おはようございます。マクガイヤーです。
純金茶碗窃盗事件のニュースを聞けば聞くほど暗澹たる思いに包まれてしまう今日この頃です。日本は貧しくなってしまったんだなあ。
マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。
〇4月29日(月)19時~「最近のマクガイヤー 2024年4月号」
・時事ネタ
・『ロードハウス/孤独の街』
・『シティーハンター』
その他、いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
〇5月13日(月)19時~「『猿の惑星/キングダム』と猿の惑星シリーズ」
5/10より『猿の惑星』シリーズの新作『猿の惑星/キングダム』が公開されます。
映画版『ゼルダの伝説』にも抜擢されたウェス・ボールが監督を務め、前作『聖戦記』から約300年後の世界を舞台とするそうです。
『猿の惑星』といえば、1968年に制作された『猿の惑星』から始まるオリジナルシリーズは5作、『猿の惑星:創世記』から始まるリブート版は本作含めて4作、ティム・バートンのリ・イマジネーション版を含めれば合計10作という、堂々たるシリーズとなりました。中でも、映画史に残る完成度を誇る第一作を別とすれば、当時の公民権運動を反映した『新 猿の惑星』と10年代のテロと資源争奪を反映したリブート版三作の評価が高いです。
そこで『猿の惑星/キングダム』と猿の惑星シリーズを解説するようなニコ生を行います。
ゲストとして編集者のしまさん(https://twitter.com/shimashima90pun)をお迎えしてお送り致します。
〇5月26日(日)19時~「最近のマクガイヤー 2024年5月号」
詳細未定
いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
〇藤子不二雄Ⓐ、藤子・F・不二雄の作品評論・解説本の通販をしています
当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。
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また、売り切れになっていた『大長編ドラえもん』解説本『大長編ドラえもん徹底解説〜科学と冒険小説と創世記からよむ藤子・F・不二雄〜』ですが、この度電子書籍としてpdfファイルを販売することになりました。
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合わせてお楽しみ下さい。
さて、本日のブロマガですが、先日亡くなられた山本弘さんと『去年はいい年になるだろう』について書かせて下さい。
●追悼 山本弘
SF作家や「と学会」初代会長で知られる山本弘(以下敬称略)が3/29に誤嚥性肺炎で亡くなっていたことが4/4に報道されました。68歳でした。
辛いニュースです。
山本弘は2018年に脳梗塞を発症し、以後、それまでに書いた作品の文庫化や、連載をまとめたものを発表するだけになりました。一方で、思うように小説を書けない辛さや、過去にあったあれやこれやを、リハビリを兼ねてブログやカクヨムに綴っていました。2021年を最後にそれらは更新されなくなり、Twitterも2021年を最後にほとんどなにもツイートしなくなりました。
ある程度覚悟していましたが、やはり辛いニュースです。『創作講座 料理を作るように小説を書こう』が遺作ということになるのでしょうが、色々なことを思ってしまいます。
自分が山本弘のことを初めて認識したのは、『モンスター・コレクション』や『スペル・コレクション』といったファンタジーRPGの用語紹介・解説集でした。モンスターや呪文の解説の前に、それらが登場・活躍するシチュエーションを例示するための短い小説(ショートショート)が挿入されていました。楽しんで読み進めてゆくうちに、まだ中学生だった自分にとってファンタジーやRPGの関連知識がどんどんついてゆく実感がありました。ライトノベル(この頃は「ヤングアダルト」とか「ジュニア小説」とか呼ばれていました)を読まず、TRPGもやらず、ファミコンでしかファンタジーを知らない自分が、ファンタジー小説を読む補完として最適で、この『コレクション』シリーズだけは新刊が出る度にきっちり買って読んでいました。
実際に好評だったらしく、富士見ドラゴンブックレーベル25周年記念として出版された『モンスター・コレクション テイルズ』のあとがきでは、『モンスター・コレクション』が「安田均とグループSNE」名義が初めて世に出た契機だったこと、20刷を越えて売れたことが思い出深く語られています。
