最強戦ガール2人が夢舞台へ

 前田直哉プロの圧勝劇で幕を閉じた麻雀最強戦2015。そこから早や3か月。女流プロ代表決定戦・下剋上血戦より今年も長い最強戦の予選がスタートした。

 最初、タイトルを見て驚いた。下剋上血戦である。決戦じゃなくて血戦かよ、遺恨試合みたいだな、と。とはいえ多くの人は遺恨試合が好きだと思う。プロレスの小川直哉vs橋本真也しかり、ネットで「遺恨試合」を検索したらプロ野球の世界では数え切れないほどの対戦があったようだ。じゃあ麻雀の世界はどうか。実は最強戦でも少なからずあったと思う。ただ、それを今回のメンバーに期待するのは無理な話。

 が、別の期待はある。元・最強戦ガール2人の下剋上だ。対局メンバーの中に菅原千瑛・石田亜沙己の名前がある。

3c0847634af6d62b69c73c5c289dbee826564730

542e9d96dc549883597083048a0e98e9051b230b

 数年前、彼女らは最強戦のアシスタントとして女流プロ代表決定戦の戦いを間近で見るだけでなく、アマ最強戦の予選で全国を飛び回っていた。が、今回は選手としてその舞台に立つ。他の配信対局にもしばしば顔を出す2人だが、今回はそれとは違った緊張感で臨んでいたはずだ。



 予選A卓は、菅原・豊後葵・和久津晶・清水の組み合わせ。
8387c02c9321b4b718930931382c4eec4b260146

 菅原以外はザ・攻め屋という言葉がピッタリの打ち手だ。解説の荒正義プロをして「この3人に囲まれたくないよね。勝手にボンボンやり合って、自分の出番が回ってこないよ」と言わしめるほどである。
4ac825598f9fa11af4f1b1759b3cbce5ebaa5197

 だが、いざ対局では和久津・清水になかなか決定打が出ないまま東場が進む。抜け出したのは菅原。3人のハードパンチが飛んでくる前に、コツコツとジャブを決め、気が付けば圧倒的リードを築いていた。

 南1局4本場。菅原の持ち点はすでに47500。決勝の椅子をほぼ手中に収めたも同然だ。
ac87ff0090a9d6adda052657162f31147547ae81

 その菅原に大物手が入った。
東家・菅原の手牌
2afc174ca052912c56241cc925531a4780bd98d6

 打pai_s_4s.jpgで高目三色、安目もドラで最低親マンあるテンパイ。この手に誰が飛び込むかに注目が集まった。だが菅原はここでリーチを選択した。この持ち点なのでアガリ逃しは大した痛手にならない。が、相手に攻め返され放銃するリスクがある。なぜ菅原はリーチをかけたのか?

菅原「その前にポンテンや役なしドラ1の愚形テンパイも放棄した上で、pai_s_4m.jpgを引いての最高形になりました。すでに2人がpai_s_5s.jpgを捨てていて、ヤミテンなら特に仕掛けている和久津さんからアガれる可能性は高いでしょう。ただ、ヤミの間に他の人にアガられてこの勝負手をかわされるほうが精神的に堪える。リーチで相手に負荷を与えるほうがよいと思いました」

 やりすぎは承知の上でリーチを選んだ菅原。結果、テンパイの入った清水からpai_s_2s.jpgが出てアガりきった。
e8fdade7ec745d9d203814a3aaa8b4db6db04e11

  過去の代表決定戦を観戦し、幾多の大逆転劇をみてきた菅原だけに、いいときこそ緩めてはいけないという心理がかけさせたのかもしれない。
 さて、A卓のもう1つの椅子は豊後と南3局の親で満貫を引いた和久津が争った。シバ差の争いを制したのは豊後で、菅原とともに勝ち上がりを決め、A卓では今大会のテーマ「下剋上」の達成となった。

