JR西日本が出したプレスリリース「奈良線 六地蔵駅の営業開始が遅延した事象について」が話題になっています。10月29日(月)に奈良線・六地蔵駅が定刻(午前5時20分)に営業開始できなかったことへのお詫び文なのですが、そこに記された簡潔な説明が注目の的に。 ---------------------------------------
原因:六地蔵駅の社員が起床後に二度寝したためです。
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電車に乗り遅れたお客さんがいなかったこともあり、ネットの反応は「二度寝ならしょうがないよね、人間だもの」とおおむねほのぼのムードですが、「何もそこまでストレートに公表しないでも...」と駅員さんを気遣うような意見もあります。筆者も朝が苦手なので、このニュースを見たときはちょっと冷や汗が流れましたけどね...。でも二度寝、気持ちいいよね...。 残念ながらこの駅員さんは二度寝してしまいましたが、このように決して寝坊が許されない鉄道の現場では「必ず定刻に目が覚める」装置を導入しています。もしそんなものがあるのならぜひ欲しい、と思ったあなた!(ていうか俺) 実はこの装置、一般向けに市販もされているのです。詳しくは続きをどうぞ。
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その装置の名は「自動起床装置」。ものすごい巨大な音を出す目覚まし時計のようなものを思い浮かべた方、残念でした。この記事冒頭に掲載した布団乾燥機のような画像がその装置なのですが、音を出して起こすわけではありません。むしろ動作時の音は非常に静かで、横で寝ている人を起こすことなく自分だけが目覚められるそうです。 仕組みはいたってシンプル。敷き布団の下、肩のあたりに空気袋をセット。セットした時刻になると、強力な送風機からエアが送られ、空気袋が膨張→しぼむを繰り返し、まるで布団の下から身体を揺すられているような状態になるとのこと。最大膨張時には枕から頭が浮くほどになるそうで、この状態で寝続けることはまず無理でしょう。実際の使用時の動画をご覧ください(だいたい5分目のあたりから作動開始)。
都市部の巨大ステーションならいざ知らず、地方の小さな駅では駅員さんが数人しかいない場合があります。そういった駅では始発前に駅を開けるため、駅員さんは当番制で宿直として駅に泊まり、早朝に起きなければなりません。このような寝坊の許されない駅で国鉄時代から使用されている信頼と実績のマシンが、この自動起床装置なのです。 知る人ぞ知る「業務用」のこのマシンが一般に知られるようになったのは、1991年の芥川賞受賞作・辺見庸さんの『自動起床装置』という小説です。この小説ではニュース通信社(辺見さんは共同通信外信部出身)の仮眠室を舞台に、そこで眠る記者たちを起こすというアルバイトをしている青年が主人公。猛烈に働き死んだように眠る記者たちを自然に、快く目覚めさせることを信条としている主人公ですが、ある日会社の方針で「自動起床装置」が導入され...という粗筋で、最もプライベートであり生物として当然の営みである「睡眠」から強制的に、文字通り機械的に引きはがされること、それを要請する文明社会への批判・漠然とした恐怖を描いた内容、というのがマシンにとってはちょっと皮肉な事態になっていますが、いずれにせよこの小説で「自動起床装置」を知った方も多いでしょう。 その後、テレビなどでの紹介で「個人向けにも売ってほしい」という声が大きくなったのか、2004年にはJR東日本が「おこし太郎」という商品名で一般向けネット販売を開始しました。「おこし太郎」はすでに販売終了していますが、現在ではさらに改良を加えた新製品が「定刻起床装置 やすらぎ」という商品名で販売されています。 気になるお値段は...さすがもともと業務用だけあって税込96,000円と決して安いものではありませんが、朝が弱い人なら本気で検討したい商品ではあります。いやまあ、これで一度は確実に目が覚めたとしても、暖かい布団の誘惑に負けて二度寝してしまうのを防止するのは難しいでしょうけど...。それくらい、二度寝っていうのは魅力的なものなんですよ! ごめんなさい!(と、誰かに逆ギレ的にあやまる)
定刻起床装置 やすらぎ[えきねっと] (マコ小林)