『アイテム・コレクション』、『トラップ・コレクション』、『シティ・コレクション』とシリーズが続いていったのですが、次第に小説パートが連作集のようになっていきました。同時に、この頃から有名人だった安田均と水野良、そしてその他大勢が分担して書いていた海外ハイファンタジーの翻訳を思わせる小説パートが、次第に一人の男が主導して書くラノベっぽいそれになっていったのです。連作故の視点や舞台がくるくる変わる読み物としての面白さと、ラノベっぽい分かりやすくてサクサク読める文体が絶妙にマッチし、読み物としてどんどん面白くなってゆく感じがありました。
で、その男こそがグループSNE時代の山本弘だったのです。
●「と学会」と山本弘
その後、山本弘はグループSNE内でSF、ファンタジー小説を手がけ、『ソード・ワールド』シリーズや『妖魔夜行』・『百鬼夜翔』シリーズ、『サイバーナイト』シリーズなどのゲームのノベライズやリプレイ、ラノベを書きまくっていたわけですが、当時高校生で生意気だった自分としては、いくら『コレクション』シリーズが面白くてもリプレイやラノベを読む気にはなれませんでした。ヤングアダルトど真ん中だったからこそ、ヤングアダルト小説なんて読みたくなかったわけですね。
故に、次に山本弘の名前を意識したのは「と学会」会長としてです。1995年の『トンデモ本の世界』と『トンデモ本の逆襲』はベストセラーになりましたし、星雲賞ノンフィクション部門も受賞したので読みました。山本弘が「と学会」で行っていた「トンデモ本を豊富な知識・良識の面から論破・ツッコむ」というスタンスは、当時大学生だった自分にとって「批判しながら本を読む」という姿勢を教えて貰ったような気がしつつ、90年代サブカル文化の時代精神も反映していました。以後、シリーズ書籍が出る度に読み、遂には年に一度のトンデモ本大賞選考会も観覧したものです。いやあ、楽しかったなあ。
●山本弘とSF
ある時期から山本弘はラノベでも「と学会」関連のエッセイやノンフィクションでも無く、SF作品を発表し始めました。元々SFに造詣が深く、ラノベでもハードSF志向のある作品を書いていたのですが、遂に本格SF作品を発表し始めたのです。
特に、初の本格長編SF『神は沈黙せず』は、「と学会」で扱った陰謀論やオカルトと、後に『トンデモ本? 違う、SFだ!』で「パラノイアSF」としてまとめることになる「世界や現実が見た目通りではない、偽りの世界である」――『胡蝶の夢』のSF的解釈――を合わせた、これまでの活動とSF的志向が合致した、山本弘にしか書けない作品でした。SF大賞候補作になったのも頷けます。
以後、本格SF作家としては当然のサイエンスに関する知識と、長年オタクとして活動してきたが故のアニメや特撮やその他ジャンル作品へのオマージュとリスペクト、「と学会」含めたファンダム(「と学会」は日本SF大会の一コーナーとして行なわれた「日本トンデモ本大賞」を起源としています)でのあれやこれや……等々を題材としたSF作品やSF要素のあるミステリ作品を精力的に発表し続けました。
印象深いのは、SFならAIや宇宙人(『アイの物語』、『MM9』)、ファンタジーならリザードマンやゴブリン(『モンスターの逆襲』、『醜い道連れ』)など、時に人間とは明らかに異なるが高い知性を持っている存在を設定し、リスペクトをもって描いているところです。つまり異質な他者とどう共生するかという「いま」の問題に、SFやファンタジー作家の立場から常に真摯に取り組んでいたといっていいでしょう。
自分のみるところ、山本弘作品の最大の特徴は、作品の根底に真っ当な正義感やヒューマニズムが流れていることで、それらは21世紀以降にアラフォー・アラフィフのオタク第一世代(たいていひねこびている)が書く小説としては貴重なものでした。どう考えても山本弘の底に根付いているであろう60~70年代の少年漫画・アニメ・特撮的といえる正義感やヒューマニズムの反映なのでしょう。
特に『アイの物語』や、テレビドラマ化もされた『MM9』、『僕の光輝く世界』などの評価が高いのですが、ここにきて自分が思い出すのは『去年はいい年になるだろう』です。
『去年はいい年になるだろう』は歴史改変小説でありつつ、作者自身が登場する「SF私小説」という触れ込みだったのですが、この意味を理解している人がどれだけいるのか疑問です。多くの私小説と同じく、本作には山本弘のやむにやまれぬ思いが浸み出ている(と自分には読める)という理由で、山本弘の著作において一、二を争う傑作なのではないかと思うのです。