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小説『神神化身』第二部 二十一話  「騒擾ストライクバック」
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小説『神神化身』第二部 二十一話  「騒擾ストライクバック」

2021-09-17 19:00
    Twitter公式アカウント(@kamigami_keshin)にて連載中の小説『神神化身』本文アーカイブです。


    小説『神神化身』第二部 
    第二十一話

    「騒擾ストライクバック」


     七生の舞奏を観た後、阿城木はちゃんと拝島を迎えに行った。これで三人揃った稽古が出来る──というより、その前段階として、他二人の舞奏を観ることが出来るわけだ。
     拝島の舞奏を観ることは、七生の舞奏を観るのと同じくらい緊張した。何しろ化身持ちだし、九尾の狐というよく分からない設定を付けながら生きているのだ。そもそも舞奏社から疎まれ、ずっとあの廃神社に籠もっている拝島がまともに舞えるのだろうか? という不安すらあった。
     結論から言えば、拝島去記の舞はそれらの不安を全て拭い去ってしまうほど素晴らしかった。
     拝島の舞奏は端正であったが、どこか恐怖を掻き立てられるものでもあった。舞い始めるなり、拝島の雰囲気はがらりと変わり、どこか人懐っこさを感じさせる表情が、それこそ人を喰ったようなものに変化した。
     自分は観てはいけないものを観ているのではないか。この舞奏に魅せられたが最後、もう戻れないのではないか──阿城木が感じた恐怖はそういうものだった。目の前のものは本当に九尾の狐、千年を生きる異形なのではないかと疑ってしまうような説得力。
    「どうだ? 人の子には少しばかり刺激が強かったかの?」
     拝島がいつもの笑顔で言うことで、ようやく意識が引き戻された。隣で観ていた七生が目を輝かせながら拍手をする。
    「すごい! 本当にすごいよ去記!」
    「そうであろう、そうであろう」
    「ああ、確かに上手かったな。見入ったわ」
     自分とは上手さのレベルが違う。──もっと言うなら、七生とも段違いだ。これが化身持ちの舞奏だと誇られれば、阿城木も納得してしまうようなものだった。
     だからこそ考えてしまう。これだけの技量を持ちながら、覡になる術が無かった境遇のことを──それでも、これだけ舞えるように自らを仕上げている拝島去記のことを。
     拝島はずっとあの廃神社で一人きりで舞っていたのだろうか。
    「それとは別に、……聞きたいことがあるんだけどいいかな」
     その時、神妙な顔つきで七生が言った。
    「よいよい。千慧の質問なら何でも答えるぞ」
    「去記、コンタクトレンズ……どうしたの?」
     それは、阿城木も気になっていたものの、訊けていないことだった。
     廃神社で阿城木の迎えを待っていた拝島は、右目に化身を誤魔化す為のコンタクトレンズを入れていなかった。化身の入った赤い右目と薄墨色の左目を惜しげも無く晒している。
    「うん? 何か変か?」
    「変っていうか……いや、全然変じゃないんだけどね。前はコンタクトレンズ嵌めてたから……心境の変化っていうか……どうしたのかなって」
     七生がおずおずと言う。それに対し、拝島は笑顔で返した。
    「ふふん、そんなことか! 察しが悪いぞ、千慧。何しろ我は覡となるのだからな! この目を見せずとしてどうする?」
