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小説『神神化身』第三十話 「舞奏競・果ての月(前編)」
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小説『神神化身』第三十話 「舞奏競・果ての月(前編)」

2020-12-18 18:27
    Twitter公式アカウント(@kamigami_keshin)にて連載中の小説『神神化身』本文アーカイブです。


    小説『神神化身』第三十話

    舞奏競・果ての月(前編)


     櫛魂衆の舞奏に伝統的に用いられてきた神楽鈴は、観囃子を呼び寄せ、引き留める音だと言われている。惑う観囃子達をその鈴で導き、一所に集めるのがその音の役割なのだ。だから、三言が神楽鈴を振る時はいつも、ここにいない誰かに向けて、その誰かを引き寄せるように鳴らしている。

     闇夜衆との舞奏競──果ての月には、多くの観囃子が集っていた。八谷戸遠流と萬燈夜帳のネームバリューもあって、競い合う前から両衆の注目度が高かったこともあるだろう。
     加えて、二衆の舞奏の実力は折り紙付きだ。ここ数年で一番素晴らしい舞奏競が観られる、という触れ込みで、昔からの観囃子が集っている。
     そのことも三言には嬉しかった。観囃子の歓心がどんな種類のものであれ、櫛魂衆には応える用意がある。普段練習で着ているものより重い装束を着た三言は、舞台袖から観囃子を見ながら、ぐっと拳を固めた。その横では、青い顔をした比鷺が祈るように手を組み合わせていた。
    「ぐ、無理、逃げ出したい。今からでも観囃子席に飛び込んで、何食わぬ顔でペンラ振りたい。ただ純粋に舞奏を楽しめる位置にいたい」
    「比鷺はしっかり舞奏装束を着込んでるからな……流石に紛れられないんじゃないか?」
    「はい。そろそろ三言のマジレスにも慣れてきました。ううう、どうしよう。俺が失敗なんかした日には、それが一生櫛魂衆の汚点としてインターネットで晒されるんだあ……やだあ……」
    「安心しろ。ここで注目されているのは当代最高の覡と名高い三言と人気アイドルの僕だけで、お前はおまけみたいなものだからな。気負わなくていい」
     さらりと遠流が言い放つ。アイドルとして場数を踏んでいるからか、遠流はこの数の観囃子を前にしてもあまり緊張していないようだ。落ち着き払った遠流を見ていると心強い気持ちになる。
    「はー? さっすがぁ? 広いライブ会場でたっぷりペンライト振ってもらってる八谷戸遠流くんは違いますねえ!? 俺にだって応援してくれる観囃子のみんないるもん! いるよね!? もっと九条比鷺の応援旗とか『くじょたん☆』うちわとか振ってよ!」
    「お前は期待が怖くないのか怖いのかどっちかにしろ」
    「はん、見とけよ。今日の舞奏競で俺のファンを増やして、櫛魂衆のこれからを引っ張っていくから! それで、ワクワク超パーリィに呼んでもらおうね。御秘印持ちの舞奏衆なら呼んでもらえるんじゃない?」
     比鷺がころっと表情を変えて笑う。確かに、舞奏競で勝ち、御秘印を手に入れた舞奏衆なら、その実力を高く評価して貰えるだろう。ワクワク超パーリィというのがどういうタイプの舞奏披(まいかなずひらき)の場なのかは分からないが、きっと参加出来るに違いない。
    「そうと決まったら、はい」
     比鷺が手をすっと下へと差し出してくる。
    「円陣組も。俺ちゃんと数々の名作アニメで履修してるから。こうやってみんなで気合い入れて、大成功して手繋いでジャンプするやつ。あれ? 手繋いでジャンプはオープニングかな?」
    「お前の知識は偏りすぎだ」
     言いながら、遠流が差し出された手に自分の手を重ねる。そして、三言に微笑みかけてきた。そこまで見てから、三言はようやく二人の手に、化身の浮き出ている自分の右手を重ねた。
    「……おい、比鷺。ここからどうするんだ。何か言えよ」
    「えっ、そ、そんないきなり言われても困るっていうか……み、三言! 三言が号令? かけてよ!」
    「え? 俺か? ……そうだな」
     色々な言葉が頭を過っては消えていく。そうして迷ってから、三言はシンプルな一言を口にした。
    「……俺の夢に付き合ってくれてありがとう。勝とう、櫛魂衆!」
    「うん」
    「任せといてよ!」
     掛け声と共に、円陣が解かれる。そして、三人は光溢れる舞台へと足を踏み入れていった。


