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「買ったまま使っていないノートがあった。」
買ったまま使っていないノートがあった。20年近く前にニューヨークを旅したとき、MOMA美術館で買ったモレスキンのノートだ。アートコレクションのいうラインのA3サイズのスケッチブックだ。黒のハードカバー。水彩でも透けたり滲んだりしないよう紙は厚めのマット紙になっている。プロダクトとして魅力的だったので思わず買ったのだけれど、そもそも旅先でスケッチをするような習慣がない。どちらかといえば絵は苦手だ。結局一度も使うことのないまま、かといって捨てるわけにも行かず、タンスの肥やしになっていた。最低限の持ち物で暮らすのを理想とするぼくの悩みの種でもあった。
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「わたしたちの社会」
わたしたちの社会は毎年大量廃棄される恵方巻きに象徴されていると思えてならない。
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「青春のわすれもの」
ある町の路線バスで大学の受験票を握り締めた女性を見掛けた。年齢はぼくと同じか少しだけ下くらいだろうか。
「××大学はこのバスで合ってますか?」
心配そうに運転手さんに訊ねる。
「あとどのくらいで着きますか?」
社会人受験だろうか、などと考えているうちにバスが大学前に到着した。受験票を握り締めた女性が真っ先に降りていく。打ち合わせの訪問先がそのバス停だった為、ぼくも続いて降りる。
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