     確かに、化身とは舞奏の才を証明するものなのだから、それを見せつけていくのは正しいのかもしれない。
     だが、違和感を覚えた。最初は化身が無い自分の単なるコンプレックスの裏返しなのかと思ったが、七生まで反応しているということはそうではないのだろう。
     案の定、拝島の言葉はこう続いた。
    「我の価値はこの目にあるのだ。我は舞奏衆を勝利に導き、観囃子から歓心を得なければならないのだからな。晒さないでどうする?」
    「いや……お前の舞奏はそれ自体でめちゃくちゃすげーし、目とかはあんまり関係ねえだろ」
     阿城木が言うと、拝島はきょとんとした顔をする。何を言われているのか、意味が分からないらしい。どうして分からないのだ? こんなに分かりやすく言葉を尽くしているのに! ぞわぞわと、背に冷たいものを感じる。
    「第一、ずっとコンタクトレンズしてたってことは、お前もあんまり見せたくないとこなんじゃねーの? だったら無理して見せることないだろ。や、化身見せたいっていうことなら別に良いんだけどさ」
    「我の気持ちなど関係が無いであろう?」
     あまりにも平坦な声で告げられたので、一瞬それが拝島の声とは認識出来なかった。
    「我は覡になったのだ。覡とは化身があることに至上の価値が置かれているのだから、我がこの目を晒すことに何の不思議もあるまい? 我はこれを与えられたのだからな」
     右目に指を添えながら、拝島が笑顔で続ける。表情はいつもの彼と変わらないのに、なんだか別人のようだ。
    「いや……その、化身を見せなくちゃいけないってこともないんじゃないかな? だ、だって僕だって別に見せてないし、阿城木はそもそも無いし……」
    「おい」
    「千慧も我を慮ってくれているのだな。心配することはないぞ。我は今度こそ、これを効果的に使わなければな。前は失敗してしまったから……」
    「前?」
    「事件が起こってしまった時よ」
     それが、拝島が加担させられていた詐欺事件のことを──拝島事件のことを指していることはすぐに分かった。だが、失敗とは何だ?
    「あの事件を解きほどいてくれたのは、とある探偵さんだった。とても出来た人の子での。罪は全て暴かれた。伯父さんは、報いを受けることになった」
    「それは……うん。そうだよね」と、七生が言う。
    「その際に我は……我はな、その探偵さんに聞いたのだ。伯父さんは救いようのない悪人だったのか、我が慕っていた相手は、赦されざる人間なのか、と」
     拝島が懐かしげに目を細める。化身のある方の目だけが、微かに潤んだように見えた。
    「そうしたら、その探偵さんは答えてくれた。『伯父さんは悪人だけれど、救いようがなかったわけじゃない。ほんの少しの巡り合わせで……道を踏み外してしまっただけだ』とな」
     拝島はそれが救いの言葉であるかのような、嬉しそうな笑顔で言う。だが、阿城木の胸にはもう既に得も言われぬ不安が立ちこめていた。その先を聞くのが恐ろしい、とすら思う。
    「我は安心したぞ。そうか、やはり根っからの悪人というわけではないのだ。伯父さんは少し間違えてしまったのだな、と。そうして思ったのだ。あんなに優しかった伯父さんが道を踏み外してしまったとしたら、我の所為なのだと」
     拝島の声が、段々と普段のものに戻っていく。そのことが一層──彼に根付いた呪いを感じさせた。
    「伯父さんが詐欺に手を染めてしまったのは、我に力が無かったからに他ならない。我に本当に人を救える霊験があれば──我にもう少し力があれば、伯父さんは嘘など吐かなくてもよかったのだ。道を踏み外したのは、我の所為だ」
