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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その21
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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その21

2019-01-28 17:37
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    【本号の目次】
    1. 2007年の調査
    2. 初めての試み・夜間調査
    3. 森さんの奮闘・イカ釣り
    4. 小笠原ホエールウォッチング協会

    2007年の調査

     調査初年度の2006年には、幸先よくダイオウイカを釣り上げるという快挙をあげることが出来た。科学研究助成金はまだ2年間は保証されている。2007年は10月と12月に各々10日間ほど新小型HD深海カメラを3台携えて小笠原父島に調査に向かった。2002年に調査を始めて5年目、船頭の磯部さんと乗子の岩ちゃんとは阿吽の呼吸、そして第八興勇丸の揺れにもすっかり慣れた。10月13日から調査を始めて、朝5時出航、1時間半ほど航走して調査海域に着くと、深海カメラのスタンバイを始める。深海カメラは持参した3台と磯部さんがNHKから委託された1台の計4台がある。持参した1台には、五島さんにお願いして釣り竿が取り付けられるように台座を作ってもらい、カメラから竿を斜めに出して先から餌を吊るし、横向きに撮影できるような工夫を凝らした。残りの3台は今まで通り、カメラを下向きにして左右のライトからV字にラインで餌を吊るす仕掛けにした。

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    兄島瀬戸を通過して、沖に向かう。太平洋の大きなうねりが迎えてくれる

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    2007年に新たに開発した、横方向から撮影できる深海カメラシステム

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    基本の鉛直方向から撮影する深海カメラシステム


    初めての試み・夜間調査

     この年は新しいチャレンジとして、通常の早朝出航の調査のほかに日没後に出港して夜間に調査することを試みた。調査を始めて5年目、10月の調査最終日にやっと磯部さんがOKを出してくれたのだ。小笠原ホエールウォッチング協会の森さんも夜の海は初めてということで、同行することになった。夕焼けの二見湾に停泊するおがさわら丸に見送られて沖に向かう。30分も走ると、漆黒の闇である。今夜は厚く雲がかかり、星空も拝めない。暗い海を1時間半ほど航走して、調査海域に着いた。 
     船外灯を点けて、ヘッドライトの光を頼りに深海カメラのスタンバイを始める。乏しい明かりの下、磯部さんも岩ちゃんも手慣れたものである。森さんは、ここぞとばかりカメラのシャッターを切った。1時間もかからずに4台の深海カメラを水深600mと800mに各々2台ずつ投入した。あとは、3時間ほど流すことになる。その間に、岩ちゃんが調理した夕食をいただく。今日はハッシュド・ビーフをかけたハンバーグと丼飯に沢庵、漬物そして麦茶の豪華内容であった。船の上で食べるメシのなんと美味しいこと。

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    夕焼けの父島大村港二見港に停泊中のおがさわら丸に見送られて夜間調査にむかう

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    調査海域に着いて磯部さんと小型HD深海カメラのスタンバイをおこなう。仕掛けが外れないように、吊り下げるハーネスが外れないように、水深計は付けたか、絶対落とさないように細心の注意を払う

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    2007年に新たに開発した、システム。竿を使って餌を離し、横方向からの撮影を可能にした

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    水深600mに2台、水深800mに2台の深海カメラを投入してから夕食、今夜はハッシュド・ビーフのかかったハンバーグに、船上で炊き上げたご飯にたくあん、漬物に麦茶と豪華メニュー

    森さんの奮闘・イカ釣り

     夕食を食べ終わり、いつものように磯部さんとお喋りをする。調査のこと、仕事のこと、家族のこと、病気のこと、灯りを消した暗闇の中ではポロッと本音がもれてしまう。まだカメラの揚収までには、数時間の余裕がある。森さんは持参したイカ釣りの仕掛けをおもむろに取り出して、船べりから手釣りを始めた。スルメイカ用の小型のイカ針である。船が風に流されてラインも横に流されて、イカ針がなかなか深くまでは入らない。
    「森さん、それじゃイカは釣れないね」と茶々を入れたその時、
    「あー何か付いた」と森さん。
     ゆっくり仕掛けを引き上げると、体長20cmほどの小さなイカが揚がってきた。外套膜の腹側に二本の筋状の発光器を持っている。スジイカだ。森さんの鼻がちょっと高くなった。磯部さんが
    「そんなちっこいイカは餌にもならない」と腐した。
     それでも森さんはイカ釣りをあきらめずに、なんと体長40cm近くもある大イカを二杯も釣り上げた。アカイカかと思ったが、港に帰って詳しく調べたところ、外套膜背面前よりに小判型の発光器が認められた。トビイカである。 森さんが釣り上げたこの二種は、いままでの水中カメラ調査では撮影されたことが無く、小笠原近海での分布を確認した貴重な釣果となった。

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    森さんが釣り上げたスジイカ。腹面に二本の筋状の発光器がある

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    小笠原ホエールウォッチング協会に戻ってから釣り上げたイカを詳しく調べる

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    アカイカによく似ているが、背中の前よりに小判型の発光組織があるトビイカ

    小笠原ホエールウォッチング協会


     今年の調査では、水深600mにも800mにもアカイカが多く出現した。12月には特に大型のアカイカが水中カメラに捉えられた。漁業用縦延縄で釣獲された大型のアカイカを調べてみると、ほぼ熟卵をもった雌個体が大半で、この時期小笠原近海がアカイカの産卵場であることは間違いない。そのほかにアカイカよりやや小ぶりの種不明のイカもしばしば撮影されたが、種まで判定することは出来なかった。新たに工夫した横吊りの仕掛けでは、期待していたほどは良い映像は得られなかったが、アカイカが仕掛けに水平に近づいてくる一寸変わったシーンが撮影された。また、ヒロビレイカが斜め下方向から餌に接近して腕を大きく広げるシーンも得られた。

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    横吊りの深海カメラで撮影されたアカイカが水平方向から仕掛けに近づく映像

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    横吊りの深海カメラで撮影されたヒロビレイカ、斜め下方向から餌を襲う

    小型HD深海カメラで撮影された映像は、その日の調査航海から帰港した後、森さんが勤めている小笠原ホエールウォッチング協会に機材を運び真水で洗い、室内で耐圧ブリンプからビデオテープを取り出し、再生プレーヤーで見ることになる。何か写っているものがあると、出現時間と簡単なメモをパソコンに入力していく。60分テープが4本あるので、早送りで見ても3時間近くかかる。船の後始末を終えた磯部さんと岩ちゃんがやってきて、三人でワイワイ言いながら見るのも楽しい時間であった。

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    深海カメラを水洗いした後、ブリンプを開けてビデオカメラからテープを取り出す

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    小型の再生プレーヤーで記録された映像を確認する。なにか出現したときは、その時刻と簡単なメモをPCに入力する

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    船の後始末を終えた磯部さんと岩ちゃんがホエールウォッチング協会にやってきて、三人で撮影された映像を確認する
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