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第三話第一章 文豪の集い

著:古樹佳夜
絵:花篠

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■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について


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◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆

吽野「寝癖直んないな……ま。いっかぁ」

吽野は前屈みになりながら
右手で前髪をいじり、ぶつぶつ言っていた。

阿文「おや、先生が鏡台の前で髪を整えている。まるで猫みたいだ」

部屋に入ってきた阿文はくすくすと笑った。
足元をすり抜けたノワールが、目を細めて、細く鳴いた。

ノワール「ニャー〜」
阿文「ははは。確かに、ノワールの言う通りだ。猫だったらあんな寝癖はつけてない」
吽野「悪口が丸聞こえなんだけど」
阿文「おっと、気づかれた」
吽野「たく、聞こえよがしに言ってくれちゃって」
ノワール「にゃん」

吽野が拗ねて口を尖らせたので、阿文はからかったことを謝った。

阿文「先生はどこか出かけるのか?」
吽野「うーん……まあねー……作家交流会だよ」
阿文「交流会……? 誘われたのか」
吽野「そう。編集者経由でね」
阿文「交流会、かぁ。先生に作家友達ができるのはいいことだ。これで出無精も治るといいんだが」
吽野「行きたくて行くんじゃないって。編集から一生のお願いだ〜って、されちゃったのよ」
阿文「一生のお願いとは、また重大だな。よっぽど困っているらしい」
吽野「そうだよね〜。目の前で土下座されちゃあね」
阿文「吽野先生にお願いするなんて、高くつくぞ」
吽野「人を悪人みたいに……」

そうは言っても、吽野の口元が、にひひ、と
悪そうに歪んでいるのを阿文は見逃さなかった。
土下座されたことを思い出しでもしたのか。
なかなかいい性格をしている。
阿文は心の中でひとりごちた。

阿文「重要な人物との交流会なのか?」
吽野「そう。かの文豪、平井太郎先生からのお誘いなんだと」
阿文「平井先生! あのちょっと過激な怪奇小説を書いてる?」
吽野「そうだよ。よく知ってるね」

吽野は大袈裟に感心してみせる。

阿文「書庫にずらり並んでいるから、店番ついでに読んでいるんだ。世間を騒がせているだけあって、どれも面白かった」
吽野「俺もあの人の本は好きだけど。作家本人も好きかと言われたら、別の話だね」
阿文「そうなのか? 吽野先生と同じ怪奇小説を書いているのだし、気が合いそうなものだが」

阿文は不思議そうに小首を傾げた。
吽野はとんでもない、と言いたげに、
頭を2、3度振った。

吽野「変わり者だって有名らしいよ。変なものいっぱい収集してるらしい」
阿文「先生もよっぽどだぞ?」

阿文は思ったことが思わず口をついた。
吽野は、そんなことないよ、と反論した。

吽野「その平井先生が、俺をどーしても自分の主催する文化人サロンに誘いたいって何回も、何回も、連絡してくるんだそうだ」
阿文「何を嫌がることがある? 大変に名誉なことだろう」
吽野「名誉? どうでもいい。俺は人に会いたくない。家から出たくない!」

吽野は声を張って、力強く反論した。
その様子に阿文は呆れた。

阿文「そこまで嫌なら断ればよかったのに」
吽野「断ったさ! 飼い猫が死んだとか、同居人が亡くなって喪中だとか、毎回理由つけては、丁重にお断りしてたんだよ。でも、もう殺す人が居なかったからさ」
阿文「勝手に僕やノワールを殺さないでくれ」
吽野「ごめん。なんせ、今じゃ町内会の人は全員死んだことになっている」
阿文「ひどい話だな」

いよいよ阿文は呆れた顔になった。
取り繕うように、吽野は咳払いする。

吽野「しかしまあ、約束は約束だ。こうして身支度も整えて、行く準備もしてるでしょ」

『自分だって、これでも折れてやってるんだ』
吽野は腕組みなぞして、半ば捨て鉢な雰囲気を放った。

阿文「サロンなら他の作家も大勢いるだろう。作家友達を作ってくればいい」

阿文は、説得してやろうという気持ちで言葉を付け足した。
すると吽野は、

吽野「作家友達なんていらない。君や、そこの毛玉とか、話し相手には事欠かないからね」

ああ言えばこう言う、いつもの返しだ。

ノワール「フシャー!!」

足元にいたノワールは毛を逆立て、吽野の足に一撃をくらわす。

吽野「あーもう、俺を引っ掻くな!」
阿文「友達を毛玉呼ばわりするからだろう」

ノワールをしっしっと追い払いつつ、吽野は会話を続けた。

吽野「ともかくだ」
吽野「多分、今から行く場所って、君が思い描くようなところじゃないよ」
阿文「どう言うことだ?」
吽野「どうやら、サロンってのは建前らしい。やってることは、英国伝来の交霊会らしいって……編集者が言ってたんだ」
阿文「交霊会……?」
吽野「死者を呼び出して、話を聞き出すって……まあ、オカルトの会合だよ」
阿文「ははぁ、いかにも、怪奇作家らしいな」
吽野「だよね……」

吽野は、「ああ、行きたくない、行きたくない」とぼやいていた。
一方、交霊会と聞いて、阿文の目は爛々と輝いていた。

阿文「僕もついていっていいか? 少し興味がある」
吽野「別に構わないけど……気をつけてね」
阿文「気を付ける?」

吽野の頭に少しの不安が過ぎる。
なぜなら、阿文は憑かれやすい体質だ。
呼び出した霊が取り憑くともわからない。
十分に注意せねば。吽野は密かに決意を固めた。


[続]

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