こんにちわ、IT翻訳者&エディターの松本恭です。
今回は、ヨガ行者として有名な成瀬雅春先生に習ったヨガの呼吸法について書いていきます。
呼吸法は瞑想の前にコンディションを整えるためにおすすめです。呼吸法を行うことで、日常的な意識状態から瞑想に向けた意識に一気に移行することができます。わずか数分ですが、効果絶大です。ぜひ試してみてください。
vol.1、vol.2でも触れたとおり、かつて成瀬先生のヨガ教室に3年ほど通っていました。ちょうど職場と家の中間に教室があったので、週に3回ほど通うことができました。
その蓄積は体のどこかに残っており、今でも体調を整えたくなると、自然にいくつかのポーズを組み合わせて体をほぐします。
ヨガに熱中するようになったきっかけは、ヨガをすると生まれ変わったように元気になれたからです。当時は20代後半でしたが、仕事が終わると疲れ切っていて、疲れを取るために毎日お風呂に2時間も入らなければなりませんでした。9時から18時までのオフィスワークで、ゆとりのある職場だったにもかかわらず、いつも疲れて、気分も沈みがちでした。
重い体を引きずるようにヨガ教室に行って、足首回しなどの準備体操に始まり、アーサナと呼ばれるいくつかのポーズ、逆立ち、呼吸法、集中法(瞑想の入口)という一連のコースを終えると、教室に入ってからわずか90分しか過ぎていないのに、踊りだしたくなるほど元気にあふれて、気持ちも明るく晴れ渡っていました。
その変化はものすごく、ヨガをする前と後では完全に別世界でした。言ってみれば、どんよりとした灰色の雲に包まれていたのが一転して、爽やかな青空が広がっているような感覚です。
週に3回もヨガ教室に通っていると、自宅でもヨガに取り組むようになります。毎朝、太陽礼拝(イラスト)という全身を使うエクササイズをしたり、瞑想をしたりしていました。
生活の中にヨガのリズムを入れることで、いつでも軽やかな状態でいることができたのです。
一連のトレーニングのなかでも、とくに気に入っていたのがプラーナヤーマと呼ばれるヨガの呼吸法です。呼吸のコントロールで意識が変化していくのが面白く、さまざまな呼吸法を試していました。
初期仏教の瞑想法にも呼吸法はありますが、ヨガの呼吸法とは異なったものです。非常に大づかみに説明すると、仏教の呼吸法が「あるがまま」を観察するのに対して、一般にヨガの呼吸法ではテクニックを用います。
仏教の呼吸法に関しては、実地で教えてもらわなくても、書籍などを参考にしてもある程度は実践できると思いますが、できればヨガの呼吸法は指導者から教わったほうがいいと思います。微妙なコツがあるのです。
Point!
ヨガの呼吸法と仏教の呼吸法は違う
私は呼吸法の研修にも参加して、成瀬先生からヨガの呼吸法について詳しく教えてもらいました。呼吸法だけではなく、ヨガの指導にも言えることですが、できるかぎり微細に観察するというのが成瀬先生の指導の特徴でした。細かく観察していると、どのように体を使うと、どう意識が変化するのかがだんだん分かるようになってきました。
今も、瞑想を始める前には、「カパーラ・バーティ・クリヤ」(日本語では「頭蓋光明浄化法」)という、腹筋を使ったエネルギッシュな呼吸法を行うことが多いです。一瞬でエネルギー状態が変化し、瞬時に集中した状態に入れるからです。
しかし、カパーラ・バーティ・クリヤは高度なテクニックを使うため、正しい指導者から習わなければ、微妙なコツはわかりづらいと思います。今回は、誰でも実践できて安全かつ心身のバランスを保つために役立つ「スカ・プールヴァカ・プラーナヤーマ」(安楽呼吸法)を紹介します。
成瀬先生が呼吸法の実践のポイントとして重視したのが、「吐くこと」です。
