小説『神神化身』第十四話

「極秘の浪磯(ろういそ)スイーツレビュー

 これは浪磯に暮らす僕が自分の為にまとめている極秘のスイーツレビューである。もしこれが完成した暁には、舞奏競(まいかなずくらべ)を見に来た観囃子(みはやし)の人々や、観光客にもきっと役立つマスターピースになることだろう。先に言っておくが、甘いものというのはすべからく美味しいものである。何故なら甘いというのはイコール美味しいということだからだ。僕は全ての甘いものを愛する博愛主義者としてレビューを書こうと思う。これが甘味を愛するものによる、甘味競(かんみくらべ)なのである。

 このレビューをまとめるに辺り、浪磯の幼なじみたちにも協力を依頼した。正直三人のうちの二人は戦力外通告どころか永久追放レベルのことしか推薦してこなかったりするんだけど、まあ本人たちなりに頑張ったので及第点(きゅうだいてん)をあげる。

 浪磯は本当に美味しいものばっかりあるよね。その点も僕が浪磯を愛している由縁だよ


『浪磯まんじゅう』

 割と浪磯のどこででも売ってるのが、安心感があって好き。あんこって重量感があっていいよね。重みのある甘さっていう感じがして好き。舞奏(まいかなず)の稽古の後なんかはこういう重みのある甘味を食べて自分の軸に重さを取り戻すべきなんだよね。流石に体力を消耗するからか、三言(みこと)も舞奏社(まいかなずのやしろ)帰りの浪磯まんじゅうは好きみたい。
でも一個は要らないっていうから、いつも僕が三言の残したもう半分を食べてる。

 比鷺(ひさぎ)はこれを聞くと詐欺だ~なんて言うけど、
 僕は比鷺の分まで食べてあげてるの。感謝してよね。

『しらすシュークリーム』

 いくら名産だからってしらすを生クリームの中に入れるのはどうなの? 

って最初は思った。でも塩キャラメルが大正解だったように、塩っけのあるものを甘いものに混ぜたら美味しいんだよね。だからこれも完璧。外のパイ生地がさくさくで美味しい 
 実はこれ、比鷺が開発に携わってるらしい。といっても、比鷺の家には色んな人が出入りしてるから、その時に意見を求められて冷や汗流しながら意見したとか。



「しらすと生クリームって色が似てるから、まあなんとかいけなくもない……
 のかもしれないとか思って。

 え? 塩キャラメル? 知らないんだけど。
 てか塩とキャラメルって合うわけなくない? 嘘吐くなよなー! 
 えっ、本当にあるの? ……知ってたって。
 うん。流石にそこまで物知らないわけじゃないし。

 ていうか塩キャラメル知らないまましらすシュークリームを思いつけるんだか
 ら、俺ってやっぱり天才じゃない!? 

 もっともっと褒めて上げてよ。
 困ったなー、
 ひさぎんそういう方面の才能もあっちゃったかー!」


 ……比鷺の言葉を思い出してたら苛立ってきたな。
 あんまり褒めなきゃよかった。

『遠流(とおる)おすすめのクッキー型固形食』

 ごはんを食べるのが面倒な時にこれ一つでどうにかなる。らしい。ココア味。
 スイー……ツと言えなくもない。クッキーだから。
 おやつに出てきたらちょっとしょんぼりする。
 栄養はある。すごくある。

『比鷺が好きな揚げ唐辛子のやつ』

 正確な名前がわかんない。
 揚げ唐辛子のやつ。多分好きな人は好きなのだと思う。
 辛い。
 スイーツではない。

『ストロベリージェラート』

 説明不要の美味しさ。やっぱりアイスの王様といえばストロベリーだよね。
 でも、ストロベリー単体じゃなくてバニラと組み合わせるのが一番好き。
 僕は悪い人間なので一日にアイスを二個食べます。
 二つを交互に食べるのもいいけど、
 半分ずつ掬(すく)って食べるといちごミルクっぽい味になるのがまた好き。

『遠流おすすめのゼリー飲料』

 ごはんを食べるのが面倒な時にこれ一つでどうにかなる。らしい。林檎味。
 スイー……ツと言えなくもない。ゼリーだから。
 おやつに出てきたらちょっとしょんぼりする。
 栄養はある。すごくある。
 でも遠流、こういうので全部の食事を賄(まかな)おうとするのはどうかと思う。
 時間に対して貧乏性だし、労力に対しても貧乏性だよね。


 それとも全部面倒なだけなのかな。

『全力食堂リストランテ浪磯のチーズケーキ』

 三言が開発したチーズケーキ。

 やっぱりチーズケーキはレア風味のやつが一番だよね。眩しい白を見ているだけで癒やされるよ。こういうレアチーズケーキって、一口目はチーズクリームだけを掬って食べて堪能して、二口目からバランス良く食べるのがプロのやり方なんだよね。下の方にある茶色のクッキー生地がサクサクしてたまらないよ。
何より、僕の甘味好きを分かっててチーズケーキを作ろうとしてくれた三言の
心意気こそ愛だよね。

 お店に出すんだから厳しい目(この場合は舌かな)で審査しなくちゃなって思ったけど、特に文句のつけようのないケーキだったからちょっと悔しい。

 強いて言うならベイクドチーズケーキも食べたいかも。ほら、固めに生地を焼いてるやつ。あれも大好きなんだよね~。

 これからもずっとデザートにも力を入れてよね。そうしたら僕が通うからさ。出来るならかき氷もほしい、絶対ほしい! やっぱり小豆とミルクは用意してほしいな。でもかき氷の王様もストロベリーだよね。



 いよいよ夏が楽しみになってきたな。これからも頑張ってよね、三言。

 


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著:斜線堂有紀

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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