優勝候補筆頭・魚谷がまさかの敗退!
オトナの雰囲気が漂う組み合わせだったA卓に比べ、B卓は池沢麻奈美・井上美里・魚谷侑末・松岡千晶というフレッシュなメンバーとなった。注目は女流№1雀士で今回も優勝候補筆頭の魚谷と、その魚谷が早くからその実力を認めている池沢との対決である。ただ、松岡にしても最強戦ガールの頃からはずっと地力をつけており、また井上も昨年のファイナルの借りを返すべくここに臨んでいる。ワンミスが命取りになるのはこの対局でも同じであろう。
序盤はジャブの応酬。そのなかから最初に抜け出したのは優勝候補筆頭の魚谷だ。
ツモ ドラ
ここでツモり三暗刻を選択していれば放銃は回避できたが、役牌暗刻ということもあり井上はリャンメンに受けを選んで打。これが魚谷へ5800は6400の放銃となった。
ドラがだけに色々な変化を待ちたい形だが、松岡は2巡め親リーの威を優先させた。この決断がバッチリ決まりツモ。裏ドラを乗せて4000オールのアガリとなった。
松岡・魚谷がリードで東場終了。トップは松岡だが、魚谷もこのトーナメントには滅法強く、勝ち方を心得ているだけにこのまますんなりかと思われた。だが、南入で親を迎えた井上が一気にマクっていった。
ラスめ・池沢もタンピンドラ2のテンパイでを勝負してリーチ。
は直前に捨てていて鳴かれなかったとはいえ、小三元の単騎待ちは十分可能性があるが、ここは勝負を賭けて前に出た。が、結果は池沢がを掴んで親っパネの放銃。これで池沢はハコ下へ沈んだ。
この局は、本当に魚谷がやってきた。危惧していたことがまさに現実となったのである。
これにより、決勝は愛内・和泉・松岡・井上という組み合わせとなった。A卓を勝ち上がった和泉はソファーに体を沈め、ずっと休んでいた。よほど疲れていたのだろうか? 決勝戦開始の直前数分前まで目を瞑ったままだったが、スタッフに声をかけられた和泉はスッキリした表情で起き上がった。
決勝戦がはじまる。
松岡が1000・2000、300・500と軽快に飛び出した。続く東3局も、井上の単騎チートイツのリーチに対し、カン待ちで追いついた松岡は果敢に追っかけリーチをかけたが、こちらは井上の勝ち。ツモったがそのまま裏ドラとなり、井上が頭1つリードした。
予選と同じく、決勝でもなかなか先手を取れない和泉。
東4局の親でもテンパイが遅く、13巡目で2シャンテン。仕方なくオタ風のをポンして形式テンパイへ向かう。
和泉のこういう動きはあまり見た記憶がなかった。雀風が変わったのかな? とも思った。
和泉「こういう仕掛けはあんまり好きじゃないですが…この時はあまりにもツモがきかず、このままだとノーテンで親が終わっちゃうと思ったので、早めに動きました。雀風を変化させたつもりはないです」
だが、この判断が良かった。仕掛けでテンパイを入れ連荘できたことが、次局の4000オール(メンピンツモドラ2)へと繋がった。
続く次局。親の和泉の手にダブ暗刻。いよいよ乗ってきたか~、という感じだったがそこへ井上・松岡が立て続けにリーチをかける。その一発目、和泉は無スジのツモ。これは松岡へのロン牌である。
ドラも1枚あり、イーペーコーや三暗刻などの手役も絡められそう。私の脳裏には強気にを通す和泉の姿しか思い描けなかった。強気に押して松岡に放銃。でも当然の押しだろう、みたいなことを考えていたのだ。だが、現実は違った。何と和泉は松岡の現物のを捨ててオリたのである。
和泉「アガったあとのダブアンコなので、ものすごーく行きたかったですが、2軒リーチの一発目に両方の無筋は行けませんでした。この局だけではなく、この日は全体的に弱々しい麻雀を打ってたなと思います。たとえ放銃しても、を叩ききった方が自分らしい麻雀だなと思います」
