第28回 あなたも顔を変えておぞましい世界の不満を歌おう!
旧友が仕事で上京するというので会う約束をした。十五年ぶりである。
約束当日。待ち合わせの場所に向かう途上その友人から電話があった。「十五年間で体重は増え、髪は薄くなり、そのうえ二重目蓋に整形したためにほとんど別人になっている。君の顔も思い出せない。最悪なことに携帯も電池切れ間近で今にも音信不通になりそうだ。くれぐれも約束の場所から一歩も離れないでくれ」。
不安のなか私は都内某駅前広場に向かった。約束の広場の噴水前には先客がいた。若いストリートミュージシャンの女性。彼女はアコースティックギターを抱え、古着テイストな衣装というミュージシャンぽい格好、悪くいうなら没個性的下北沢的服装でオリジナルソングを歌っていた。立ち止まる客はいない。「待望のミニアルバム発売中」と書かれたダンボールが木枯らしに揺れていた。
夢とか希望とか成就しなかったけどいい恋愛だったよとかそんな感じの歌詞が歌われた。オーディエンスは私ひとり。