     拝島の中の事件はまだ終わっていないのだ。煌々と右目に宿る化身のように、確かにそこにある。
     拝島綜賢は拝島去記の所為で道を踏み外したわけじゃない。人を救おうとしていたなんて建前だ。拝島去記に人智を超えた力が宿っていたとしても、拝島綜賢はそれを利用しての金儲けを考えたに違いない。
     拝島事件を解決したという名探偵の皋所縁だって、そんなつもりで件の言葉を言ったわけじゃないだろう。尋ねてくる拝島を前に、励ましのつもりで口にしてしまった言葉のはずだ。それがこんな風に反転してしまうだなんて思わなかったのだ。
    「だから、我は今度こそ全てを窶そうぞ。この右目に惹かれ飛び込む火蛾の宴を、水鵠衆に捧げようではないか」
     阿城木家の稽古場の戸を破りかねない、けたたましいノックの音がしたのはその時だった。
    「入彦くん! 入彦ちゃんくん!? 実は独演舞奏の件で話がしたくて! この近所に用事があったからついでに寄っちゃった!」
     社人である筒賀嶺の声だ。
    「阿城木、あれ誰?」
    「社人の筒賀嶺さんだよ。出るか」
    「だ、駄目ー!」
     どういうわけだか、七生が焦ったように言う。
    「あ? 駄目もクソもねーだろが」
    「あわわわわ、い、去記こっち! こっち!」
    「うぬ……千慧……千慧の手でぎゅうぎゅう押されても、我は小さくはならぬぞ……」
     今度は拝島のことをどうにか小さくしようとし始めたらしい。突然の奇行だ。意味が分からない奴だと思ってはいたが、今度はいよいよ分からない。そうこうしている内に、背後で戸が開いた。
    「入彦くん──って、あれ、他にも誰か……」
     筒賀嶺の目が、七生に纏わり付かれている拝島に吸い込まれた。そして、その顔に驚愕の色が浮かぶ。
    「その目……伝承にある、拝島家の化身? それじゃあ、あなたが……拝島去記?」
    「いかにも。我がこの世最後の九尾の狐、拝島去記ぞ」
    「ああ、直接会ったことなかったっけ。こいつが──」
    「どうして拝島家の人間が入彦くんの家の稽古場にいるの?」
     筒賀嶺の声は鋭かった。今まさに、自分のチームメイトだと紹介しようとした相手に向ける声ではない。凍り付いた空気の中で、今度標的になったのは青ざめた七生だった。
    「それに、そっちの子は……その、魚媛ちゃんが言っていた子よね? その子はノノウ志望?」
    「あ、え、えっと」
    「何言ってんだよ、筒賀嶺さん。こいつはれっきとした化身持ちで、上野國水鵠衆のリーダーになるって……」
    「水鵠衆? どういうこと? 覡でもないのに……」
     そこで、ようやく全ての合点がいった。
     七生は舞奏社に話を通していないし、水鵠衆を承認させる手立てもない。そして、そのことを七生は隠していた。
     急に足元が揺らいだようだった。筒賀嶺の表情は依然として凍り付いているし、拝島も七生もこの状況を打開する手立てを持っていない。おまけに、拝島に至っては一社人である筒賀嶺でさえ拒絶反応があるようだ。
     もし、ここで挫かれるようだったら、やっと掴めそうだった糸はどうなるのだ。自分の希望は。
     何より、──俺はもう、水鵠衆の舞奏が好きになりかけているのに。
     凍り付いた空気がそのまま割れかけた瞬間、もう一度稽古場の戸が開いた。
    「入彦。土産は野菜だ」
     よく通る声が稽古場に響く。
     そこには、父親である阿城木崇が──いかにも新鮮そうな野菜を籠一杯に抱えて立っていた。



