5月17日の麻雀最強戦に出場する勝間和代さんにお話をうかがいました。(聞き手 梶本琢程)

麻雀はベイズで打てばいい
梶本「麻雀を打ち始めたきっかけを教えてください」
勝間「高校生のときにファミコンで覚え、大学生ではサークル内で年に数回程度雀荘で打ってましたね。その後、社会人になってから一、二回打ったぐらいで、その後はゲームもリアルも麻雀からは離れました」
梶本「最近、時々打たれてますね。麻雀熱が復活したのですか?」
勝間「去年の10月にゴルフのコンペがあり、一緒にプレイした人から麻雀に誘われまして。せっかく打つならあまりにも下手だと申し訳ないので練習がてらネット麻雀を打つようになったんです」
梶本「勝間さんのツイッターで麻雀の話が出て、しかもかなり優秀な成績だったんで『こりゃ凄い』って思ったんですよね」
勝間「誰かがツイッターで「麻雀を学ぶなら、とつげき東北★さんの本がいいですよ」とアドバイスしてくださって。で、『科学する麻雀』と『おしえて!科学する麻雀』を読みました。本の通りに打ったら、平均順位が2.3ぐらいになって「これは面白いな」と思いました。一番いい時だと50戦の平均順位が1.9まで上がりましたね」
梶本「それは効果てきめんですね」
勝間「私は大学院で確率論や統計を学び、会計士のときは金融とリスク分析が専門だったので、とつげきさんの本は非常に分かりやすかった」
梶本「となると、学生当時とは全く違う打ち方になったんですか?」
勝間「そうですね。当時は『手役を作ってリーチをかけてロン』しか考えていませんでした。守備もスジは安全、しか頭になくて」
梶本「今は特にどのようなことを意識しながら打たれているのすか?」
勝間「とつげきさんの本を読み、ネット麻雀を打って『あ、麻雀はベイズ確率★★を計算して打てばいいんだ』ということに気づきましたね」
梶本「ベイズ確率??」
勝間「確率論で有名な『モンティ・ホール★★★』という問題があるのですが、これはベイズ確率を知ってるとすぐに解けるんですね。で、麻雀のゲーム性はそれと非常によく似ているんですよ」
梶本「どのあたりが似ている部分なのでしょうか?」
勝間「麻雀は、最初全く情報がないところから、徐々に情報を開示していくことにより、それまで平均的に分布されていたものが徐々に明らかに有利不利が分かってくるところですね」
梶本「捨て牌が見えれば、見えていない牌の枚数をカウントできるし、捨て牌から相手の手牌を推理して微調整することもできますからね」
勝間「私の場合、1局は31巡と考えます。配牌で13巡、ツモが17~18巡の合計31巡。ただ、配牌の段階で3分の1ぐらいは勝負がついているんですが、そこから平均10巡ぐらいでテンパイし、13巡目ぐらいにはアガリが出る。ただ、数牌・字牌が出てくる確率や手に何を残すかという確率は常にバラバラですから、その状況で『何が山にあるか』を確率計算します。その中で、手役の効率とかアガれる機会、そして先ほど言ったテンパイ平均10巡目といった巡目を意識しながら打牌を決めます」
梶本「勝間さんの麻雀戦略では10巡目という数字が大きな判断基準となるわけですね」
勝間「はい。プロの対局を映像で見る機会も多いですが、10巡目以降でもあまり警戒せずに牌を捨てていますね。私は『10巡目なら誰かテンパイしていると思え』と教わりました。その巡目で誰もテンパイしていないのは例外的だと考えます」
梶本「メンゼンだとテンパイかどうかも定かではないし、待ちや値段も絞りきれないから気にしないほうがいいという意見もありますからね」
勝間「たしかにメンゼン手は読みにくいですね。私はネットだと必ず牌譜を見返します。後で牌譜を見返しても絶対に察知できないテンパイなら仕方ないと諦める。避けられる放銃だったかどうかを確かめる作業は大事だと思いますね」


