瀬戸熊直樹と多井はかつて同じプロ連盟のライバルとして鎬を削りあっていた。
瀬戸熊「多井さんは、僕より2年先輩で、1つ年下の関係でした。入ってすぐの印象は、『よく喋る人だなあ、麻雀に対しては真面目だけど、ずけずけ先輩に対しても言うなあ』と思ってました。しかし、ビッグマウスだけの腕を持っているのは、すぐ分かりました。なんとなく『この男には負けたくない』と思うような存在になって行きました。それから、B1リーグ、A2リーグ、A1リーグと同一リーグで戦い、ついに鳳凰位決定戦で戦うことになりました。結果は土田さん優勝。タイトル戦でもリーグ戦でも常に彼が半歩先を行って、僕が後を追いかけるような関係でした。いま思うと彼の存在が、僕を強くしたのは間違いないと思います。」
だが、翌年、多井はプロ連盟を退会し、紆余曲折を経て新プロ団体・RMUの代表となる。プロ連盟退会以降以降、瀬戸熊との対戦はなかった。
一方、瀬戸熊も当時をこう振り返る。
その分裂から約10年。ついにRMUの選手として初の最強戦ファイナルを賭けた舞台に多井が立つ。瀬戸熊はこれについてどう思ったのだろう?
瀬戸熊は東2局で満貫をアガって以降、終始3万点を維持する安定した戦いぶりで、水巻と共に決勝進出を果たす。
一方のB卓は、藤崎智・鈴木優・多井・小林剛という組み合わせ。
「最強戦の申し子」鈴木が抜群のスタートダッシュを決めた後、多井もリーヅモチートイツのアガリで2番手をキープ。最後は多井が藤崎に詰め寄られたが、自力でアガって鈴木と共に決勝進出を果たした。
2人の独壇場となった東場
起家から水巻・鈴木・多井・瀬戸熊の並びで決勝戦が始まった
最初のアガリを決めたのは瀬戸熊だった。
鈴木のリーチを受けながらタンヤオイーペーコーのカンをツモって1000・2000で先行。
南家・多井はドラトイツの配牌。親の鈴木の第一打をポン、さらにをポン。そしてチーで3フーロ。
ピンズのホンイツにも見えそうな仕掛けで、鈴木からで満貫を打ち取る。
南家・多井のアガリ
多井「戦中はあまり瀬戸熊プロだけを意識しないようにと思っていました。他の2人も強いですからね。しかし東1局から、しれっとリーチに押して、きっとラス牌っぽいカンで1000・2000をツモるものだから、やはり意識しちゃいましたね。(笑)僕が彼の上家ということで、ならばとことん意識してやろうと考えを変えました」
そして、東4局1本場、ついに瀬戸熊と多井がぶつかった。まず、先手を取ったのは親の瀬戸熊。
3巡目に待ちのピンフで先制リーチをかける。
7巡目、多井も追いつく。
が、役なしシャンポンの微妙な待ち。
が、優勝するには瀬戸熊のリーチを潰すこと、と多井は考え勝負を挑んだ。これが今まで何度もタイトル戦を制してきた経験則なのだろう。とはいえ、この追っかけリーチには「瀬戸熊との対決に勝ちたい」という多井の執念を感じずにはいられない。
見事、瀬戸熊からを打ち取り、トップ多井が瀬戸熊に満貫分のアドバンテージを持って東場を終えた。
最強戦の申し子が執念のアガリ
多井がトップのまま迎えた南2局2本場。ここで最強戦の申し子・鈴木が執念のアガリをみせた。
ドラのが暗刻の配牌を手にした鈴木。8巡目に次の形となる。
場はピンズが非常に安く、鈴木は早くから受けに標準を絞っていた。そこへ水巻から絶好のが出る。鈴木がチーと発声しようとした刹那、ソーズの染め手の瀬戸熊からポンの声がかかる。鈴木のアガリが難しくなったところへ北家・水巻からリーチがかかる。その一発目で鈴木が引いたのはだ。
親を落とせない鈴木。放銃を避けつつイーシャンテンを維持するなら落としだが、これは鈴木にとっても虎の子のターツ。長考した鈴木はこのターツに賭け、危険筋のを勝負。16巡目にを重ね、次巡待望のを掘り当て、親満のアガリを決めた。
これで一気にトップへ躍り出た鈴木。このアガリには、瀬戸熊・多井にも劣らない最強戦に賭ける鈴木の強い思いが表れていた。
普段は門前でじっくり手役を追う多井だが、この半荘は鋭い仕掛けをズバズバ決めていた。かなり遠い仕掛けだったが、多井の手に続々とピンズが押し寄せ、高速の満貫を決める。
一通のカン待ちで優勝テンパイを入れた鈴木と、連荘に賭ける瀬戸熊の間に挟まれ、南4局は多井の1人ノーテンで流局。これで多井は満貫が必要となる。
234の三色のイーシャンテンになった瀬戸熊が捨てたドラのを多井がポン。この時点での多井の手は次の形だった。
北家・多井の手牌 ドラ
はあと山に1枚。
多井「あれほどアガりたかったものは過去になかったというくらい、気合いが入りました」
だが、ドラを捨てた瀬戸熊も黙ってはいない。
三色は崩れたが当然即リーチ。そしてを一発で引き当てた。これで瀬戸熊にも優勝へぐっと近づき、いよいよ三つ巴の様相を呈してきた。
ツモれば優勝の多井。15巡目ながら、このは山に3枚。今度こそ、と念じてツモる手に渾身の力を込める多井だが、この手も実らず流局。
が、瀬戸熊も追いついてテンパイ。
粘りに粘った瀬戸熊が、5年連続となるファイナル行きのチケットをもぎ取った。
だが、今回の対戦はその序章に過ぎない。再び両者の熱いバトルを見たいと思う人は大勢いるし、2人もそれを望んでいる。
これに瀬戸熊はこう応えた。