ほぼ週刊若者論テキストマイニング
第1回:鈴木謙介『サブカル・ニッポンの新自由主義』

ブログコンセプト変更のお知らせ
2014年9月より、弊ブロマガ「後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ」では、「ほぼ週刊若者論テキストマイニング」と称して、若者論に関する単数または複数の本の計量テキスト分析を行っていきます。原則として毎週月曜日~火曜日に更新する予定です。

若者論テキストマイニング――鈴木謙介『サブカル・ニッポンの新自由主義』(ちくま新書、2008年)

「コミティア109」(8月31日・東京ビッグサイト)のサークルペーパーの転載です。

今回は、『「若者の右傾化」論を総括する――平成日本若者論史11』(後藤和智事務所OffLine、2014年/仙台コミケ217)で使おうとして結局使わなかった、鈴木謙介『サブカル・ニッポンの新自由主義――既得権批判が若者を追い込む』(ちくま新書、2008年)を分析してみようと思います。同書は、ちょうど「ロスジェネ」系の論客による既得権批判(特に赤木智弘とか城繁幸とか)が盛り上がっていた時期に、「ロスジェネ」世代に向けて、まさにその世代の中にいる著者が、それらの「ロスジェネ」運動がインターネットを中心とした「ヒッピー運動の再来」的なものであることを指摘し、ゲームのルールそのものが変わっているのだ、と指摘する本です。とはいえこのような「異議申し立て」対「社会変動論を基盤とした宿命論」的な対立構造も、ロスジェネ系の論客が指摘していたこと(そしてこの直後にロスジェネ系の論客が捨て去っていったこと)、つまり経済問題としての労働問題という側面を切り捨てることに他ならないのですが…。とはいえ、ロスジェネ系の論客がその後「非モテ」系とか原発嫌悪系などの象徴闘争的な運動・言説に傾倒していったという経緯を考えると、鈴木の指摘は半分くらいは当たっていたと言えるかもしれません。

それはさておき、テキストマイニングで見た同書は一体どのような様相を見せているのでしょうか。本論では形態素解析にはMeCab(辞書はカスタマイズしています。資料参照)、分析にはKH CoderとRを利用しています(いずれもフリーソフトです)。ここでは、KH Coderの分類で「感動詞」「否定助動詞」「形容詞(非自立)」「その他」に分類されるものを除く単語のうち、3つの章で占有率が20%・15%となる水準の上位の単語を分析に使います。今回は、出現回数が14以上だと20%、26以上で15%になります(表1,2)。

表1
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表2
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まず、多次元尺度法(多次元尺度構成法、多次元尺度解析法とも)を用いて、2次元に単語を配置してみた結果が図1となります。この手法では近い使われ方をしている単語ほど近くに配置されるのですが(配置は小見出し範囲、Jaccard係数)、近くに配置された単語の特徴を見てみると(中心近くにはほとんどの部分で使われている単語が来ています)、横軸(次元1)では左側に自己、右側に政治や社会、社会運動に関する言葉が配置され、また縦軸(次元2)では上に若い世代の考え方、下に社会に関する思想という方向性になっていると考えられます。

図1 多次元尺度法による単語の配置
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また、対応分析(こちらは多次元尺度法とは異なり、データセットを行列と見なし、この行列と転置行列をかけて正方行列を作成し、その固有値に基づいて分析を行うものです)で章と単語を配置した場合、第1,2,3章で概ね方向性が決まっていることがわかります。こちらでは、第1主成分の正の方向が社会運動に関する項目、負の方向が思想や感情に関する項目であり、第2主成分は正の方向が若い世代の現状、下が社会思想・社会運動関係という構成になっております。

図2 対応分析による単語の配置
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表3
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また、「新自由主義」「若者」「ロスト・ジェネレーション」(注:資料の通り「ロストジェネレーション」「ロスジェネ」をこの単語に統一しています)「政治」で段落ごとに集計したJaccard係数に基づいて共起ネットワークを描いたのが図3~7になります。それぞれの単語の特徴を見る限りでは、サブカルチャー、政治、そして若者をめぐる論理のつながりが、少なくとも単語レベルではあまり明確ではないということだと思います。

