因縁のライバル対決が実現

「この対局の話をいただいたとき、まだメンバーも聞いていないのに、不思議と瀬戸熊プロの顔が浮かびました。しかも決勝戦で対戦するな、と。なので、どんな内容でもいいから、最低限決勝には進もうと思っていました」
 これは、男性プロ代表決定戦雷神編に出場するRMU・多井隆晴の言葉だ。
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 瀬戸熊直樹と多井はかつて同じプロ連盟のライバルとして鎬を削りあっていた。
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瀬戸熊「多井さんは、僕より2年先輩で、1つ年下の関係でした。入ってすぐの印象は、『よく喋る人だなあ、麻雀に対しては真面目だけど、ずけずけ先輩に対しても言うなあ』と思ってました。しかし、ビッグマウスだけの腕を持っているのは、すぐ分かりました。なんとなく『この男には負けたくない』と思うような存在になって行きました。それから、B1リーグ、A2リーグ、A1リーグと同一リーグで戦い、ついに鳳凰位決定戦で戦うことになりました。結果は土田さん優勝。タイトル戦でもリーグ戦でも常に彼が半歩先を行って、僕が後を追いかけるような関係でした。いま思うと彼の存在が、僕を強くしたのは間違いないと思います。」

 だが、翌年、多井はプロ連盟を退会し、紆余曲折を経て新プロ団体・RMUの代表となる。プロ連盟退会以降以降、瀬戸熊との対戦はなかった。

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多井「プロ連盟では少し彼のほうが後輩で、ヒールだった僕とは違い、かなりの好青年でした。彼は当時から独特の麻雀を打っていたので、僕はよく、『本当に瀬戸熊は下手っぴなのに強いよな。ルールをよく知らないくせに身体能力だけで麻雀してる。(笑)』などと、からかっていましたが、他の人が彼のことを悪く言うのは気にいらなく、『俺以外の奴が瀬戸熊の悪口を言うな』というのが口癖でしたね。プロ連盟を退会するとき、一番必死に引き止めてくれたのは彼でした。そして退会後も、団体内で多井だけでもプロ連盟に戻せないかを考えてくれていました。それを聞いたとき、初めて僕は退会を後悔しました」

 一方、瀬戸熊も当時をこう振り返る。
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瀬戸熊「分裂の前日、彼から電話があり、電話口で泣きながら『連盟をやめることになりそうだ』と告げられました。あの時の喪失感は、いまでも鮮明に覚えてます。それからも彼の成績、対局は常にチェックしてました。自分の力と比較する為に。鳳凰位を三回目取ったときに、彼からメールで『今度は僕が追いかける番だな』と告げられた時は、ようやく追い付いたかなと嬉しかったです」

 その分裂から約10年。ついにRMUの選手として初の最強戦ファイナルを賭けた舞台に多井が立つ。瀬戸熊はこれについてどう思ったのだろう?

瀬戸熊「やはり多井さんを特別に意識していました。ただ、今回の代表決定戦ではプロ連盟から3人出ていて、A卓の自分が最初に負けるわけにはいかないという気持ちでいました」
 予選は別グループに分かれたため、共に2着以上でないと対戦することはできない。決勝で2人が戦うことを視聴者の多くが期待していた。


 予選A卓は、渋川難波・望月聖継・水巻渉・瀬戸熊の並びで行われた。
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 瀬戸熊は東2局で満貫をアガって以降、終始3万点を維持する安定した戦いぶりで、水巻と共に決勝進出を果たす。

 一方のB卓は、藤崎智・鈴木優・多井・小林剛という組み合わせ。
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「最強戦の申し子」鈴木が抜群のスタートダッシュを決めた後、多井もリーヅモチートイツのアガリで2番手をキープ。最後は多井が藤崎に詰め寄られたが、自力でアガって鈴木と共に決勝進出を果たした。



2人の独壇場となった東場

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 起家から水巻・鈴木・多井・瀬戸熊の並びで決勝戦が始まった

 最初のアガリを決めたのは瀬戸熊だった。
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 鈴木のリーチを受けながらタンヤオイーペーコーのカンpai_s_7m.jpgをツモって1000・2000で先行。

