政府主導型の女性活躍推進......。聞こえはよいけれど、実際のところはどうなのでしょう。本当に女性に寄り添った施策なのでしょうか。これまで世界中の出産現場を視察し、その土地で働く多くの女性たちと交流されてきた大葉さん。幅広い視野を持ち、5人のお子さんを育てながらオピニオンリーダーとして働き続ける大葉さんにとって、これまでの道のりは決して平坦ではなかったはずです。
「ワーキングママにとってパートナーのサポートは何よりも大切です。私の夫も、昔は週末イクメンでした。朝ごはん担当だった時期もありましたが、ここ数年は出張が多いのと、子どもたちが成長して家事量も減ったので、受験塾の選定や学校の個人面談を夫が担当しています。
また、夫婦ともに仕事柄、海外出張が多かったので、可能な限り子どもたちを(海外に)連れていきましたね。仕事をしながらも、いかに子育てを楽しむかが、私にとっての楽しみでもあるのです。
私は、女性のライフデザインとワークデザインをひとつのテーマとしています。じつは、今の日本の女性活躍のワーキングモデルは企業経営する男性用で、男性がつくった仕組み。残念ながら、まだ女性目線の制度や風土は少ないですよね。
女性活躍という言葉を背負った先ゆく先輩たちが、長時間労働モデルで掴んだ成功イメージをみせている以上、長時間労働が当たり前のまま。となると、豊かでその人らしい未来図が見えず、見通しが立たないストレスが消えない。私が開講してきた妊娠前の教室でも、激務で体調不良が悪化する働く女性が後を絶ちませんでした。黙って見ていることなどできなくて......。その想いが、今の私の活動につながっています」
仕事は大好き。母親業はもっと好き5人のお子さんを育てる、というだけでも偉業なのに、大葉さんはご自身の会社経営だけでなく、ソーシャルな活動にも従事されています。
「72億の地球人のひとりとして、もっと個性を楽しんでいいと思うんです。私は仕事も大好きですが、母親であることは天職だと思っています。ロールモデルを目指しているわけではなく、多様性を知らせる役割の一人であるかと。100年後の子どもたちもハッピーだと思えるよう、今の活動を続けています」
大葉さんに、ライフワークバランスについてお聞きしたところ、「ロック(6-9)な母でした!」というお答えが。
「朝と夕方、それぞれ6時〜9時が私にとっての育児家事の時間。我が家では、家事=家族の仕事と認識させています。お母さんひとりが家事をするのは家族じゃない。夫と子どもたち全員で『家族の家事』と認識を持たせる工夫をしました。楽しく参画させるか否かがとても重要です。子育ても30年目。長男は30歳になりましたし、昨年長女が出産し、孫もできました。いま思えば、子どもたちに学んだことばかり。大変なこともありましたが、総じて幸せな子育て期でした」
子どもは未来からの留学生ーー働きながら子育てする女性たちのみならず、すでに子育てが一段落した人、今まさに母親になろうとする人、これから母親になりたいと思っている人にとって、大葉さんの生き方はきっと励みになります。そのような方がたにメッセージをいただけますか?
「プレママや、これから赤ちゃんが欲しいと思っている方から『子どもが生まれたらどんな風に仕事をしたらいい?』という質問をよくいただきます。そこで私がいつもアドバイスするのは、応答性あるコミュニケーションを心がけてということ。
言葉以外のコミュニケーションが主流の3歳頃までは、感受性が強くセンサーが敏感。最上級の表情をむけて、もっとも優しい声で名前を呼んだり話しかけたりして、「本物の安全地帯とはコレだ‼」という安心と快適さを実感させてあげてほしい。もし、子どもが流ちょうに話せるとしたら「ねぇ、これって愛でしょ?」と言われるような、わかりやすい愛をたくさん感じさせる時期だと思うんです。
絵本を読み聞かせやお風呂に一緒に入るなど、ふつうのことでいいんです。3歳までのかけがえのない時間は、驚くほどあっという間に過ぎてしまうし、成長後も倒れない樹木のように育つために、心の根っこを太くできるのは幼児期なので、あえてお伝えします(笑)」
ーーオンオフの切り替えはどうしていましたか?
「仕事は、子どもが寝てからしていました。夕方から(子どもたちを)充実させて、早く寝かせる。自分も寝落ちしてしまったときは、早朝に早起きして仕事は朝活で。うちの子が通う保育園も、朝に出勤して前業を実践しているママ友がほとんどでした。もうひとつは、できるだけ自分の中でオンオフをつけること。
私の場合、育児最盛期でも、1日15分でも「自分の時間」をつくっていました。大学の通信教育を受けたり、クラフトを作ったり読書したり。たった15分でも週で2時間近くになり、月間8時間になる。お稽古に通うのと同じです。コツコツ継続できることを見つけ、時間にメリハリをつけることで、子育てにも仕事にも集中することができるのです」
ーー最後に、大葉さんのファミリーのように、いつまでも仲良くステキな関係でいられるためのコツを教えていただけますか?
「私は子どもを未来からの留学生だと思っています。ですから日本を愛し、世界に目を向け、地球を愛してほしい。そのために出来ることを常に探しています。私たち夫婦は可能な限り、海外出張も子連れ。年に2度は家族全員で旅行をするようにしてきました。今年の春休みは9人でペナン島に行きました。
夫婦は、もともと違う家庭で育った同士。つまり結婚は、異文化共生プロジェクト。異論があって当たり前。違いに着目していたら、いちいち腹立つばかりですよね。夫婦の会話は国際会議だと思って(笑)、家庭内ダイバーシティ経営を目指す。合意形成のプロセスなんだとマインドセットすれば、調整のしがいもあると前向きに考えています!
夫婦関係って男女の関係でありつつ、一番長く付き合う人間同士の結びつきでもあり、次世代を育てる両親としての関係でもあり。関係性がバラエティに富んでいて、本来はとても豊かなはずです。時代は常に進化し、家族も夫婦も深化する。社会も変化を続けていて諸行無常ですし、限られた30,000日の人生を、役割ごとに臨機応変に楽しむ意識が、大切ですよね」
キラキラした表情で、愛あふれる素晴らしいメッセージをたくさんくださった大葉ナナコさん。こんなステキなお母さんになれたら......と思わずにはいられないインタビューでした。
大葉さんの新著「キャリアと出産」(河出書房)にも、大葉さんの人柄が伝わるメッセージがたくさんつまっています。できればあらゆる世代の女性たちに読んでほしい、とても意義深い一冊です。
お話を伺った方:大葉ナナコ(おおば ななこ)さんバースコーディネーター。東京都出身。一般財団法人 ベビー&バースフレンドリー財団 代表理事公益、社団法人 誕生学協会 代表理事、株式会社バースセンス研究所 代表取締役、環境省グッドライフアワード、環境省「つなげよう、支えよう森里川海」アンバサダー。Google Women Willサポーター、映画「うまれる」製作メンバー。著書26冊。2男3女の母。現在、社会人大学院生として「就労妊婦のストレス」やオキシトシンを研究中。新著「キャリアと出産」(河出書房)1,400円(税抜)
お知らせ2017年3月8日に、「ベビー&バースフレンドリーアワード」を開催。新しい命を喜んで迎える社会を創るために、女子高校生企業リサーチャーや著名な経営者陣と、産み育て働きやすい企業や自治体、バースフレンドリーなボスや支援者を顕彰します。http://www.bbff.or.jp/