そのまま南入。和泉は東場と同じような手、同じ待ちで満貫を決める。
和泉「突然手が入って、『なんでアガれたんだろう??』と思ってました(笑)」
南3局。和泉は自身がラス親だけに、この松岡の親が最後のハードルとなる。
が、アガリさえすればよいところで和泉は食いタンのチーテンをかけなかった。
和泉「この日は弱気モードだったんです。ドラとか切れません! の方が薄かったので、そっちが出たら勇気だして切ろう!と思ってましたが(笑)」
この後、愛内がピンズのメンホンでリーチ(のアンカンつき)。
こうなれば和泉は愛内に局流しを任せる一手。愛内が松岡の親を流してくれればそれに越したことはないからだ。だが、松岡がピンズを押し返すがロンの声はかからない。そしてついにホーテイで出たにも愛内はアガリを宣言しなかった。
この見逃しをみた和泉はフリーズ、しかもかなり長い間である。もちろん、愛内がを見逃した理由を把握するためである。
命拾いした松岡は次巡リャンペーコーをアガって和泉のトップに迫ってきたのである。
そしてオーラス、松岡は満貫ツモで優勝というところまで迫ってきた。12巡目、その松岡が条件を満たすテンパイを入れる。
これならツモか和泉直撃で逆転する。はすでに4枚みえだがはまだ生きている。問題はリーチをかけるか否か、だ。リーチをかければ一発か裏ドラが必要で、その場合は和泉からの直撃は非常に難しくなる。だが、皮肉なものでこのがすぐに「行くしかない井上」から放たれた。これをみた松岡は次巡にツモ切りでリーチをかけた。薄すぎる待ちゆえ、もう見逃す余裕はない。出たら裏ドラに賭けるつもりで松岡はテンパイを宣言したのである。
この直後、和泉にもテンパイが入る。
アガれば優勝、あと5巡をしのいで流局でも優勝である。もちろん放銃すれば、ほぼ逆転されるだろうが、ツモられてもマクられる可能性は高い。皆さんならどうするだろう? たとえばここでオリた後に他家からを打たれてアガリを逃し、その上松岡にツモられでもしたらしばらくそのショックから立ち直れないはず。役なし愚形テンパイならそれも已む無しと思えるが、こちらもそれなりに勝算のある待ちなのである。
正直、和泉はここは前に出ると思った。が、この日の和泉は違った。我慢する道を選んだのである。
和泉「何度も言いますが、弱気モードなんです(笑) 本来なら、を打って自分でアガりきって優勝を決めたかったなと思います。ただ、この日はそういう麻雀を打ってなかったし、最後だけ行くと一貫性が無いかなとも思うので、あの日はアレが精一杯だったんだなと思います」
松岡がツモる度に心臓が締め付けられる思いだったに違いない。が、松岡が最後のを引き寄せることはなく、和泉が4年越しのファイナルの切符を手に入れた。
和泉「本当に本当にものすごーく嬉しいです! ちょっとウルウルしましたもんね(笑) ただ、この日の麻雀には全然納得いってないですし、ホントにたまたま勝たせてもらっただけだなと思ってます。これじゃファイナルでは通用しないと思うので、半年間きっちり、麻雀とメンタルを整えて臨みたいと思います」
2011年春。新人だった石井あやが女流プロ代表決定戦を制した夜、その対戦者だった和泉は自分の闘牌を悔いていた。その数ヵ月後、敗者復活戦では決勝卓に進むも藤崎智に破れ、その年のファイナルではリザーバー(棄権者が出た場合に繰上げ出場できる)を務めることになる。以降、ファイナルまであと一歩が届かない年が続いた和泉だったが、ついに勝ち上がりを決めた。数日前、久々に神社にお参りへ行ったご利益が早速、訪れたのであろうか? 和泉が最強位に輝いた暁には、ぜひその神社も取材させていただくことにしよう。