『She said, I said.』は今回から有料化します。お値段1記事105円ポッキリ。ちなみに現在のぼくの全財産は57円です。


「あんまり仕事増やさないでもらいたいんだけど」

 保健室で、ベッドに寝かされた僕の額にオキシドールを塗りながら高村が言う。情けなくもノビてしまった僕を一人で担いで連れてきたのは、身長一七五センチの堂々たる体躯でバレーボール部キャプテンも務める彼女だ。ちなみに僕は一六三センチで春香は一五五センチ。

「俺にいてッ、言うなよ。どう考えてッ、ても悪いのはあいつだろ」

 抗議しつつ、視界を横切る脱脂綿が赤く染まっているのを見て取って渋面を作る。こりゃ重傷だ。

「わたしはフェミニストなので痴話喧嘩のときは女の子の味方です」

 イソジンを摘みつつ高村。そういえば上野千鶴子なんか読んでたっけ。

「アレが痴話喧嘩に見えたのか、高村には」

「二人でアレだけ仲良くバカバカ言い合ってれば誰だってそう思うわよ。おまけにパンツ覗いて」「いててててて」「カバンで殴られて失神なんて、犬どころか金魚も食べないわね」

 パンツ覗いて、のくだりでぐりぐりとイソジンを押し付けられ、悲鳴を上げる僕。

「不可抗力だッ! ていうか、常識的に考えて校則違反スレスレのスカートで廻し蹴り喰らわす女なんかいるかよ」

「そういえば、パンツ見えたら困るから何とかしろっていつか説教してたわね、草薙君」

「そんでモップの柄で殴られたよ高村さん」

「どうして困るのかしら?」

 女教師のような口調で訊いてくる。

「どうしてって……目の毒だろ。何かの拍子でそんなモノが視界に入ったら」

「そうねえ、他の男子に見られるのはイヤよね」

「おい人の話聞いてるか?」

「はい終わり」

 僕の言葉を軽やかにスルーして、高村は額に絆創膏を貼った。そして立ち上がりつつ、

「まさか気絶するとは思わなかったから、少しくらいここで寝ててもいいわよ。先生にはわたしから言っておくから、草薙哲哉は有原春香のパンツ覗いて保健室送りになりましたって」

「その前の過程をはしょりすぎだ!」

「あんな話を細大漏らさず報告しろなんて言ったら、わたしも怒るわよ」

 声のトーンが女教師から生真面目な女子高生になった。

「……言わねえよ」

「わかってるわよ。それじゃ、あとは付き添いに任せるから」

 ドアを開け閉めする音。……付き添い?

「出てきていいぞ、そこのバカ」

 返事の代わりに、かさりと物音。