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雷神編のメンバーが発表された時、とても大きな緊張感に包まれたのを、昨日のことのように思い出す。

久しぶりに、あの男との対戦になるかもしれないと、予感めいたものが走る。

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第22期鳳凰位決定戦(2005年)から、ちょうど10年の歳月が経とうとしていた。

過去の対戦は、個の戦いであったが、最強戦は、個の戦いとは少し別の意味合いを持つ。

ニコ生のコメントも団体に対するコメントが圧倒的に多い。意識はしないように努めたが、敗北イコール連盟が敗けたと言われるのが、何よりプレッシャーとなっていた。

 

卓組は、A卓 水巻さん(最高位戦)、渋川さん(協会)、望月さん(連盟)、僕(連盟)

    B卓 多井さん(RMU)、小林さん(麻雀連合)、鈴木優さん(最高位戦)、

藤崎さん(連盟)

順当に勝ち上がれば、決勝であの男「多井隆晴」と当たる事になる。

 

最強戦の予選は、不思議とさまざまな思い出がある。2012年の新鋭プロ代表決定戦では、映像対局で初めて自分自身を表現する事が出来た。この時の朝も酷く緊張していた。

SNSなどには、辛辣なコメントが多く見られるようになっていた。「酷い麻雀打つな」、「一発裏アリだと全然ダメだな」、「お願いだから、もう映像対局出ないでくれ」など。この頃の僕は自分を表現出来てなかったから、当然の声だったと思う。その一方で、そういう意見を消すのは、やはり結果を出すしかないと思っていた。9本場まで連荘している最中、何度も「まだだ、絶対緩めるな」と自分に言い聞かせていた。

 

そういう事を経て、4年連続ファイナルに運よく出場してきたが、今期はそれも怪しくなりつつあった。鳳凰位、十段位と次々失冠。チャンスを頂いた前期プレミアリーグも惨敗。プロとはそういうものだが、またしても「瀬戸熊終わった」の声。コメントもパロディ調で「瀬戸際」のコメントが再三流れる。(個人的には、上手いと思うが・・)

 

そんな中、決戦の朝を迎える。慣れ親しんできた会場に定時に入る。対局者、関係者に挨拶を終えると、会場の卓でいつものように、牌を触り、素振りを繰り返す。とにかく。体の緊張だけは、ほぐしたかった。控室ではとにかく歩きまわっていた。解説の片山先生が、「瀬戸熊気合入ってますね、いい顔してますよ」と褒めて頂いたが、自分では緊張であまりよく覚えていない時間だった。

 

オープニングの入場シーン。ポーズをとる選手もいる中、ガチガチの僕に、そんな余裕があるはずもなく、強張った顔でお辞儀するのが精一杯だった。

ゴングが鳴り、ついに後戻り出来ない試合が始まる。局が進みオーラスをトップ目で迎え、ほぼ2着以内を手中にしていたが、高い仕掛けに挟まれ序盤から必死でオリる事になろうとは、やはり全員の勝ちたい意欲が、なかなか楽には勝たしてくれない。なんとか2着で通過となった。

 

ほんのつかの間の余韻に浸る時間が訪れる。

この時間が何より好きだ。もちろん次に更なる大事な戦いが控えているがこの時間だけは麻雀プロをやっていて良かったと思える時間である。

 

モニターでB卓の様子をチラチラ眺める。

鈴木さんが、東場で通過をほぼ手中にしていた。「最強戦の申し子」と呼ばれる男である。

「やっかいだな」と思っていた。

あと一人が、小林さんになった場合、水巻さん、鈴木さん、小林さんだと僕としては、やりづらいメンバーだなあと漠然と考えている一方で、藤崎さんが勝ち上がれば、精神的な部分では、普段から戦っているから、落ち着いて出来るという甘えた気持ちもあった。しかし確実に厳しい戦いになるだろう。

そして、どうしても多井さんの点棒は気になっていた。

決勝でやりたい気持ち半分、しかしそうなると、どうしてもプレッシャーは三倍になるから負けてくれという気持ちが半分と言うのが正直なところだった。

 

オーラス、鈴木さんが確定して、三者の争いとなった。

この頃には「誰であろうと自分の麻雀を打って勝つしかない」と思うようになっていた。

結果は鈴木さんと多井さんの勝ち上がりとなる。 

決勝の場所決めが行われた。水巻さんが東を引き、鈴木さんが南を引いた。

残りは西と北。全員が北を引きたかったと思うが、僕は最初から西家になりたかった。

「西!」と念じるも、引いたのは北。

多井さんが、悔しそうにしていたが、僕も内心ではがっかりしていた。 

たった一半荘だけど、絶対に負けられない戦いが始まった。

 

東1局、南家の鈴木さんが3ソーを切りリーチ宣言。

僕も同巡にテンパイ、ここで切る5ソーが、鈴木さんの入り目か、アタリ牌なのは充分に感じていたが、ノータイムで切った。

これぐらいの牌を切れずして僕の麻雀は成り立たない。

なぜならこれは死闘なのだ。

少しぐらいの傷を負うのは当たり前だ。最後に立っていればいい。

無傷で勝てる戦いなど絶対にない。

 

後から解るのだが、鈴木さんが二・五・八マチのメンタンピン。

僕はカン七のタンヤオイーペーコー。

ダマで押し続ける。このマチでリーチに行くのは、僕に言わせればビビッているのと同じである。

気持ちはリーチだけど、変化に備える。これが、僕の戦うフォームであり、生き方だ。

この生命線だけは崩さない。

運よくツモアガリ、まずは主導権を握る。

しかしすぐに、やはりあの男が立ち塞がる。

僕の時間帯になりそうな場面、僕と同じように、いやそれ以上の技と力で潰しに来た。

歯を食いしばって「やるな」と負け惜しみにも似たセリフを脳内でつぶやく。

 

南場に入り、死に体だった鈴木さんが息を吹き返す。彼もやはり戦っていた。


 

自分がどこで勝てたのかは、今でもわからない。

1つポイントとなったのは、対戦相手に対する絶大な信頼感。

勝ちにきている多井さん、鈴木さんは当たり前だが、オーラスチャンスのほとんどない、鈴木さんの上家水巻さんには、相当な信頼をしていた。

素晴らしい内容になったのは、水巻さんの対応力が一番大きいと言っても過言ではない。

 

今まで数多くの対局をしてきたけれど、多分僕の中での最高の半荘だったように思う。

この10年、僕はプロ連盟という厳しい戦いが出来る場所で、鍛錬できた事が最大の幸運だったと思う。

 

そして今回それを最大に引き出してくれたのが、多井隆晴という男だった事も強く思う。

 

「厳しい戦場」と、「強い対戦相手」

 

何よりこの二つが麻雀と言う競技で強くなり、自分を成長させてくれる最大の要因だと思う。

 

そして兜の緒を締め、猛者達が群がる次の戦場ファイナルに向かってまいります。

最後に、今回のスタッフ及び関係者の皆様、応援して頂いた麻雀ファンの皆様に心から感謝いたします。本当にありごとうございました。

         

                         日本プロ麻雀連盟  瀬戸熊直樹