人のココロを動かすからこそ、エンターテイメントなんですね。
ここ数年でライトノベルはアニメ化や映画化など、徐々に実力を伸ばしており、一般文芸に引けをとらないレベルになっています。Kotaku読者の中にも、ライトノベルを読んでいる人は多いのではないでしょうか。
今回は『終わりのセラフ』や『いつか天馬の黒ウサギ』『伝説の勇者の伝説』などを代表作とし、人気ホラー映画『死霊のはらわた』の小説版を刊行された人気ライトノベル作家の鏡貴也先生にお話を伺ってきました。
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このインタビューでは作品の話はもちろんのこと、ライトノベル作家ならではの熱い想いや考えまで、色んな話をお聞きして鏡先生の魅力を感じられる濃い内容になっています。それでは御覧ください。
ーー本日はよろしくお願いします!
鏡貴也先生(以下:鏡):よろしくお願いします!
まず初めに先日刊行された『死霊のはらわた』について伺いました。
――先生のブログ記事を拝見させて頂きましたが、ご自身の作風や考え方、クリエイティブな面にオリジナル版の映画『死霊のはらわた』が影響を与えた点はありますか?
鏡:あると思います。子供の頃に『死霊のはらわた』を見て、とても好きだったんですよ。あの物語的にアクセルを踏む場面で、フルスロットルでいくような感じが「いいな、好きだなあ」と思いました。もともとハリウッド映画自体が好きなんですけれどね。
――『死霊のはらわた』は最近映画がリメイクされましたが、個人的にコレを文章にするのは、難しかったと思うんですが、いかがでしょうか?
鏡:試写会で見たのですが、雰囲気や内容が大きく変わっていて、キャラクターの設定も振り切った感じになってましたよね。
――そんな作品をお書きになられて苦労した点はありますか?
鏡:やはり映画は、絵的に振り切ってるところが多くて、意図的にキャラクターの設定が表現されてないところも多かったのですが、小説でうまく書くためには、小説用にキャラクターのバックグラウンドを作り直さなきゃいけなかった。というところですかね。
「死霊」の定義も(今回の)映画とは違う感じになっているかもです。どちらかというと昔の映画の定義でやりたいと思って小説を書きましたね。
――なるほど、『死霊のはらわた』にはとても愛を感じました。ああいったホラー作品って怖いながらも、ちょっと笑えるポイントもある作品だと思うんですが、自分でホラーを作ってみたいといった思いはありますか?
鏡:あの作品の感覚はサム・ライミ監督の感覚だと思うんですよ。今回は大好きなサム・ライミ監督の感覚を再現したいと思ったので、監督へのリスペクトの部分を強めて書きました。あれが僕の感覚かと言われると違うと思うんです。だからホラーを作るとなると、きっと違うもの、「僕のホラー」を作ると思います。
――スプラッターやゾンビなど、ホラーの中にもジャンルは色々ありますが、「鏡先生のホラー」を書くとしたらどういったものになるんでしょうか?
鏡:ゾンビは好きですね。子供の頃から夢に出てくるぐらいゾンビが好きでした。「今ゾンビが現れて、戦うには、逃げるにはどうしたらいいんだろう!?」と、ゲーム性があるからきっと面白いと思うんですよ。なので、そういうゾンビものは書いてみたいですね。
――今回の『死霊のはらわた』には、普段のお仕事とは違った思い入れがあったりするんでしょうか?
鏡:実は『死霊のはらわた』は僕の中では人生で初めての趣味のお仕事なんですよ。ファン的なお仕事、というか......。
――そうなんですね! 今後も自分が嬉しくなるような趣味の仕事をやってみたいと思ったりはしますか?
鏡:それはどうなんですかね(笑)。何年に、いや、10年に1回ぐらいじゃないですか。スケジュールの調整などがあるので、あまり時間が取れませんが.....。やってはみたいですね。
趣味のお仕事と仰られた『死霊のはらわた』ですが、子供の頃からお好きなだけあって、先生の作品に対するこだわりが感じられました。ここからは鏡先生の普段のお仕事についてお聞きしています。
――普段、どのようなことに気をつけて執筆をしていますか?
鏡:人が人に届けて喜んでもらうのがエンターテイメントだと思っているので、まずキャラクターを情熱を持って描けているかどうか、気をつけています。それはもう、一文字、一単語ずつ、「この配置でいいのかな?」「ちゃんと情熱がこもってるかな?」と、緊張しながら書いてます。
――そういったこだわりを持って書かれた作品が書店に並ぶ時、どういう気持ちになるんでしょうか?