「吐くこと」は「吸うこと」より重要視され、体の浄化のためにも、いったん肺に入った空気をからっぽにしてから、新しい空気を取り込まなければならないと教わりました。必要なものを取り入れるためには、まず不要なものを捨てることで、新たに取り込む余地が生まれるのだと思います。
ヨガのクラスでは、アーサナ(ポーズ)をいくつか練習したあと、数分間の呼吸法の時間がありました。そのとき練習したのが、この「スカ・プールヴァカ・プラーナヤーマ」です。
これは、交互に片鼻で呼吸する穏やかな呼吸法で、誰が試しても安全に実践でき、体やエネルギーの左右のバランスを取るために役立ちます。あるインド人のヨガの先生は、高血圧の改善に効果があると言っていました(成瀬先生は、ヨガのポーズや呼吸法が「○○に効く」という表現はしません)。
スカ・プールヴァカ・プラーナヤーマ(安楽呼吸法)
1 右手の人差指を眉間に当て、親指で右の小鼻を押さえる
2 左の鼻から、ゆっくりと息を吐き出す
3 吐き終わったら、そのまま左の鼻からゆっくりと息を吸う
4 吸い込み終わったら、中指で左の小鼻を押さえて、息を止める(両方の鼻が塞がれた状態)
5 3〜5秒ほどしたら、右鼻を塞いでいた親指を離し、右の鼻からゆっくり息を吐く
6 吐き終わったら、そのまま右の鼻からゆっくりと息を吸う
7 吸い込み終わったら、親指で右の小鼻を押さえて、息を止める(両方の鼻が塞がれた状態)
8 3〜5秒ほどしたら、左鼻を塞いでいた中指を離す
9 合計10回を目安に2〜8を繰り返す
(参考書籍)『呼吸法の極意』成瀬雅春著 出帆新社
私の実感では、この呼吸法を行うと、メンタルが静かに落ち着きます。仕事前に集中するためにも、また寝る前にリラックスするためにもいいと思います。
Point!
リラックスしたり、メンタルバランスを整えるのに効果的
息を止めすぎて途中で苦しくなったりしないよう、最後までずっと同じペースでできるといい感じです。最初は3分で10回の呼吸を目指しますが、慣れてくると息を吸い込んだあと、止める時間を少しずつ長くしていきます。ヨガのクラスでは、皆、非常に深く、ゆっくりと呼吸していました。
やってみると、完全に左右の鼻の通りが同じということはあまりなく、どちらかが詰まっていることが多いことがわかります。季節や日によって、鼻の通りが変化することにも気づくと思います。深呼吸をするので、血行や気の巡りもよくなります。
この呼吸法を続けると、普段でもしだいに左右のバランスを取るよう意識するようになるそうです。左右のバランスをいい状態に保つことで、体のバランスや、体と心のバランスが整うのだと教わりました。
呼吸法にもいろいろな種類があり、中にはエネルギーを高めて圧縮するような技法もありますが、このスカ・プールヴァカ・プラーナヤーマは穏やかに心身を整えてくれる呼吸法です。どんな人にもおすすめできます。忙しくて落ち着かないときでも、数分間で深くリラックスすることができるので、ぜひ試してみてください。
呼吸法は瞑想そのものではありませんが、ヨガでも初期仏教でも、そしてチベットでも、瞑想に向けてコンディションを整えるために用いられます。呼吸は無意識に行われる不随意運動ではありますが、意識的にコントロールすることで情動を変化させることもできる体の仕組みです。呼吸法とは、体をコントロールすることで、メンタルをいい状態に持っていくために役立つメソッドのひとつです。
(参考書籍)『呼吸法の極意』成瀬雅春著 出帆新社
>>第1回「初めて出会った瞑想、なぜ楽しかったのか?」を読む
>>第2回「インドで一番気持ちがいい! ブッダが悟った場所」を読む
>>第3回「インドのヨガの大家に教わった「時短瞑想」」を読む
yoga ,yoga2,via Shutterstock
Photo by Getty Images