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過激床屋放談(1)GURUvol.1(1994年)
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過激床屋放談(1)GURUvol.1(1994年)

1994-02-01 07:35
    過激床屋放談(1)

    翔泳社 GURUvol.1  橘川幸夫
    19940201

     政治の重要課題は雇用問題でありPKOも米自由化も所得税減税も雇用の安定なしには解決はありえない

    ●目的と結果を誤解した政治は滅びる運命にある

     政治という機能の本質的役割は「雇用問題」である。共同体の構成員に対して、役割分担を調整することが政治の役目である。政治の目的は「国民を豊かにする」ことではない。それはあくまでも結果であり、そのことを目的としてはならない。統治者が、豊かさを目的としたり、国民を豊かにすると誤解した政治は、滅びる。そういう「期待」を権力者に抱いた国民は堕落する。

     突然もらえる100万円より、毎月もらえる10万円の方がありがたい。政治の役割とは、国民が労働の機会を与えられ、労働しただけの報酬が回収できるシステムを調整することである。

     政治とは雇用問題である、という視点から現在の政治状況を眺めてみよう。すると、現在の政治状況は危機的状態にあることがわかる。それは腐敗とか経済不況とかいうことではない。企業が大規模な雇用調整を行い、新卒社員を取らないということが現在の最大の政治課題である。これは、既存の企業組織は、すでに発展原理を失っていることの証左である。儲からないから人を取らない、というのではなく、まず人がいて、彼らの仕事をどうするか、という社会基盤を考えるのが政治である。企業が雇用調整をする限り、政治は、企業調整でそのことをすべきなのである。はっきり言えば、雇用調整を続ける企業は潰していくべきだし、雇用を促進している産業を育てていくしかない。


    ●生活システムの設計こそが政治の最重要課題である

     では潰れていく産業をどうするか。シフトするしかない。シフトする形態は様々あろうが状況の変化に対応したシフトを、いかにスムーズに着地させるかが政治の技術である。

     米の自由化、という問題がある。これも、環境問題とか文化の問題とからめて語られるが、本質から言えば、農民の雇用問題である。自由化になれば、国際競争力からして農民が失業するという問題が政治的課題になる。昔の田中角栄ならば、農民に対して莫大な補償金を与えて政治決着をしただろう。小沢一郎もその手法を考えているかもしれない。しかし、それは政治ではないのである。

     成田農民の例を持ち出すまでもなく、一時の保証金の多寡が重要なのではなく、その後の生活システム=雇用のあり方を設計しない限り政治ではないのである。鎖国して農本主義をまっとうすることが不可能な状況では国際化するしかない。だとしたら、むしろ積極的に農民たちの国際化を、政治は計るべきである。

     日本は狭い国土しかないが、豊かな農業技術がある。このノウハウを海外に向けて輸出すべきである。明治以後のブラジルやハワイ海外移民政策とは別の意味で、「農ソフトウェアの輸出」を政策として出してくるべきである。農民は土に愛着がある、というが成田農民だって戦後の移植者だろう。日本農民が、オーストラリアで米作りをやるか、現地指導にあたれるような環境を政治が整備すべきである。あらゆる産業が世界を視野に入れて活動しているのに、農業だけ一国平和主義で行くのはおかしい。日本の農の問題は、農作物の輸入ばかりがテーマになっているが、輸出すべき「もの」は何かを考えるべきである。


    ●雇用問題を解決しない限りPKOは避けられない

     ODAのようなものも、単に予算を膨らませて援助しても、実質的効果がないように、仕事の仕組みを設計するための援助でない限り、バブルと消えるのである。

     所得税減税にしてもそうである。せっかく税金として集中させた賃金を国民に分散化させては意味がない。先日、電器業界の円高還元問題で、ある新聞の論説が「国民1人あたり100円程度の還元をしても意味がない。それなら予算のない大学の研究室に全部寄付して21世紀のインフラに投下したらどうか」と提言していたが、研究者の雇用を安定させるという意味において、これがまさに政治なのである。所得減税についても、たとえば、いくつかのプロジェクトを政府が提案して、国民に返す分を選択制で寄付できるようにすればいい。

     戦争も国家の雇用問題を追及した結果におこるものである。かつては、家の次男や三男の雇用口として軍隊が重宝がられた。PKOにしても、精神的な国際貢献なんかではなくて、国際市場の安定が今後の雇用問題にかかわってくると小沢一郎などは信じているから推進しているのだろう。

     93年度、コカ・コーラ社が工場進出を決めたのは、ワルシャワとプノンペンである。これらの地域が「安定」することが、市場確保となり、経済利益となり、ひいてはアメリカ国民の雇用安定につながる、というのがアメリカの戦略である。アメリカの言う「国際平和」というのは「市場の安定」ということである。日本が、国際市場に活路を見いだすかぎり、PKOは避けられぬ政治的手段となり、もしそうでない道を探るのだとしたら、市場原理とは違う、どのような「雇用」を創出していくのかというプロジェクト・デザインが必要となるのである。


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