7f72646472dbbb5da2f0e399abaa6341ac3bb638

1daf084d8467b6059779bd69fd50f1274beec05a



経験値の違いを見せる二階堂

 一方、B卓は東城りお・高宮まり・二階堂亜樹・石田の組み合わせでスタート。
6de474429fb840aa02d3470cab7ba00ada5e2638

 東パツの親で満貫ツモを決めた東城を、二階堂が東3局の親であっさり逆転。そのまま4万点台を維持し、東場を終了。東城も手堅い打ち回しで局を進めていく。

6a8f54fa831547d26698ca6e420620634e3d1e63

cd38f773803eab85c3f5c80de16a27ccb4db1572

 B卓は平穏に上位2人が通過しそうな雰囲気が漂っていた。特に二階堂にはスキがなく、リーチはもちろんヤミテンに危険な牌ならチャンス手からでも躊躇いなくオリている。こうなると石田・高宮は東城から点数を奪うしかない。

 だが、南2局4本場にちょっとした事件が起こった。親の高宮のリーチに、西家・石田がドラのpai_s_haku.jpgを捨てて追っかけた。

142edaf139976aa156baedf6bd60fb36c7aa1dcd

4807ccb9cce8fffb3c6a13731f68156af0b951e9

 その2軒リーチに対し、共通安全牌を失った二階堂。
42aba26491c079e05e80fb6074c1d2a25fb08649

51e4faac334b4b93955d084548f4713d84e65114

ここで二階堂は、親の高宮の現物pai_s_1s.jpgを抜く。
石田「ロン」

放銃した。でも、ドラはすでに場に切れて高い手ではないはず…。開かれた石田の手を見た二階堂。予測通り高くない。だが、裏ドラ表示牌がめくられた瞬間、二階堂は少しのけぞった。

西家・石田のアガリ
3e75d9e0913fbb68ed27960f2d2213dcadfe4a44

 裏ドラ表示牌はpai_s_1p.jpgで、石田はpai_s_2p.jpgを暗刻持ち。満貫の放銃となる。これで二階堂の持ち点は3万点を割り、全員が1万点圏内の接戦になってしまう。だが、二階堂に焦りは全くない。

二階堂「点数が減ったとはいえまだトップ目ですし、2着目より断然有利な立場ですから、全然平気でした」

 まさかの裏3にも全くブレない二階堂。すぐさま次の親で6000オールをツモり返す。
3bcaf5803fd8470874392a22684a1e7bac0f3173