     舞奏競本番の空気は独特だった。観囃子達はこの舞台を目一杯楽しもうとしているが、同時に貴きものを目の当たりにしようという緊張にも晒されている。
    「俺達は相模國舞奏衆、櫛魂衆です。最高の舞奏を全力で奉じるから、どうか見ていてください」
     三言はそう言うと、小さく一礼をした。観囃子からも迎え入れるための拍手が捧げられる。音楽が流れ出し、三言の神楽鈴が最初の一音を鳴らした。
     観囃子席に人が多いからか、神楽鈴の音の響き方が違う。普段より強めに響かせることを意識して、鈴を鳴らす。大変ではあるが、届いているという感覚が嬉しくてならなかった。
     遠流の歌声は普段よりも一層澄んでいて、一緒に歌っている三言ですらも聴き惚れてしまいそうなほどだった。それに、祝詞のように朗々とした比鷺の声が重なっていく。
     櫛魂衆の舞奏は、三人の覡で舞うことを前提にしている舞奏曲であるので、立ち位置の入れ替わりが多い。声が掠れないように気をつけながら、激しい移動をしなければならない。加えて、舞奏を奉じている間は観囃子から目を離せない。互いの位置を完璧に把握している必要がある。
     だが、櫛魂衆はその離れ業をやってのけられる舞奏衆だった。一度も視線をそちらにくれずに、背後にいる比鷺と入れ替わる。遠流と比鷺はぶつかるすれすれのところで身を翻し、魔法のように反転してみせる。
     さながら、舞奏中の櫛魂衆は一体の生き物のようだった。互いの呼吸を完璧に合わせ、一つのものになろうとする舞奏だ。必死でその波を統率しながら、三言は観囃子に向かって声を張る。そして、舞奏を通じて歓心を受け取っているだろうカミのことを想う。為すべきことを為す為の舞奏であるはずなのに、楽しくて仕方がなかった。願うなら、このままずっと舞い続けていたいとすら思う。
     そして、最後の一音が終わる。最後に遠流が神楽鈴を鳴らし、櫛魂衆の舞奏が終わった。たっぷり十秒ほど間を空けてから、拍手と歓声が巻き起こった。その音の圧で、三言の肌が震える。
     一礼をして、舞台袖に向かう。次は闇夜衆の舞奏だ。

     袖には既に闇夜衆が控えていた。櫛魂衆の舞奏装束とはまた違う、洒脱で目を引く舞奏装束に身を包んでいる。彼らは櫛魂衆の姿を認めるなり、観囃子と同じように拍手を送ってきた。萬燈がやけに楽しそうに声をかけてくる。
    「おう、九条比鷺。素晴らしい舞奏だったじゃねえか。やっぱりお前には俺の目を掛けるに足る才がある」
    「え、あ、ほ、本当に……? え、ふへ、う、嬉しい……って、対戦相手なのに溶けそうだったんだけど! こ、こわーっ! 何この場外戦術!」
    「やっぱり八谷戸くんは素敵なアイドルさんなんですね。ドキドキしちゃいました」
    「光栄です、昏見さん。闇夜衆の舞奏も楽しみにしています。個人的には昏見さんが一体どうカミに向き合うのかが気になっているので。今回の舞奏で、ある程度昏見さんの思いも見えてくるでしょう」
    「あら、少し怖いですね。お手柔らかに」
     そう言って、昏見がからからと笑う。
     そして、闇夜衆二人の奥には、皋所縁が控えていた。
    「……六原」
     修祓の儀の時と同じく、こちらの力量を測るような目だ。そのまま、皋がふっと笑う。
    「やっぱりお前って凄いんだな。見てるだけで圧倒されたよ。これからお前みたいなのと戦わなくちゃいけないんだなって思ったら、ほんと果てしないなって気分」
    「……ありがとうございます。皋さん」
    「でも、俺も──俺達も、全力でやるから。せいぜい見とけよ。ここから先が解決編(本番)だ」
     皋が高らかに宣言し、舞台に歩み出て行く。その背を追って、昏見と萬燈も観囃子の前に姿を晒す。会場の熱が一層強くなっていく。

     これから、闇夜衆の舞奏が──果ての月の後半戦が始まる。





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    著:斜線堂有紀

    この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。



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    ©神神化身/ⅡⅤ

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