     小さい頃からカレーは好きだ。カレーが夕飯だと浮き足だっていたし、何杯もおかわりをした。家のカレーさえ食べられれば、どんな嫌なことだって吹き飛ばせるような気分だった。
     だが、これは駄目だ。久しぶりに出張から帰ってきた父親とにこにこ楽しそうな母親、そしてチームメイト二名と食べるものじゃない。父親が土産として持って来た取れたて野菜がたっぷり入っていたとしても、まともに味わえないだろう。
     人数分のカレーが配膳された後、満を持して崇が口を開いた。
    「それで……君が魚媛から聞いていた居候のちぃくんとして、耳の生えた君は……」
    「我か? 我は上野國を守護する九尾の狐、拝島去記じゃ! 入彦の父にお会い出来たこと、心より光栄に思うぞ」
    「そうか……なるほど……拝島。そして、上野國だから、狐……。………………なるほど。阿城木家とここら一帯を守っている、阿城木崇だ。よろしく頼む」
    「はいはーい! 私は阿城木魚媛! このお家と入彦とちーくんを守ってまーす!」
     悪夢だ、と阿城木は思う。九尾の狐と両親が向かい合って自己紹介をしている。目の前にはつやつやのカレー。そして、隣には既にデザートのメイプルドーナツを見ている七生。どういうことなのだ、これは。
    「じゃあ僕も自己紹介しようかな。僕は七生千慧! 好きなものは甘いもの! 許せないものはクリームが全然入ってないスカスカのシュークリーム!」
    「どうしてお前まで自己紹介すんだよ」
     阿城木が呆れたように言うと、七生が不満そうに唇を尖らせた。
    「えーなんで? 阿城木もやった方がいいと思うよ」
    「そうそう。入彦もやった方がいいわよ」
    「何につけても自己紹介は基本だ。人間と人間の関わりは……いや、人間と狐の関わりも、そういうものだ」
     父親にまで言われたことで、不承不承「俺は阿城木入彦…………」と言う。本当に何なのだろうか。
    「うんうん。お父さんにみんなを紹介出来てよかった! さ、食べましょう! 入彦から聞いたのよ。コンちゃんは油揚げじゃなくてカレーが好きなのよね?」
    「おお、そうだぞ。我は油揚げよりもカレーが大好きなのだ」
    「コンちゃん…………」
    「あらぁ入彦? 何その不服そうな顔。狐だからコンちゃんなんだけど? 文句ある?」
    「我はコンちゃんで構わぬぞ。我は誇り高き狐だが、コンちゃんと呼ばれるのもかわいくてよい」
    「僕もかわいいと思う!」
     七生まで同調してそんなことを言い始めるので、いよいよ居場所が無くなってしまう。「ねえ、かわいいわよねー!」と魚媛がはしゃいでいるのを無視して、カレーを黙々と口に運ぶ。
     程よく辛いが、野菜の甘みもよく出ているので七生も喜ぶんじゃないだろうか。それとも、砂糖の甘みじゃないとあんまりテンションが上がらないんだろうか。表情を窺っていてもよく分からない。辛そうな素振りすら見せない辺り、案外辛いものが得意なんだろうか。それとも、意識がメイプルドーナツに持って行かれてしまっているのだろうか。
     そんなことを考えていると、不意に魚媛が口を開いた。
    「筒賀嶺さんってば、ちょっとびっくりしちゃったのね」
     思わずスプーンが止まる。崇の乱入で強制的に場がお開きになったものの、筒賀嶺は七生の率いる水鵠衆を笑えない冗談のように思っていたようだった。承認もされていない水鵠衆の舞奏披などを考えもしていない。
     あれが普通なのだ。化身を持っていない人間と、呪われし拝島家への、舞奏社の普通の対応だ。分かってはいるものの、心が苦しくなる。
    「あのね……多分、三人は大変だと思うの。これからね、色々言われたり、もしかしたら……信じられないくらい、酷い扱いを受けるかもしれない」
     魚媛は言葉を選んでいるようだったが、そこには隠しきれない不安が滲んでいた。無理もない。何しろ彼女は──ずっと阿城木のことを見ていたのだ。化身が無い為に覡になれず、舞奏社から疎まれていた彼のことを。それにどれだけ心を痛めていたかも、阿城木はちゃんと知っている。
     それでも、魚媛は毅然として言った。
    「でも、私もお父さんも応援してる。私達が最初の観囃子。ね、それで力づけられてくれたりする部分もある……あるわよね?」
    「あります」
     間髪入れずにそう言ったのは、七生だった。
    「こういう状況で……そう言ってもらえることがどれだけ勇気づけられるか、僕は知っていますから。だから……本当にありがとうございます」
    「俺も応援している」
     崇が物々しく言い、頷いた。
     それだけで、なんだかどうにかなりそうな気がしてしまったのは──一人ではないからかもしれなかった。

