアントは主にテクノロジー、インターネット、デジタルライフスタイルの分野で世界をリードするブランドを持つ企業です(IBM、Cisco、Lenovo、Skype、Gartnerなど)。またPRコミュニケーションにおけるスタッフ教育や、特に新興国のソーシャルメディア分野などで力を入れている会社として高い評価を得ています。 当社は世界で最も大きな「ブティック・エージェンシー」であると自負しています。グローバルレベルでの包括的なサポートなど大企業ならではのサービスと、小規模なエージェンシーと同様の柔軟性の高いきめ細やかなサポートの両方を提供しています。 PR業界専門メディアの「The Holmes Report」における「APAC 2012 Digital Consultancy of the Year」を受賞し、シスコFlipのPR活動サポートではマーケティング・コミュニケーション業界専門媒体の「Campaign Asia」における「Campaign Asia’s Best Use of Digital Award」を受賞しています。

 

 

※記載されている会社名、製品名は、各社の登録商標または商標です。

 

RSS情報:http://media.looops.net/kito/2012/08/24/text100_digitalcomm/