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その21 グレイシー柔術と古流柔術。(前半)

古流の柔術を使用した場所は、リングでもないしオクタゴンでもない。そもそも古流の柔術は試合で使われたのではなく戦場、つまり戦で使われていたのだ。戦とは1対1ではないし、平坦なリングやオクタゴンとは全く違い、石ころが転がり草木も生えていたり、川や山道でも行われた。そんな場所で寝技は出来ない。戦は学校のグランドよりも凸凹していて石ころが転がってるような場所でやるのだ。


そもそも戦場には馬が駆けてたりもするのだ。寝技なんかのんびりしてたら馬に蹴られて死んでしまうのだ。古流の柔術は畳やマットの上でやる前提でできてはいない。そして1対1で向き合って戦うようにもできてはいない。


実戦の場では寝技は役に立たないとか言う人もいる。多人数が相手なら、寝技なんかやってる間に他の相手にやられてしまう。確かにそうなのだ。そしてそれは現代の立ち技格闘技にもそのまま当てはまることに、僕は古流の立ち技を学ぶことで気がついた。


1対1できちんと向き合って試合をする形式に一番適したスタイルが現代の格闘技。空手や柔道も試合となれば1対1に特化したスタイルになっている。相手ときちんと向き合って正々堂々と技を繰り出すのが現代のスポーツ格闘技、武道も同じ原則に則り技術が構成されている。


もし、空手もキックもボクシングも多人数で闘ったとしたらあの構えでは危なすぎる。自分の正面にしか注意はいかないからだ。たしかに1対1の試合が日常なのだから、自分の正面により注意を向けるようにしたほうが効率が良い。実際に試合をやるのならば、効率が良いものが磨かれ生き残るのが当たり前なのだ。


だが、1対1に特化した格闘技のままでは寝技だろうが立ち技だろうが、多人数には使えないことに変わりはない。古流の柔術は基本、多人数闘うように技術ができている。だから構え方も足捌きも身体の使い方も、現代の格闘技とも武道とも全く違う。


現代の格闘技や武道は、基本自分の正面で力が出せるように工夫がなされている。自分の両手を前に出して、手先を着けた状態。つまり両手が胸の前で三角形になった形。ボクシングはジャブもストレートもそのラインで打ち出す。だから三角形の外側にポジションを取ることで自分に優位なポジションを取ることができる。


フックもアッパーも基本的に両腕の三角形の内側に打つことで威力が生まれる。だから、ボクシングは両脇を締めることを大切にする。三角形の内側に力が有効に使われるポイントがあるのだ。


実はキックも同じように自分の中心線に向けて力を出すことで威力が生まれる。廻し蹴りを自分の身体の横で蹴っても威力は出ない。組み技も基本的に同じ原理で身体を使用する。相手の横にポジションを取ると格闘技や武道では圧倒的に優位に立てる。横に対する技がほとんどないから、格闘技や武道では相手の正面ではなく横にポジションを取ろうとする。1対1であればそのほうがやりやすい。多人数を相手にするのであればそれでは心もとない。心もとないどころか危険でしょうがないのだ。