     食事を終えると、三人は自然と七生の暮らす屋根裏部屋に集まった。
     七生は何も言わず、魚媛から持たされた金平糖をポリポリと食べている。部屋にあまり食べ物を持ち込むなと言っておいたはずだが、がっつりと無視だ。これ以上目に余るようなら、七生からお菓子を取り上げなければならないだろう。
    「……いい家族だな。素晴らしいと思うぞ」
     不意に、拝島が言う。面と向かって言われて思わず言葉に詰まった。
    「……それは俺もそう思う」
    「それに美味しいカレーであった。我はカレーが好きだ。カレーはな、伯父さんが……よく作ってくれたのだ」
    「え、あ、伯父さん?」
    「疎まれていた我に対して、そこまでしてくれた相手はいなかった。我が残さず食べると、伯父さんは頭を撫でて褒めてくれてな」
     …………………………コメントしづれえ~と、阿城木は素直に思った。稽古場でも思ったが、軽い言葉で表現すれば、拝島は拗らせすぎている。阿城木が化身を拗らせているのと同じくらい、それに囚われすぎている。
     だから届かないのだ。阿城木がどれだけ拝島の舞奏を素晴らしいと思っているか──今まで隠していた目を晒さずとも、そこには確かな価値があるとどれだけ強く認めているか──それが、伝わらない。それを思うと、右目に光る化身が憎らしくなった。
     あれだけ欲していたものなのに、化身のことがこんなにも厭わしくなるだなんて思わなかった。
     そうこうしている内に、七生がざらざらと残りの金平糖を口の中に流し込む。砂糖で出来た星を詰め込んで頬を膨らましていると、鯉でもネズミでもなくリスに見える。というか、金平糖はそんな風に食べるものじゃない。もう少し味わって食べろ。
     ごりごりと七生が金平糖を囓る音だけが部屋に響く。
     その音が止んだ瞬間、七生が勢いよく頭を下げた。
    「…………ごめん! その、水鵠衆……全然、舞奏社に認められてなくて。というか、話も通してなくて」
    「唐突だな……お前」
    「これを言うのが怖かったから金平糖で勇気をチャージしてたんだよ! 分かった!?」
    「謝る必要はないぞ。分かっていたことではないか。我は所詮人に疎まれし化生よ。この目すら、社の人間には呪いでしかないのだ」
    「う……そんなこと言わないでよ去記……」
     七生が顔をくしゃくしゃにしながら言う。そして、深い溜息を吐いた。
    「…………舞奏衆を組もうって誘ったのは僕なのに、認められる為の方法が思いついてないんだから、ほんとに駄目だよね……」
    「んなこと言ったってしょうがねえだろうが」
    「阿城木は怒ってないの? ……ぬか喜びさせたでしょ」
     七生が怖々と尋ねる。
    「ぬか喜びじゃねーよ」
    「え?」
    「話通してねえのはマジかよって思ったけどな。……まあ、今はだったらしょうがねえっつうか。俺が希望を持ってんのは……お前と拝島がいるからだろ。なら、まだ芽はあるっつうか」
     蔵で七生を見つけた時に思ったことは、伝手がありそうだとか、認められそうだとか、そういうことじゃない。もっと根源的なもの──胸に射す星光だった。あれに惹かれたからこそ、阿城木は救い出され──掬い上げられたのだ。
     なら、まだ終わっていない。
    「我もまだまだ芽はあると思うぞ。何しろ、我には千慧も入彦もいるのだからな。何、社に認められずともやりようはある。我は特に何の許可も取っていないが、廃神社で人の子を導いているぞ」
    「それとこれとは流石に話が違えと思うんだけどな……。ゲリラでやったって舞奏競に出られないだろ」
    「でも、僕も去記と同じことを考えてた」
     七生が真面目な顔をして言った。
    「舞奏競は観囃子の歓心を集めて戦うものだよね。……先例が無いから分からないけど、もし観囃子の歓心を……ゲリラ的にでも集められたら、逆から僕らのことを水鵠衆だと認めさせられるかも」
    「んなこと出来るわけ……」
     ない、と言いかけて、はたと思う。本当に出来ないだろうか? もし、社から認められていない舞奏衆であろうとも、観囃子の歓心が大きく集められたら──社は勝手に組まれた水鵠衆を無視出来なくなるのでは? 少なくとも、何の対処もしないということはないはずだ。
     それに、阿城木には確信があった。自分達の舞奏は──いや、阿城木入彦の舞奏は負けない。観囃子の歓心を集めて、カミに認めさせる地力がある。
    「……やっちまうか、俺らで」
     阿城木が言うと、七生が驚いた顔をした。
    「なんだよ。お前が言い出したんだろ、子リス」
    「誰が子リスだよ! いや、なんか……そんな風に乗ってくれるとは思わなくて」
    「どうにもお前、反骨心に満ちあふれてるみたいだからさ。リベンジマッチすんなら、相手はカミだけじゃ物足んないだろ」
    「ほう、舞奏社へのリベンジマッチか。我はそういうの、いいと思うぞ」
    「あるいは、理不尽そのものへのな」
     阿城木が言うと、いよいよ七生の表情が変わった。蔵で出会った時のような、不敵で魅惑的な笑みが浮かぶ。
    「そうだね。そっちの方が僕ららしいか。よし、──やろう。我ら水鵠衆。カミの──そして舞奏社の加護受けぬはぐれ者。であろうとも、それだからこそ、僕らの舞台は、僕らのものだ」







    著:斜線堂有紀

    この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。





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