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「故郷の引力」
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「故郷の引力」

2023-11-17 07:00

     大和駅の改札を出たのは午後2時を回ったところだった。待ち合わせまでまだ1時間近くあった。真っ先に目に入ったのは喫茶フロリダ。今となっては昭和レトロな看板は18歳まで暮らしていた当時のままだった。唯一見覚えのあるその場所を起点に朧気な記憶を辿るように歩き出した。大和に来るのは父が亡くなって以来だ。療養中の自宅アパートで朝食後に意識を失い、救急搬送されたのが大和市の大きな病院だった。20193月だったので4年振りになる。熊本出身の父が家族を作り、一番長く暮らした町。その父が人生最期の朝日を見たのが、そして集まった家族に見送られたのが、当時住んでいた隣の市ではなく、大和市だったのも今となっては何かの縁だったように思える。

     駅前の風景は18歳まで暮らしていた頃とは一変していた。相鉄線の線路が地下に潜ったのも大きいのだろう。線路跡地は広い歩行者道になっていた。かつての線路の上を歩きながら当時の記憶を呼び覚まそうと試みる。聞こえてきた子供たちのはしゃぐ声に足を止める。もしかして、ここ。針の先に掛かった魚を釣り上げるように記憶の糸を手繰っていく。急いでリールを巻くように歩を早める。交差点の一角に見覚えのある建物があった。
     西山学園大和幼稚園。48年前に通っていた幼稚園だ。卒園して四半世紀が経つ。園庭をあの頃の自分が駆け回っている。去年までの娘の姿が重なる。自分が想像もしていなかった未来に立っているのを実感する。

     
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