文・木村由佳
1月23日、2016年最強戦の著名人枠争奪戦が行われた。
これは、5月21日に予定されている「著名人代表決定戦」の出場資格を争うもの。今回の出場者はヒデオ銀次(歌手)、城埜ヨシロウ(漫画家)、志名坂高次(漫画家)、広瀬章人(将棋棋士)。半荘2回で、トータルポイント首位の1名が、著名人代表決定戦への参加資格を得る。
結果から言うと、この日の半荘2回ともトップを取ったヒデオ銀次が勝ち上がり、「著名人代表決定戦」の出場資格を得た。ヒデオ銀次は1回戦東1局にホンイツ5200をアガったの皮切りに、終始危なげない麻雀で勝ち上がりを決めた。
とはいえ、他の3人にまったく逆転のチャンスがなかったわけではない。先行した状態での銀次の守備が最も顕著に見られたのは、1回戦南3局1本場だった。このときのスコアは親の城埜から次の通り。
城埜 29.2
銀次 35.1
志名坂 29.4
広瀬 6.3
この局、親・城埜の配牌がよかった。
ドラ
この手をアガり切れば、トップになる可能性がかなり大きくなる。最強戦ルールで半荘2回戦では、これまでずっと1回戦トップになった者が最終的に勝者になっている。そのことが城埜の意識にのぼったかどうかはわからないが、牌をツモる手には自然と力が入る。
一方、トップめの銀次は、城埜の気合の入った摸打を見てやや焦り気味。前局は自分が4巡目に城埜に1500放銃して連荘となっただけに、「自分がトップになるには早くこの親を落とさないと」という気持ちが強くなった。
そして銀次は、7巡目にチーという遠い仕掛けを敢行する。このは場に見えている4枚目だったが、銀次の手牌はまだこの状態。
チー
メンゼンならサンシャンテンだが、ここからを切ってタンヤオを目指す構えにした。ところが次巡に城埜からリーチがかかる。入り目は、なんとドラの。
ドラ
ツモリ三暗刻で、裏ドラを見なくても出アガリなら12000点、ツモで6000オール、をツモれば8000オールという高い手だ。
銀次
「城埜さんの気合の入ったリーチでいい手なんだろうな、と感じて全面撤退を決意した」。
銀次は「麻雀には神様がいるし、流れがある」と信じている。
「だから自分がへんな鳴きをしたことで城埜さんにテンパイが入ったのなら、これは自分がアタリ牌をつかむ流れ。必死で安全牌を探してオリた」
リーチの段階で城埜のアタリ牌は銀次の手に1枚、山に3枚。山にあった1枚と1枚は、銀次のツモ牌で手の中に吸収された。「アタリ牌を自分がつかむ」と信じていた銀次は、リーチを受けた後は切る牌にさほど苦しむことはなかったとはいえ、安易に中筋のに手をかけることもなく、丁寧に現物を選んで流局までしのぎ切った。
こうして1回戦をトップで終えたヒデオ銀次は、2回戦も大きな失点をすることなく、小さなアガリとノーテン罰符を守り切ってトップ。2連勝で勝ち上がりを決めた。
1回戦終了時のポイント(順位点込)
ヒデオ銀次 +55.6志名坂高次 +6.9
城埜ヨシロウ ▲18.9
広瀬章人 ▲43.6
2回戦結果
ヒデオ銀次 +55.6
志名坂高次 ▲22.1
城埜ヨシロウ +11.9
広瀬章人 ▲45.4
最終結果
ヒデオ銀次 +111.2
志名坂高次 ▲15.2
城埜ヨシロウ ▲7.0
広瀬章人 ▲89.0
対局後の控室で、志名坂、城埜、広瀬が口々に銀次の麻雀をほめていたのが印象的だった。
志名坂は「本当にしっかり打っていた。文句なしの勝ちだ」と言い、広瀬は「スキのない麻雀だった」と評し、城埜は「自分の初戦の甘さが悔やまれるが、銀次さんにあれだけきちんと打たれたら、この負けをすっきりと受け止められる」と振り返ってくれた。
銀次は対戦前に「みんなに見てもらって恥ずかしくない麻雀を打ちたい」と語っていたが、まさにそれを実践したと言える。
勝ちを意識したのはいつだったのだろう?「それは終わるまで全然考えられませんでした」と。では、苦しかった局面は?「もうずっとですよ。特に今回は必要以上に字牌を大事にしすぎたかもしれません。字牌を切るのは難しいですね。リーチがかかるたびに『もっと早く切っておけばよかった』と思っていました。字牌で放銃すると高いですからね。それと関連して、勝負に行くかどうかのメリハリをもっと考えて打たなくては、ということがわかりました」と。
歌手・ヒデオ銀次は兵庫県の淡路島出身。中学生の時に麻雀に出会い、以来友達や先輩と打っていた。18歳の時に就職した会社の上司が大の麻雀好きで、銀次はその人に麻雀の精神論を叩きこまれたという。「麻雀には神様がいるから、絶対に点棒は投げるな、必ずそろえて置け、といったことを厳しく指導されました。今でも私はその人に言われたことを守っています。麻雀は、ただ勝てばよいというものではないのです」
銀次は、平日の昼間にフリー雀荘を訪れるのが好きらしい。それも、新規の店に行くのが楽しみとのこと。「初めての店で数回、打つんですよ。きちんと、マナーよく打って帰るんです。そして後日、同じ店に行くと、必ずと言っていいほど店員さんが『何をされてる方ですか?』と聞いてくれるんです。『関西弁の新規のお客さんがマナーよくちゃんと打ってたねーと、帰られた後話題になってたんです』なんて言われるのがうれしいんですよ。自分はとにかくマナーよく、恥ずかしくない麻雀を打ちたいと思っています。マナーよくきちんと打てる人こそが強いと思いますし、そうすることで麻雀のイメージもよくなると思うんです。新規の店でも、どこに行ってもきちんとできるということを実践していきたいですね。だから、私は麻雀を後ろから見られるのが好きです。いつも自分で説明できる麻雀を打ちたいと心がけています」
「もっとキツイ麻雀を打ちたい、もっと強い人と打ちたい」という気持ちで競技麻雀を始めたヒデオ銀次。初参加のGPC一般リーグで2位になり、「歌手をしているなら著名人リーグのほうにも」と誘われ、2015年にはリーグ優勝。
めきめきと頭角を表して今回の「著名人枠争奪戦」への参加、そして勝ち上がりとなった。
5月の「著名人代表決定戦」までの間も、都内あちこちのフリーやセット、大会で銀次は研鑽を続けるだろう。5月の戦いぶりにも期待したい。 以上