 このあたりは他の打ち手との経験の差、厚みの違いを感じざるを得ない。結局、東城がオーラスの石田の親を流し、二階堂とともに決勝進出を決めた。

521c088df32f77ab541d8029d174aab5405e27e3

eaafcf7e32d15ecd5330c3f2d7c96c2040886f51

d8ba1f7d5cd3d43e151d4eb32ef35f912505c756



 豊後・東城・二階堂・菅原の並びで始まった決勝戦。
332c0d47c6e52c47c39e919aebf2dd5e028823ea

 序盤は若手3人のアガリ競争が繰り広げられた。東2局、pai_s_ton.jpg・ホンイツを菅原がツモれば、次局はリーチ・ツモ・一通をアガり返す東城。

f8f96ff52890150bebcf483c61b8dc0e3bbe0fd6

0df10d10fb4763d13ee72f532ec66b96f3169789

ba7c621b5b7276fa0f40c49bed18520e603e48e9

5c8b2fff354c25a816c9e6770ab80510a89783d4

 さらにその東城から満貫を豊後が直撃。
fad098498c9b0ec938719cfb007352ed3045e306

2067f297cd2dca0854c087e50dc8e0a5d9894184

 唯一、二階堂だけがこのやりあいに加わらず静観していた。
26da635eb9a7fb6c2bd243fb14eb30ded55d52d6

 全員が3万点以下で迎えた南2局。菅原が大物手を決める。
5b7ddd73cb1eaf25599c1f399e7b53d3d2ae334e

西家・菅原のアガリ
94b37d5e58b9116fa7e04471b47ad11502c672a3

 リーチ・一発・ツモ・タンヤオ・ピンフ・イーペーコー・ドラ1のハネ満。ツモった菅原がこれで一歩リード。親のない豊後・東城はこれで苦しくなった。

菅原「すごく嬉しいアガリで優位にたてたのですが、『まだ終わってない! 亜樹さんの絶対にまっすぐくる親番を落とさなくては…』と思ってました」

 残るはひと山。二階堂の親さえ流せば菅原の優勝は目の前だ。
が、そこから菅原にとって悪夢のような2局が続く。

e805a36430dfaaa97b6ac01f4da3b3a9782a38f1

南3局 東家・二階堂の手牌
cfc8041b2a8500d7eddd76183c16695086e538cf

 ドラのpai_s_chun.jpgの出アガリに備えつつ、345の三色やイーペーコーの変化を待つ二階堂は、ここで打pai_s_6s.jpgのリーチに出た。

二階堂「三色にするには結局[3]が必要。ならカン[3]待ちでリーチでいいと思いました」

 このリーチに飛び込んだのが何と菅原。
690ec717c2c1d584aa015529960afb802d10df71

0a6684b1c059ed6175ea24711c9def9e550b3f69

f47c1b5404db86b724fffd80d4237d4341b58cf2

 裏は乗らなかったものの直撃は絶対に避けたい相手への7700放銃。テンパイならまだしもイーシャンテンからの放銃では本人も後悔するしかない。

 この放銃のショックが次局にも影響したか。全力で親流しにかける菅原に対し、東城がドラ[八]の暗槓つきでリーチ。
5807746dacaf2ef06810b9c72a9632838b8c9856

7d66c7ca286352c2082f0ad3352615d6b46d7f6a

 目いっぱいに手を広げていた菅原の手は瞬間で手詰まり、東城に満貫の放銃。
30b57d2ebb72b8e046083654be09dc308ac45f11

 これで東城がトップめに立ち、菅原は3着まで転落する。普通の人ならこれで冷静さを欠くところだが、菅原は意外にも強いメンタルの持ち主だった。

4d15b862e8a91bc0cf63a298055b3c6c562fe2b7

菅原「まだオーラス自分の親番がある、だから気持ちで負けない落ち込まない引きずらない、と思いました」

 迎えたオーラス。親で5800条件の菅原に軽い手が入る。3巡目、pai_s_chun.jpgを仕掛けていった。
175edcf939f5c2e888d9c9641c0c242a5c388fb0

 ここで菅原はドラの重なりをみて打pai_s_8p.jpgpai_s_4m.jpgpai_s_9p.jpgが出ればポンして1500のテンパイに取るが、狙いはあくまで一局決着だ。すると、すぐにpai_s_5p.jpgを重ね、条件を満たすpai_s_5m.jpgpai_s_8m.jpgテンパイとなる。直後、豊後からpai_s_5m.jpgが出て菅原がファイナル行きのチケットを獲得した。

2093eeb30cff8ce80a7fe0633d5d45a8876734be

df6af409def5f3ca9a265dd7448e1144aab09054

0bcc114d8dd8f6a4a53497af52b647a769596208

菅原「ファイナルでは鳳凰位の勝又さんと当たるんですけど、今日のような麻雀では申しわけないです。実力をつけて対局に臨みたいと思います」



二階堂亜樹のすげえ一打

南3局 東家・二階堂亜樹 8巡目 29700点持ち
5f6cedba55965a15f5771365c4f84fd8407dbbed

二階堂 打pai_s_4p.jpg

 ラス前の親番。微差のトップ目で二階堂は出アガリの利くテンパイを崩した。その理由は?

二階堂pai_s_haku.jpgを一鳴きした高宮に対し、自分がドラを捨ててポンされれば、結局オリざるを得なくなる。ソーズが高い場なので、自分の手でアガれそうなのはpai_s_3p.jpg引きでpai_s_2p.jpgpai_s_5p.jpg待ちになったときぐらいでしょう。場にpai_s_2p.jpgpai_s_3p.jpgは各2枚飛びなので、pai_s_2p.jpg引きのカンpai_s_3p.jpg待ちだと単純にアガリは厳しいでしょうね。そういう事情をふまえpai_s_6p.jpgを切ってテンパイを崩しました。pai_s_6p.jpg先切りなら、厳しいカンpai_s_3p.jpg待ちも多少出やすくなるという期待もありまして」

 この後、pai_s_3p.jpgを引いた二階堂はドラのpai_s_8s.jpg切りリーチ。恐れていた髙宮のドラポンは入らず、高目のpai_s_2p.jpgをツモって勝負を決定づけた。状況を的確に分析する二階堂の冷静さが光る一局だった。