鏡:心臓がバクバクしますし、吐きそうになりますね......。
すでに人気が出て、支持をいただけている作品では、読者の期待以上のクオリティを出すぞ! と思いますけれど、まだ日の目を見ていない新シリーズを出す時は、人生が終わるんじゃないかと思うぐらいに生きた心地がしないんですよ。外してしまったら終わりですからね。あ、もちろん人生は終わりじゃないですけど(笑)
続いて先生と作品の関係についてもお聞きしました。
――『いつか天魔の黒ウサギ(以下、「いつ天」と省略)』では、主人公の大兎は幼い頃に全国大会に行けるほど空手の実力があったものの、怪我で空手を断念してしまう、という設定がありますが、こういった設定は先生の経験に影響を受けている部分はあるのですか?
鏡:そんなことは無いと思って自分では書いてはいるのですが、ついこの間言っていたことが作品に書かれていた、なんてことは多々ありますね。「あ! 自分、言ってたじゃん!」みたいな(笑)
――書いている本人は気づいていないだけ、というのはかなり多そうですね。
鏡:自分にとって大きな出来事は、やはり作品に反映されてしまう事が多いです。というのも、やっぱり作家は作品を最高に面白く書きたい! と思ってるわけじゃないですか? そうすると、どうしても自分の内面や経験が出てきてしまうと思うんです。なにせ全力ですから。
『伝説の勇者の伝説(以下、「伝勇伝」と省略)』の1巻ではライナが2年間、牢屋に閉じ込められるんですよ。それは僕が作家になる前、2年もの間、地上げ問題で家に閉じ込められていたからなのかなぁ。とか。
当時僕はそれに気づかなかったんですが、どうして編集者さんはこのストーリーでOKをしたのかと言えば、やっぱり僕の過去を見て、その経験的な凄みがあったからなんじゃないかと思うんです。
――作家になる前の経験についてはHPの質問コーナーにも書かれていましたが、鏡先生の強烈な過去が作品にリアリティを持たせているということですよね?
鏡:僕の作品にリアリティがあるかどうか、実力があるかどうかは置いておいて、「凄いもの」を作りたい思うと、自分の全開を出すしかなくて、そうなっちゃうんだと思いますね。この業界は厳しいですから、「凄いもの」を作ろうとなると、作家も編集者も本気になるので、どうしてもアクセル全開にして出てしまうんだと思います。で、後で言われて気づいて恥ずかしいってことになるんですよ(笑)
いつも作品に本気で取り組まれている鏡先生はヒット作が多いだけに、ファンも多くいます。そこでこんな質問をぶつけてみました。
――ファンとの関わりで何か面白いエピソードはありますか?
鏡:僕は初めは作家を目指していたわけではなく、本当は医者になりたかったんです。でもこうして作家になって、読者さんが僕の作品を読んで、ファンレターで「主人公が頑張っているので、登校拒否だったんですけど、学校に行ってみようと思います。」とか「もう少し頑張って生きてみようと思います。」とか書かれたものを頂くと感動しちゃって、「うおおおお、僕の作品でこんなに頑張ろうって思ってくれた人がいる。なのに、俺がここで逃げてどうする!」と逆に力を貰うんですよ。なんていうか、互助会みたいになっちゃっているような。
――それはとてもいい話だ......。作家冥利に尽きますね。
鏡:もちろんお互いがどう思っているかは分かりませんが、それがエンターテイメントなのだと僕は思っています。エンターテイメントというのは元気づけるためにあって、一瞬人生の辛さを忘れて、書き手と読み手、みんなが集まって共有化する、それは例えホラーであってもそうでチェーンソー振り回して「ああ! 気持ちよかった。」と思って元気になってもらえる、エンターテイメントってそれぐらいにしか価値がないと思うんです。
――まさしく、それがエンターテイメントですよね。
鏡:僕は医者を目指していたので、今の立場では人って救えないのかなと思っていたんです。でも、ファンレターをもらって、ビックリしちゃって、「僕の仕事ってこんなに意味があるんだ」と思いました。
仕事ですからお金や生活のために頑張ってる側面も、もちろんありますが、お金のためにやっていない瞬間があるっていうことが、この仕事の一番輝いている時ですね。小説家になって本当によかったと思います。
――先生のお話、非常に面白かったです。この度はお忙しい中、まことにありがとうございました!
鏡:ありがとうございました。
鏡先生とのインタビューを通して「物語を書く」ということに非常に熱い想いを寄せている先生の魅力を感じられたのではないでしょうか。自分の書いた作品を愛し、「物語を書く」ところに自分を見出だしている鏡先生はプロフェッショナルであり、エンターテイナーなのだと思います。
『終わりのセラフ 2巻』、『死霊のはらわた』を刊行し、5月20日には『いつか天魔の黒ウサギ12』が発売されました。さらに5月27日発売の『週刊少年ジャンプ』には、『終わりのセラフ』が出張読み切りとして掲載されるそうですよ。ぜひ鏡先生の名前を見かけた時は一度手に取ってみてください。
[鏡貴也の健康生活]
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(佐藤カズユキ)
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