春香の兄・祐介も登場していよいよ佳境、なんですが、どうも筋書きがよくわからないことになってます。ストーリーそのものを書きながら/描きながら考える、という、昔からの悪い癖です。さすがに最近はプロットらしきものも組むようになりましたが……。しかしなんだ、「手の早い女の子」ってライトノベルじゃよく見かけますけど、こんなのが身近にいたら命がいくつあっても足りませんね。
有原祐介という人物の大きさは、身長一八五センチという物理的なものにとどまらず、彼に一定以上の期間接してきた人物は皆少なからず――春香、僕、黒木、それにロリコンの伊瀬でさえ読書好きになり、彼と同じ高校に進学したという精神面の影響力からも推し量ることができよう。そして伝説の数々。いわく、幼稚園では保母さんの膝に座って新聞を読んでいた。いわく、小学校入学時には常用漢字をすべて読み書きできるようになっていた。いわく、中学校を卒業するころには自前の蔵書数が一〇〇〇冊を超えていた。いわく、小規模ながら俊英ぞろいで知られた風野高校第三文藝研究会から、その恐るべき文才で部員を一掃してしまった。いわく、センター試験の数学・地学の合計点は二〇〇点で、二次試験の数学はまったくの白紙だったにもかかわらず東大文三に現役合格。云々、云々。
春香がそのバカっぷりにもかかわらず現在下にも置かれぬ扱いを受けているのは、高村の指摘するような一面の人間的魅力もさることながら、ひとえにこの偉大な兄のおかげなのではないか、と思う。
――しかし、それだけの才能に恵まれた彼が、幾度となく新人賞に蹴られて小説家になれず、大学もやめて半ばひきこもりニートと化し、果ては妹の下着で抜いているというから、現実はどこまでも厳しい。かつては現代に生きる文学青年と思わしめた秀麗な眉目は愁いを帯びはじめていつしかどんよりと曇り、有原家にお邪魔したときの、こんにちは哲哉君、という挨拶は弱々しく湿り、春香の部屋でテレビを見たりマンガを読んだりしていると、時折隣の彼の部屋からうめき声やらドスンという物音やらが聞こえてくる。そのたびに春香は梅雨空のような顔をする。バカ兄貴が、と呟いたりする。
そして今、彼女はヒマラヤの雪男を見る目で、バカ兄貴とヘンなOBの二人連れを追跡中。何故か僕と由紀も巻きこまれた。