 一方の多井は、東2局1本場で華麗なアガリを決めた。
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 南家・多井はドラトイツの配牌。親の鈴木の第一打pai_s_nan.jpgをポン、さらにpai_s_chun.jpgをポン。そしてpai_s_6p.jpgチーで3フーロ。
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 ピンズのホンイツにも見えそうな仕掛けで、鈴木からpai_s_9m.jpgで満貫を打ち取る。

南家・多井のアガリ
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多井「戦中はあまり瀬戸熊プロだけを意識しないようにと思っていました。他の2人も強いですからね。しかし東1局から、しれっとリーチに押して、きっとラス牌っぽいカンpai_s_7m.jpgで1000・2000をツモるものだから、やはり意識しちゃいましたね。(笑)僕が彼の上家ということで、ならばとことん意識してやろうと考えを変えました」


 そして、東4局1本場、ついに瀬戸熊と多井がぶつかった。まず、先手を取ったのは親の瀬戸熊。
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 3巡目にpai_s_4m.jpgpai_s_7m.jpg待ちのピンフで先制リーチをかける。

 7巡目、多井も追いつく。
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 が、役なしシャンポンの微妙な待ち。

 ここで多井は打pai_s_3s.jpgで追っかけリーチを敢行する。これは驚いた。待ちは悪いわけではないが、打点が低く、親リーと喧嘩するには見返りが低い。いったん打pai_s_1p.jpgでテンパイを崩し、ソーズのイーペーコーなどの変化を待つ手もある。

 が、優勝するには瀬戸熊のリーチを潰すこと、と多井は考え勝負を挑んだ。これが今まで何度もタイトル戦を制してきた経験則なのだろう。とはいえ、この追っかけリーチには「瀬戸熊との対決に勝ちたい」という多井の執念を感じずにはいられない。

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 見事、瀬戸熊からpai_s_2p.jpgを打ち取り、トップ多井が瀬戸熊に満貫分のアドバンテージを持って東場を終えた。
瀬戸熊「多井さんを意識しないように打っていましたが、リーチ合戦は力が入りましたね。意地の張り合いみたいな部分もあったし。あのアガリはさすが(多井)だなと思いました」



最強戦の申し子が執念のアガリ

 多井がトップのまま迎えた南2局2本場。ここで最強戦の申し子・鈴木が執念のアガリをみせた。
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 ドラのpai_s_ton.jpgが暗刻の配牌を手にした鈴木。8巡目に次の形となる。
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 場はピンズが非常に安く、鈴木は早くからpai_s_3p.jpg受けに標準を絞っていた。そこへ水巻から絶好のpai_s_3s.jpgが出る。鈴木がチーと発声しようとした刹那、ソーズの染め手の瀬戸熊からポンの声がかかる。鈴木のアガリが難しくなったところへ北家・水巻からリーチがかかる。その一発目で鈴木が引いたのはpai_s_5m.jpgだ。
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 親を落とせない鈴木。放銃を避けつつイーシャンテンを維持するならpai_s_1p.jpgpai_s_2p.jpg落としだが、これは鈴木にとっても虎の子のターツ。長考した鈴木はこのターツに賭け、危険筋のpai_s_4m.jpgを勝負。16巡目に五索を重ね、次巡待望のpai_s_3p.jpgを掘り当て、親満のアガリを決めた。

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 これで一気にトップへ躍り出た鈴木。このアガリには、瀬戸熊・多井にも劣らない最強戦に賭ける鈴木の強い思いが表れていた。


 だが、次局。再び多井が鈴木の第一打pai_s_8p.jpgから動いてドラ色のピンズの染め手に向かう。
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 普段は門前でじっくり手役を追う多井だが、この半荘は鋭い仕掛けをズバズバ決めていた。かなり遠い仕掛けだったが、多井の手に続々とピンズが押し寄せ、高速の満貫を決める。
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 これで多井が鈴木を再逆転し、瀬戸熊との点差も一気に広げた。

