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第二話第四章 夕凪の記憶


著:古樹佳夜
絵:花篠

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■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について

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◆◆◆◆◆追憶・汐◆◆◆◆◆

これは、昔の話です。私には5つほど歳の離れた妹がおりました。

名を汐(しほ)といいます。

歌が達者な人魚でした。時たま海面に顔を出して、

海鳥を真似て歌い、面白がっていました。

そのうち汐は、近くを通る人間の舟唄など真似し始めましたので、

私も面白がって汐の歌を聞きました。

そのことを家族に咎められましたが、海の中はひどく退屈で、

私たち兄妹は暇潰しに余念がありませんでした。


私たちは岩礁に好んで泳いでゆきました。

そこは砕破が打ち寄せる、険しく切り立った場所です。

その一角に、地形の関係で潮が穏やかな窪みがありました。

窪みは、二人が腰掛けるのにちょうどよかったのです。

ここであれば、人間も近寄りません。


その日、汐は海底で拾ったという

珊瑚でできたかんざしを得意げに見せてくれました。


「兄さん、私の髪に飾って」

夕凪 「いいよ」


私は人間がそうするように汐の髪の毛にさしてあげました。

汐はご機嫌になって、人間の歌を口ずさみました。


「私もっと歌が知りたい。人間と友達になるの」


汐が言いました。もちろん、私は賛成しませんでした。

人魚を捕まえて、すり潰しては不老長寿の妙薬だとありがたがる

人間の野蛮さは親から聞かされていました。

事実、私たちの世界では、

人間と会うのも、話すのも、してはいけないことでした。

皆が口を揃えて、禁忌だと子供に教えます。

約束を違えたら、家族全員、仲間外れです。


それでも汐は私に言うのです。