最後に、単語などのJaccard係数の集計として、「しれる」と「ない」を同時に含む段落のJaccard係数について見ていきます。これは、「~かもしれない」という、若者論においては比較的多く使われ(『「若者の右傾化」論を総括する』での香山リカの分析では、特に若者論関係での使用が多い表現だった)、今回分析する鈴木の本でも比較的多く使われていた(単語を集計した際に「しれる」が22個見られた)ので見てみることにしました。関連する単語を見ると、雇用や生き方に関する単語が多いように見えます。概ね若い世代に関する記述において使われていると言えるでしょうか。このあたりは香山リカと同様なものと言えるでしょう。

表4
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図3 「新自由主義」関連語の共起ネットワーク(段落でJaccard係数0.25以上)
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図4 「若者」関連語の共起ネットワーク(段落でJaccard0.28以上)
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図5 「ロスト・ジェネレーション」関連語の共起ネットワーク(段落でJaccard係数0.3以上)
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図6 「サブカルチャー」関連語の共起ネットワーク(段落でJaccard0.5以上)
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図7 「政治」関連語の共起ネットワーク(段落でJaccard0.27以上)
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ただ、このようなテキストマイニングで単一の書籍、特にコラム集ではなく(1つのテーマを扱うことが多い)新書・啓蒙書・研究書について分析した場合、その論者の流れ全体を見るのが少し難しいという問題点があります。鈴木の若者論系の著作としては、他に『カーニヴァル化する社会』『ウェブ社会の思想』『ウェブ社会のゆくえ』(講談社現代新書、2005年/NHKブックス、2007年/NHKブックス、2012年)があり、これらの著作と共に分析するのがいいのかもしれません。

参考文献:樋口耕一『社会調査のための計量テキスト分析――内容分析の継承と発展を目指して』ナカニシヤ出版、2014年

資料
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これを起点とする企画「ほぼ週刊若者論テキストマイニング」は、私のニコニコチャンネルのブロマガ「後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ」にて連載していきます。今後の予定は次の通りです。

第2回:北田暁大『嗤う日本の「ナショナリズム」』(NHKブックス、2004年)
第3回:土井隆義『「個性」を煽られる子どもたち』『キャラ化する/される子どもたち』『つながりを煽られる子どもたち』(すべて岩波ブックレット、2004年/2009年/2014年)、『友だち地獄』(ちくま新書、2008年)
第4回:イケダハヤト『年収150万で僕らは自由に生きていく』(星海社新書、2012年)、『なぜ僕は「炎上」を恐れないのか』(光文社新書、2014年)
将来的にやる予定:中川淳一郎『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書、2009年)、『ウェブを炎上させるイタい人たち』(宝島社新書、2010年)、『ウェブで儲ける人と損する人の法則』(ベスト新書、2010年)、『ネットのバカ』(新潮新書、2013年)/「第10回東方紅楼夢」のサークルペーパーとして配信予定

【その他告知】

・「コミックマーケット86」新刊『R Maniax Advance――フリーの統計ソフト「R」をさらに使いこなす本』がCOMIC ZIN、とらのあなで委託中です。
詳細:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11893629865.html
COMIC ZIN:http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=20776
とらのあな:http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/23/61/040030236180.html

・「第10回東方紅楼夢」にサークル参加予定です。
日時:2014年10月12日
場所:インテックス大阪(大阪市営南港ポートタウン線「中ふ頭」駅より徒歩2分程度)
スペース:「E」ブロック27b

・「第2回文学フリマ大阪」に一部同人誌を委託します。
日時:2014年9月14日
場所:堺市産業振興センター(大阪市営御堂筋線・南海高野線・泉北高速鉄道「なかもず(中百舌鳥)」駅より徒歩5分程度)
スペース:「E」ブロック34「でいひま」様

・「大⑨州東方祭10」に一部同人誌を委託します。
日時:2014年9月14日
場所:北九州市・西日本総合展示場(JR各線「小倉」駅より徒歩5分程度)
スペース:「L」ブロック19「虹の戦士」様

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
ほぼ週刊若者論テキストマイニング 第1回
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2014(平成26)年9月2日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/

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