5年連続のファイナル進出!
 トップめ・多井から鈴木が2600を直撃し、鈴木が微差のリードで迎えたオーラス。

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 一通のカンpai_s_8m.jpg待ちで優勝テンパイを入れた鈴木と、連荘に賭ける瀬戸熊の間に挟まれ、南4局は多井の1人ノーテンで流局。これで多井は満貫が必要となる。
 優勝へのハードルが高くなった多井。次の局も苦しい手牌だったが、絶妙な仕掛けで一気に条件を満たすテンパイを入れた。

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234の三色のイーシャンテンになった瀬戸熊が捨てたドラの六筒を多井がポン。この時点での多井の手は次の形だった。
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 ドラポンしたとはいえまだ苦しい形。だが、ここで上家・鈴木のpai_s_7m.jpgをチーした後、pai_s_6m.jpgpai_s_7s.jpgと引き寄せ、あっという間にカンpai_s_6s.jpgの満貫テンパイを入れる。

北家・多井の手牌 pai_s_4m.jpgpai_s_4m.jpgpai_s_6m.jpgpai_s_7m.jpgpai_s_8m.jpgpai_s_5s.jpgpai_s_7s.jpg pai_r_7m.jpgpai_s_6m.jpgpai_s_8m.jpg pai_s_6p.jpgpai_s_6p.jpgpai_r_6p.jpg ドラpai_s_6p.jpg

 pai_s_6s.jpgはあと山に1枚。

多井「あれほどアガりたかったものは過去になかったというくらい、気合いが入りました」

 だが、ドラを捨てた瀬戸熊も黙ってはいない。
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 三色は崩れたが当然即リーチ。そしてpai_s_4m.jpgを一発で引き当てた。これで瀬戸熊にも優勝へぐっと近づき、いよいよ三つ巴の様相を呈してきた。

 南4局2本場。瀬戸熊の先制リーチを受けながら、多井も追いついた。
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 ツモれば優勝の多井。15巡目ながら、このpai_s_5p.jpgは山に3枚。今度こそ、と念じてツモる手に渾身の力を込める多井だが、この手も実らず流局。
 そして3本場。ついにこの戦いにケリがついた。123の三色で仕掛けた鈴木にpai_s_1s.jpg限定のテンパイが入った。
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が、瀬戸熊も追いついてテンパイ。
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 待ち取りに悩まない最高の入り目である。当然、打pai_s_2m.jpgの即リーチをかけた瀬戸熊。その一発目でpai_s_9s.jpgを引き寄せ、逆転。

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 粘りに粘った瀬戸熊が、5年連続となるファイナル行きのチケットをもぎ取った。

戦いはこれからだ
 オーラスになってから鈴木・多井ともに優勝テンパイを二度ずつ入れている。優勝した瀬戸熊との差が一体何だったのかは未だに分からない。強いて言うなら、鈴木と多井の攻撃を受けながらも、瀬戸熊は決して焦らず、自分流を貫けたことが勝因だったのだろう。

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瀬戸熊「たった一回の勝負だけど、凄く懐かしく、楽しく苦しい対局の時を過ごせました」

 だが、今回の対戦はその序章に過ぎない。再び両者の熱いバトルを見たいと思う人は大勢いるし、2人もそれを望んでいる。

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多井「対局が終わった瞬間、頭が真っ白になり、敗北を受け入れるのに少し時間がかかりましたね。優勝に手の届く位置にずっといながら、最後の最後に決められなかったのは、一発ツモの連続で優勝を手にした瀬戸熊プロとは対照的でした。多井隆晴はもう少し強いと思っていたのですが、思い上がりでしたね…。(笑)今回は完敗です。しかし、瀬戸熊さんとの闘いは、むしろ始まったばかりだと思っています。次は僕が彼に敗北をプレゼントしますよ」


 これに瀬戸熊はこう応えた。
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瀬戸熊「絶対に負けられないという思いもオーラスには、結果をあまり気にしないで、ここまで内容よく打ててる自分に満足してました。これも彼が引き出した力だと思います。これからも彼に恥ずかしくない麻雀打ちになりたいと思ってます。僕は、彼を終生のライバルと思ってます。尊敬を込めて」
 いつの時代もライバル対決は見ていて面白い。今後もこの戦いが続くことを期待したい。