親リーへ勝負するなんて無謀すぎる

梶本「ご自身はどのような雀風だと思います?」
勝間「私は圧倒的な守備型だと思います。放銃率が12%を超えるともの凄く反省します。やはり10%を目指したいですね。それが一番パラメータとして大きいので。ただ、あまり守りすぎると今度はアガれなくなるので、アガリ率が23%を切らないように意識します」
梶本「まず放銃率を下げることを重視している、と」
勝間「今の私は、たとえば2着で進退を迫られたところでアガればトップ、振り込めばラス、という状況ならラス回避を選びます。というのは、半荘終了時の平均得点という数値があって、私だと2万8千点ぐらいなんですね。それはつまり、半荘1回、あれだけやって3千点ぐらいしか稼げないってことです」
梶本「そういう数字にも着目されてるんですね。自分はその部分は気にしたことがない…」
勝間「ビックリするぐらい少ないと思いません? だったら1千点のアガリがどれほど大きいか分かりますよね。私からしたら8千点振り込むとか『ありえない!』となるわけです。それがあるから親リーに無スジを打つなんてもってのほかです。だから振込みは出来るだけ避けたいと思うのでしょう」
梶本「麻雀を打つ著名人の方で、ここまで徹底して数字に着目されている方も珍しいですね。」
勝間「そちらの方が楽だからですね。たとえば3900や5200のリャンメンテンパイになりそうな手なら『無理にリーチをかけずに、いつでもオリられるようにしつつアガリの機会を伺う』と考えて、そこを基準に持ち点(順位)、親か子か、アガリ点の多寡、残り巡目などで強弱をつければいいですから」
梶本「相手あっての麻雀ですから、相手のレベルを考慮することは非常に大切ですよね」
勝間「麻雀の技術にもハードスキルとソフトスキルがあると思うんです。牌効率はハードスキルで誰でも同じ。反対に、押し引きはソフトスキルにあたり、経験とか点数状況とか相手の打ち方とかを全部考えなきゃいけない。それはゴルフのアプローチに凄く似ています。ゴルフのショットはすぐにマスターできるんですけど、アプローチはとても難しい。状況に応じて打ち方が無数にあるので」

――最後に、麻雀を打つことで実生活やビジネスに生きてくる点があれば教えてください。
勝間「麻雀でも実生活でもそうですけど、自分で決めた規律を守る、ってことは大事でしょう。誰も興奮するとつい気が大きくなるし、逆に落ち込んでいても変なことやっちゃいますし。だからどんな状態でも自分がコントロールできる部分をキッチリしよう、ということですか」
梶本「特に麻雀では理不尽ことが連発なので、そんな中で自分を律していかないと好成績は残せませんね」
勝間「配牌は思い通りにできなくても、打牌選択はコントロールが利きますからね。仕事でいえば「上司は選べないけど、上司にどう対応するか」は選べますから。自分のできること、できないことを分けること。で、できる部分でベストを尽くし、それがダメならしょうがないじゃないか、と考えています」


★とつげき東北…麻雀研究家。2004年、『科学する麻雀』を出版し、従来の麻雀論にはなかった、徹底した数理的・統計的な考察に基づく麻雀戦術論を発表した。
★★ベイズ確率…ベイズ主義による「確率」の考え方(およびその値)を指す。すなわち複数の命題(\,\theta_1,\theta_2,…)の各々の尤もらしさ(あるいはその根拠となる信念・信頼の度合)を確率値(\,p_1,p_2,…)と見なす。主観確率理論の一つである。
★★モンティ・ホール問題…「プレイヤーの前に3つのドアがあって、1つのドアの後ろには景品の新車(当たり)が、2つのドアの後ろにはヤギ(はずれ)がいる。プレイヤーは新車のドアを当てると新車がもらえる。プレイヤーが1つのドアを選択した後、モンティが残りのドアのうちヤギがいるドアを開けてヤギを見せる。ここでプレイヤーは最初に選んだドアを、残っている開けられていないドアに変更してもよいと言われる。プレイヤーはドアを変更すべきだろうか?」というもの。答えは「変更すると当たりが3回に2回、変更しないと3回に1回」となる。

5月17日麻雀最強戦著名人代表決定戦風神編放送ページ
http://live.nicovideo.jp/watch/lv176893758
出場選手
【A卓】萩原聖人・加藤哲郎・押川雲太朗・大村朋宏(トータルテンボス)
【B卓】福本伸行・勝間和代・金子達仁・林下清志(ビッグダディ)
【決勝】A卓・B卓の上位2名
8名の選手がA卓・B卓、2つの卓に分かれそれぞれ半荘1回行ない、上位2名が決勝戦に進みます。決勝も1回勝負で、トップを獲った者が「著名人代表」として12月に行われる麻雀最強戦2014ファイナルに進出することになります。
【A卓】のみ無料放送、【B卓】【決勝】はチャンネル会員限定放送


取材・文 梶本琢程
近代麻雀2014年6月15日号より抜粋